十三章 “心帝”クリス
受験勉強の為休載していましたが、大学が決まったので連載を再開したいと思います。これからもスイッチをどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
「えぇぇぇええーーーーー!!!」
幸太郎は驚きのあまり叫び声をあげてしまった。
「あら、現“心帝”は9歳の女の子だって言わなかったかしら?」
フレイヤは首を傾げて言った。
「う、うん。そんな事一切っ聞いてないよ。って、9歳ってことは同い年!?」
それを聞いてクリスは満面の笑みを浮かべた。
「やはりそうなんですね!☆ところで勇者殿のお名前は?」
「あ、佐々木 幸太郎っていいます。」
「ボクは・・・」
ポポが続いて名乗ろうとすると、クリスはポポに冷たい眼差しを向けた。さっきの笑顔とはまるで真逆の汚物でも見ているかのような目だった。
「あなたには聞いてませんわ。」
「ヒ、ヒィ・・・。」
ポポが怯えていると、クリスが咳払いをした。
「では佐々木殿とお呼びしてもよろしいですか?」
「いいですよ。」
「佐々木殿♪」
クリスは子猫のように可愛い顔を笑顔でいっぱいに満たした。
「ハ、ハイ・・・。」
幸太郎はクリスの眩しいほどの笑顔に赤面して俯いてしまった。すると後ろに殺気のようなものを感じて振り返ると、瞳がこっちを睨んでいた。
「大事な話がございますのでこちらの部屋にお入りくださいな☆」
言い終わると、クリスは幸太郎の手を引いて部屋に入ろうとした。不意をつかれた幸太郎は転びそうになった。
「え、あ、ちょっ・・・!」
数歩進むとクリスは急に止まり、幸太郎はクリスにぶつかりそうになった。
「あ、お付きの方々もこちらへどうぞ。」
クリスはそのまま幸太郎の手を引いて部屋の中へ入っていき、他の皆もそれに続いた。部屋の中は大広間のようで、シャンデリアがいくつかと、奥には豪華な装飾のある王座があった。他の物はクリスに手を引かれていたのでよく見えなかった。
クリスは王座の前で幸太郎の手を放して、王座に座って咳払いをした。するとさっきまでとは全く別人のような、まるで魂の抜けたような顔になった。人形のような顔とでも言うべきだろうか。
「では改めて、勇者・佐々木殿とその御一行様、よくぞおいでくださいました。」
クリスが頭を下げると、幸太郎たちもすぐに頭を下げた。
「この度勇者殿を“夢の国”へお呼びしたのは―と言っても、お呼びしたのはわたくしではありませんが―簡単に言えば逆賊、夢幻王を討っていただくためです。夢幻王が何をしようとしているのかをお話しする為にも、まずは聞いておいていただきたい話があります。」
クリスは少し間をおき、再び話し始めた。
「“夢の国”は、かつて創造神である女神様が“真世”の“挫折者”を救うべく創られた、全てが夢でできた世界です。かつてはこの世界の全ての者が夢の力によって何もかもができる世界でした。」
「な、何もかもが・・・!?」
幸太郎は驚きのあまり聞き返してしまった。
「ハイ、願えば今すぐにでも“夢幻王”を殺す事すらできました。女神様は“夢の国”に“挫折者”を呼び、希望を与えていました。しかし、そうするうちに邪悪なる者がこの世界にやってきてしまい、世界は乱れ、その者がこの世界の新たな神となろうとしていました。そこで女神様は自分の分身である勇者を“真世”から呼びました。勇者はその者を龍の姿に変えて封印し、女神様は勇者以外の全ての者の夢を操る力を魔玉として封印しました。そして勇者と勇者の子孫は夢幻王としてこの世界を治めてきました。」
「え?今この世界を治めているのは“心帝”じゃ?」
「そうとも言えますし違うとも言えます。」
「というと?」
幸太郎が聞くと、クリスは少し間を空けて答えた。
「・・・現“夢幻王”はわたくしの父です・・・・・・。」
「え?」
「現“夢幻王”である父は、ある日突然力がいると言って魔玉を集め始めました。言い伝えによると、『全ての魔玉が集まりしとき、世界の全てが手に入る。』・・・父はそれを狙っているのです。それを止めるべく抵抗勢力は“夢幻王”の娘であるわたくしを中心に集まり、父より早く魔玉を集める為の拠点、“夢の城”を建てました。しかし、我々は未だ1つも魔玉を見つけられていない上に、父が今いくつ魔玉を持っているかも突き止められていません・・・。」
そこまで言うとクリスは王座から立ち上がった。
「佐々木殿、どうか父を止めるべくわたくし共にお力添えください。」
クリスは幸太郎に深々と頭を下げて言った。
「いきなりそんな事言われても・・・と言いたいところですが、そうも言ってられない状況みたいですね・・・。分かりました。“夢幻王”は僕が止めて見せます。」
幸太郎は胸を張って言った。
「ありがとうございます!わたくしは佐々木殿がそう言ってくれると信じていました!!」
クリスはそう言って幸太郎に抱きついた。どうやら真面目な話は終わったようだ。
すると扉をノックする音がしてクリスが幸太郎を放して返事をすると、さっきの執事が入ってきた。
「陛下、そろそろお食事の用意ができました。」
「そう。佐々木殿、食事の準備ができたようなので食卓まで案内しますわ!」
―第一部 旅立ち―
その頃、ひとけのない大きな城に1匹のコウモリのような生き物が飛んできた。そこにある広間の1つには2人の男がいた。1人は王座に座し、もう1人は王座に座している男に駆け寄っている。
「“夢幻王”様!“炎の魔玉”が戻ってまいりました!ネンスがやられた模様です!」
「そうか、では予定通りに。」
“夢幻王”と呼ばれた男は一切動じずに答えた。
「はっ!承知いたしました!」
そう言うと駆け寄ってきた方の男は部屋を出て行った。すると広間は途端に静寂に包まれた。しばらくすると、その静寂を“夢幻王”と呼ばれた男が破った。
「勇者、か・・・。」
―終―