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8 インターミッション

 翌日の朝、たかしは珍しく大学に行くことにした。今日は卒論指導教官のゼミがある日だ。さすがのたかしもすっぽかすわけにはいかない。


 昨日の戦いの興奮からか、たかしはやたらと早く目が覚めていた。だらだらと過ごす気分でもなかったため、少し早かったが大学に向かう。


 大学までは自転車だ。うちの大学は駅から離れているため、自転車通学の学生がやたらに多い。大学の敷地を縦に貫く広い歩行者用通路は自転車でごったがえし、一昔前の中国天安門広場のような状態である。


 まだゼミが始まる時間まで三十分ほどあった。書籍部で時間を潰してもよかったが、たかしは気まぐれを起こす。たかしは大学の建物地下にある秘密基地を目指した。


 秘密基地に入ってみると、人間は誰もいなかったがナマポンはいた。


「おや、黄山君、どうしたんですかァァァァァ!」


「なんとなく来てみたんだ。……誰もいないんだな」


「赤沢さんはたまに来ますよォ! 赤沢さん狙いですかァァァァァ!」


 ナマポンの吐いた妄言を無視して、たかしは訊いた。


「ナマポンは何やってるんだ?」


「見ての通り、機材の準備ですよォ!」


 いったいどこに機材があるというのだ。たかしは部屋の中を見回すが、何も見つからない。


「下ですよォ、下ァァァァァ!」


 たかしはナマポンの言葉に従い足下を見て、驚きのあまり声を上げた。


「うおっ! なんじゃこりゃあ!」


 いつの間にやら床がガラス張りになっていて、下に巨大な格納庫が覗いていた。格納庫には、全長二十メートル程度はありそうな巨大ロボットの骨組みが横たわっている。


「戦隊といえば巨大ロボットでしょォォォォォ! だから用意しましたァァァァァ!」


 ナマポンはそう言ってドヤ顔を決める。たかしは尋ねた。


「……ということは、相手は巨大化するのか」


「強制細胞増殖剤も三セットほど持ち出されているらしいんですよォ! 死亡した怪人を巨大化して蘇生される可能性がありまァす!」


 なるほど、お約束通り怪人は巨大化するらしい。ようやくたかしは昨日の赤沢がどうして敵を倒すことを躊躇したのか、理解した。


「巨大化させないために赤沢はとどめをささなかったのか……」


 たかしは下のロボットを見下ろし、首をひねる。


「……でも戦隊なら合体ロボじゃないのか?」


 眼下にあるのはリアル系ロボットの骨組みだけである。合体しない一号ロボなんて、初の戦隊ロボであるバトルフィーバーロボくらいしか、たかしは知らない。二号ロボ以降だって、何かしらの変形はするだろう。


「無茶を言わないでくださいよォ! 全部、こちらの時間でパーツを調達して作ってるんですよォォォォォ!」


「そ、そりゃ大変だな……。でもそこまでやるなら、普通の戦闘機とかでいいんじゃないのか?」


 石ノ森戦隊のゴレンジャー、ジャッカー電撃隊はロボじゃなくて飛行メカだったし。


「そういうわけにはいかないんですよォ。あなた方のニート力を増幅した攻撃しか、やつらには通じませんからァ。だからわざわざ、あなた方のニート力を増幅しやすい巨大人型ロボットを作っているわけでェす!」


「え、そうなのか?」


「そうなのですよォ! でなきゃ、この時代の軍隊や警察に任せますよォ! 最強の拒絶タイプであるあなた方が、最後の希望でェす!」


 警察も自衛隊も、当てにはできない。たかしたちが戦って、勝つしかない。結局未来人の尻ぬぐいというのが気に入らないが、仕方ない。


「未来の人たちがしっかりしてたらなあ」


「まぁまぁ。謝礼は弾みますからァ!」


「言われなくてもやってやるから安心しろよ」


 選ばれし者であるからには、ハッピーエンドまで一直線に行きたいところだ。ヒロインもう一人追加とかないかな。今いるやつをヒロインの数に数えたくない。しかしそんなことを思っているたかしはイエローなので、主人公ポジではないのだった。




 たかしが馬鹿なことを考えていると、部屋のドアが突然開いた。顔を出したのは赤沢である。


「ナマポン、黄山の居場所を……。き、黄山! いたのか!」


「お、おう。たまたまゼミがあってな」


 どうやら赤沢はたかしを捜していたらしかった。たかしは尋ねる。


「何の用なんだ?」


「あ、ああ。昨日のことを謝りたいと思って……」


 赤沢は少し動揺していたが、コホンと咳払いをしてすぐに普段の調子に戻る。


「済まなかった。私が臆病風に吹かれなければ勝てていたのに、申し訳ない。次は必ず私が怪人を倒してみせる。だから許してほしい」


「俺の方こそ、悪かったな。こいつがまだ完成してないって、知らなくてさ」


 たかしは足下の巨大ロボットを指す。


「う、うむ。こいつが完成しなければ、私たちも思いきり戦うことはできない。早くしてほしいものだな」


 赤沢はナマポンに視線を向ける。


「安心してくださァい! 八割方完成していまァす! あとは外装を張るだけですよォォォォォ! ちゃんと赤沢さんのオーダー通りのを用意しましたからァァァァァ!」


「そ、それならいいのだ……」


 ナマポンは何が嬉しいのか空中を無駄に飛び回っていた。赤沢は昨日の件でナーバスになっているのか、うつむき加減のままである。いいお詫びの仕方を思いついた。たかしは赤沢に言った。


「この後、時間あるか?」


「あ、ああ……。親には帰るのは夕方だと言ってある……」


「勉強も大丈夫か?」


 そろそろ追い込みの時期で一分一秒が惜しいのではないかと思うのだが。


「も、問題ない。今年はもう厳しいから……」


「本当にいいのか、それで……?」


 さすがにたかしは顔をひきつらせる。いらないことを訊いてしまっただろうか。


「い、いいのだ! 今の私には世界を守る使命があるから! だ、だから何浪してても関係ない……」


 赤沢はぶつぶつと独り言を続け、自分への言い訳を開始する。


「そうだ、もし東大に行けなかったとしても関係ないのだ……。私の学力じゃ東大が絶望的でも……。私は世界を守る戦士だから……」


 どうも赤沢は東大にこだわりすぎてドツボにはまっているようだ。赤沢の様子がおかしいのは、受験勉強がうまくいっていないからというのも大きいらしい。


 ならばなおのこと、たかしのプランはちょうどいい。たかしは赤沢を誘った。


「じゃあ、ちょっと付き合ってくれよ」

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