4 喋れって言われるけど、陰キャラは大抵黙ってる方がマシなんだよ?
大学の話で白鳥にツッコミを受けまくった赤沢は汗をだらだらと垂らし焦りまくっていた。たかしは過去の自分を思い出して悲しい気持ちになってきたので、話題を変えてやることにする。武士の情けだ。
「白鳥……さん、明日ライブに行くって言ってたけど、何のライブなんだ?」
「チェ・シンスのライブだよ! 『韓王スンヨプ』の日本語版の主題歌歌ってる人! 日本公演は今回が初めてだから、絶対観に行きたいの!」
誰だよ。韓流スターというやつか。主におばさんがはまっているイメージだが、若い女の子にもファンがいるらしい。
ここで赤沢はあからさまに白鳥へと嘲笑を浴びせる。
「ハッ、韓国の文化侵略に踊らされるとは笑止だな!」
「文化侵略って何? 私はシンちゃんが好きだから観に行くだけなんだよ!」
白鳥はさすがにムッとしたようで言い返した。だが赤沢は自信満々に白鳥をけなし続ける。
「テレビばかり見ているから、あんな中身がないのをありがたがるようになるのだ。韓国はテレビ局を買収して韓流をゴリ押ししているのだぞ? テレビでやってるから好きになるなど、猿と一緒だな! 貴様はテレビに騙されている!」
これがネトウヨ脳か……。2ちゃん○るの特定の板だとわりといるタイプだが、リアルで遭遇したのは初めてだ。ガチだとすれば、頭がおかしい。
「何言ってるの。本当にいい曲なんだよ! 向こうの人って日本語の複雑な歌詞は歌えないから、歌詞が単純なの。だから震災のときもそうだったし、どんなときでも最高の応援歌になるんだよ!」
赤沢もアレだが白鳥もわりとバカだった。なんで俺、この二人に挟まれてなきゃならないんだ……。両手に花なのに全く嬉しくない。
「白鳥、もしかして貴様は在日韓国人か? 日本人に謝罪と賠償を要求して生きているのだろう? 日本が嫌なら韓国に帰れ!」
「私は日本人だよ! 韓国好きな人なんて一杯いるでしょ!」
「では竹島はどこの領土だ! 言ってみろ!」
「領土とか関係ないでしょ! 頭が良いからって難しい話しないでよ!」
「やはり毎日キムチとトンスルか? キムチ、キムチ! トンスル、トンスル!」
ちなみに白鳥は、つまみとしてしっかりキムチをオーダーしていた。
「ほんとバカじゃないの!? キムチはおいしいし健康にいいんだよ!」
「なるほど、カプサイシンで脳が破壊されたのだな! このキムチ脳!」
二人の言い合いが小学生並みになってきたので、仕方なくたかしは仲裁に入る。
「おいおい、それくらいにしとけよ。飲み会の席で野球と政治の話は御法度だぜ?」
それが社会人のマナーらしい。ニートでもマナーは守ろうや。
「私は悪くない。在日が日本にいるのが悪いのだ」
至極真面目な顔をして赤沢は言う。自分がどんな政治思想を持つかは勝手だが、それを他人に押し付けるのはやめてほしい。
「あ~もう、やってられない! おじさん、次はカシスオレンジ!」
白鳥はやけ酒モードに入り、赤沢はますます暴走する。
「神国日本に小汚い朝鮮人が出入りしていること自体、おかしいのだ。日本の資本で近代化してやったというのに、その恩を仇で返す。これだからキムチで脳細胞を破壊された劣等民族は困る。貴様もそう思うだろう、黄山?」
「ハハハ、どうだろうな……?」
たかしは適当に笑ってごまかした。一応大学で国際政治学を専攻しているたかしには、赤沢の幼稚なナショナリズムは失笑モノでしかない。ナショナリズムが全面的に悪だというわけではないが、レッテル貼りと罵詈雑言の連呼では何の議論も始まらず、学問にならない。しかし昔のたかしがそうだったように、こういう手合いには何を言っても無駄だ。
嘘を嘘と見抜けない人にネットを使うのは難しい。赤沢は白鳥をテレビに騙されているなどと非難していたが、当の本人はネットに踊らされている。全部が全部嘘ではないのだろうが、ネット民のほとんどは半分プロレスでやっていると思う。なんでこんなに必死なんだろうね、この子……。
「やつらは日本に迷惑を掛けているという自覚がない。根本的に文化が違うのだろうな……。これだから恨の文化は……」
うん、ニート戦隊に選ばれるほどニートやってる俺らの方が日本に迷惑掛けてるんじゃないかな?
結局その後、ずっと赤沢のターンが続いた。白鳥は途中で爆睡を始め、たかしだけが延々と赤沢の独演会を聞かされた。空気読めないを通り越してほとんどガ○ジだぞ、こいつ。