41 ニートの末路は誰も知らない
「黄山! どこにいる!?」
夜が明け、昼になってからようやく、赤沢はベッドで目を覚ました。たまらずホテルから飛び出し、赤沢は叫ぶ。しかし、答えなど返ってくるはずがない。もうたかしは怪人たちと戦っているのだろうか。
焦りながら赤沢は秋葉原の町を意味もなく駆け回る。ナマポンも呼んでみたが、返事はなかった。いったいたかしはどうなったのか。
「黄山のいない未来なんて考えられない……! 私はどうすればいい……!」
無力感に苛まれながら、赤沢は駅方面までやってくる。ひょっとしたら地元に帰ったのかもしれない。蜘蛛の糸にすがりつく思いで赤沢は駅を訪れるが、駅前の街頭ビジョンで求めていた答えを得た。
『……岩舟山採石場跡で起きた大規模な爆発事故により、山崩れが発生し、付近の住民は……』
街頭ビジョンで流れる臨時ニュースには、現地の映像が映っている。土砂をひっくり返したかのようにグシャグシャになった採石場跡で、〈無職大将軍〉の残骸と怪人のバラバラ遺体が派手に燃えていた。
たかしは戦って、勝ったのである。そして、死んだ。赤沢はその場でがっくりと膝をつく。
「黄山のバカ……! ヒーローになっても死んだら終わりだと言っていたのに、自分が死んでどうする……!」
全く実感はないのに、とめどなく涙が溢れた。ニート戦隊になって以来、常にたかしは赤沢を導いてくれていた。いったいこれからどうすればいいのか、わからない。不安で不安で、気が狂いそうになる。
それでも赤沢は涙を堪えて立ち上がった。
「黄山のためには、私がしっかりしなければ……!」
赤沢は自分のお腹をさする。ここには、たかしと赤沢の子どもがいるのだ。子どもを守れるのは、もう赤沢だけである。
とりあえず、人が少ないところに逃げよう。人気のない路地裏に逃げ込みながら赤沢は決意を新たにするが、そんなことは関係なく危機は訪れた。
「赤沢さん、こんなところにいらっしゃいましたかァ」
今になってナマポンが現れる。ようやく赤沢の要請に応えたのだろうか? そうではなさそうだ。ナマポンの背後には十数人の警官がいた。警官たちは一様に目の焦点が定まっておらず、何らかの手段でナマポンに操られているのだとわかった。
赤沢は身を固くしながらナマポンに尋ねる。
「……いったいどういうことだ? 私たちを裏切ったのか?」
「ボクも気が進まないんですよォ。こんなことをするのはァ。でも、仕方がないんでェす。ボクらの未来が消えてしまいそうになってますからァァァァァ!」
ナマポンはいつものテンションで言う。赤沢には皆目理解ができない。
「何を言っているのだ? 黄山がニート撲滅団は倒したのであろう? 未来の危機は去ったのではないのか?」
もうニート撲滅団に殺される者はいない。未来はたかしが守った。なぜ、ナマポンは警官たちを連れて赤沢の前に現れる?
「そんなことは、もうどうでもいいんですよォ。問題は、黄山君と赤沢さんの子どもにあるのでェす!」
「黄山が死んだのに、どうでもいいとは何事だ!」
赤沢はどうでもいい部分に反応して怒る。赤沢のあずかり知らぬ事であるが、ナマポンは視聴者に解説するため、冷静に話を進める。
「赤沢さんも黄山君も、未来には何の影響も及ぼせない存在です。だからボクはあなたたちをニート戦隊に選びましたァ! でも、あなたたちの子どもは違うんですよォ! 赤沢ひろし君は世界を変革する力を持った、未来を変える存在なのでェす!」
「私と黄山の子どもが、未来を変える……?」
ようやく赤沢は事態を飲み込んだ。赤沢のお腹の子どもは、成長すると未来を変えるほどの大人物となるのである。赤沢の子どもがいると、現在からナマポンのいる未来につながらなくなるのだ。だからナマポンは、赤沢の子どもを狙って警官を連れてきた。
「いやァ、バタフライエフェクトって恐ろしいですねェ。こういうのを鳶が鷹を生むっていうんでしょう? 次はもうちょっと気をつけますよォ。というわけで赤沢さん、大人しくピルを飲んでくれませんかァ? ボクも赤沢さんに乱暴なことはしたくないんですよォ。これでもあなた方のこと、気に入ってますからァァァァァ! 今ならまだ間に合いまァす!」
ナマポンに脅迫されるが、赤沢は屈しない。ナマポンの最後通牒を赤沢は突き返した。
「断る。黄山が残してくれた未来を、奪われるわけにはいかない。変身!」
赤沢は気合いを入れて赤い腕時計の針を逆回しに回すが、何も起きなかった。
「残念ながらその時計はただの飾りになってますよォ。戦いは終わりましたからァァァァァ!」
「だったら私は、自分で手に入れた力を使う!」
赤沢は昨日警官から奪った拳銃を取り出し、構える。まだ弾は残っていた。迷わず引き金を引き、ナマポンを撃つ。銃弾はナマポンの額を貫くが、ナマポンは全く平気な顔をして笑っていた。
「怖いですねェ。でも、あなたにボクを傷つけることはできませェん! さァ、皆さん、この子を捕まえちゃってくださァい!」
ナマポンの号令に従い、警官たちは赤沢に掴みかかる。警官に射殺命令を出さなかったのはナマポンの優しさだったが、赤沢は気付いていない。赤沢は容赦なく発砲して、次々と警察官に傷を負わせる。返り血を浴び、たちまち赤沢は血まみれになる。
赤沢に満ちていたのは謎の全能感と後ろ暗い興奮だった。赤沢はどこか動きが鈍い警官たちから拳銃を奪っては撃ち、血の雨を降らせる。
「負ける気がしない……! お腹の子のためなら何でもできる……! 母になるとは、こんな素晴らしいことだったのだな。ありがとう、黄山。黄山のおかげで私は今、なりたい自分になれている……!」
「どちらかというと武器を持って人を傷つけたせいで興奮しているっていうのが大きいですねェ。後、自分の子どもが大人物になるっていう情報で自己承認欲求が満たされています。これが充実感の正体ですよォ。余計なものを捨てて、現実を見つめて、その上で生きる。どうしてできないんでしょォねェ」
派手に暴れる赤沢を見ながら、ナマポンは嘆息した。
「黄山君は、最後に一番努力してればよかったって言ってましたよォ? 一足飛びで美味しいところだけもらおうとした結果がこれだということを、自覚してほしいですねェ。やれやれ、友情・努力・正義がない戦隊ってコンセプトだったんですけど、やりすぎちゃったかなァ」
銃声はしばらく響き続け、やがて静寂が訪れた。
次のエピローグで終了です。




