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40 最後はロボがぶっ壊れるのが美学

 前回と同じくどこぞの採石場に、たかしが乗った〈無職大将軍〉は出現する。モニターに映るのは金色の鎧で身を固め、巨剣を構えたニジヨメン。マスクは修復されており、ダメージがリセットされていることがわかる。等身大で戦ったときより手強くなっているに違いない。


 たかしは〈無職大将軍〉に刀を構えさせ、慎重に距離を測る。先ほどのような小細工はもう通用しないだろう。正々堂々、真正面から打ち倒す。コントローラーを握ったたかしの手は緊張で汗に濡れた。


 ニジヨメンはしばらくは動かず、たかしを観察していたが、いきなり乱暴に斬りかかってくる。たかしは慌てて回避した。


「ガアアアッ!」


 等身大のときとはうって変わって、理性を忘れたようにニジヨメンは暴れる。どうにかたかしは刀で剣を捌き、防御に徹しながら隙を伺う。


「そこだ!」


 たかしは格ゲーで鍛えた勝負勘を頼みに、ニジヨメンが剣を振った直後に突きをねじ込んだ。この攻撃を起点に連続攻撃を叩き込んで、勝負を決めてやる。


 しかしたかしの目論見ははずれた。〈無職大将軍〉の一撃を受けてもニジヨメンは身じろぎ一つせず、剣を振り回して攻撃してきたのだ。


 装甲から火花が散り、コクピットが大きく揺れる。たかしは目の前の机に寄りかかりながらもコントローラーを手放さず、反撃を試みる。


「うおっ! だったら!」


 たかしはすかさず複雑なコマンドを入力し、カウンター気味に必殺技を放つ。


「無職両断! 豪炎唐竹割り!」


 たかしの叫び声とともに〈無職大将軍〉は炎を纏った刀を振るう。刀は吸い込まれるようにニジヨメンの胴に叩きつけられるが、ニジヨメンは微動だにしない。〈無職大将軍〉の刀はニジヨメンの鎧に傷一つつけられず、やがて刀を覆う炎は消える。


「アアアアアッ!」


 たかしの攻撃はニジヨメンの怒りに火をつけたようで、ニジヨメンは剣を滅茶苦茶に振り回して〈無職大将軍〉を滅多打ちにする。〈無職大将軍〉の装甲が破壊され、左腕が切断された。コクピット内にもなぜか火花が散り、たかしの変身が解除される。


「クソッ……! どうすればいい……!」


 視界を覆わんとする血を拭いながら、思わずたかしはつぶやく。ここまでたかしの攻撃は一切通じず、逆にニジヨメンの攻撃は有効打ばかりだ。打つ手がない。腐った芋羊羹でも食べさせればいいのか?


「大丈夫。黄山君なら勝てますよォ」


 ナマポンは気休めを言った。たかしは声を低めて応じる。


「そうだな。今日の俺はヒーローだからな。おまえらの番組のな……!」


「……どういう意味ですか?」


 ナマポンが返事を返すまでの一呼吸で、コクピットの温度が十度くらい下がった気がした。ナマポンはすっとぼけるが、たかしは今の反応で確信する。


「ニート撲滅団とやらと、おまえらがグルだって言ってるんだよ。俺たちは見世物なんだろ?」


「いつから気付いてたんですかァ?」


 もはや開き直ったのか、ナマポンは普通に訊いてくる。たかしは憮然とした顔をして答えた。


「こんだけお膳立てされりゃ、嫌でも気付くだろ。さっきも俺に内緒で、俺を強化してただろ」


 いくらたかしに気合いが入っていても、全ての固有武器の必殺技を使えるなんて虫がよすぎる。前回の戦いでほとんど破壊したニジヨメンのマスクを材料に使い、〈無職大将軍〉を動かすときと同じ理屈で、たかしのニート力をブーストしていたのだろう。あるいは、ニート力云々の説明が全てでたらめで、ナマポンはたかしたちの強さを自在に操れるのかもしれない。


「さすがにあからさますぎましたかねェ。まぁ、許してください。再利用ですよォ。黄山君のせいでェ、一年後に黄山君のお母さんと妹は首をくくって死ぬ予定だったんですからァ。この素晴らしい人間ドラマを、数万人の視聴者が固唾を飲んで見守ってるんですよォ」


 だいたい、ラスボスがたかしの母と妹という時点でできすぎなのだった。青松だって死の間際には自分たちが何らかの見世物であることに気付いていた。例えるなら、たかしたちはグラディエーターだったのである。ニートであるが故に未来に影響を与えないたかしたちは、未来人の玩具として弄ばれていた。


「赤沢がおかしくなってたのも、おまえらのせいか?」


 たかしの質問に対し、ナマポンはふるふると首を振る。


「いえ、ボクたちはあなた方の精神に介入したことはありませェん! 赤沢さんはガチで黄山君のことを大好きになってますよォォォォォ!」


「……そうかよ」


 ホッとしたような、赤沢の頭が心配なような、複雑な気分だ。しかし洗脳でないのなら、たかしが赤沢の前から消えれば赤沢は目を覚ますだろう。たかしのことなんて忘れて、罪を償ってくれればいい。赤沢には未来があるのだ。


 同時に自分勝手だが、たかしの子どもは産んでほしいと思う。赤沢にとって重荷になるであろうことは想像に難くない。それでも子どもの存在は、唯一たかしがこの世に生きた証となるはずだから。たかしには他に何もない。


 この戦いに勝つことが、最後に残されたたかしの仕事だ。たかしはナマポンにズバリ訊いてみる。


「俺はどうやって勝つ予定になってるんだ?」


「赤沢さんの愛の力で勝つっていうのはどうですかァ?」


 ろくでもないことを言うナマポンに、たかしは素面で返す。


「無理だな。俺、赤沢のこと大して好きじゃないし」


「素直じゃないですねェ。では、こういうのはどうですかァ?」


 モニターの端にコマンドリストが表示され、一番下までスクロールされる。隠しコマンドが解禁され、リストの一番下に「自爆」という技が現れる。


 たかしは鼻で笑う。


「だめだな。俺の強さが視聴者に伝わらない」


 たかしは、そんな潔く散るキャラではない。もっと汚い花火を打ち上げてやる。


 とはいえ、素晴らしい名案なんてたかしには思いつかなかった。たかしがこの瀬戸際にやれるのは、コマンドリストに表示された技を片っ端から当てていくことだけである。一撃でニジヨメンを倒せないなら、何度も攻撃をぶち込むしかない。


「ガアアアアアアッ!」


 幸い、かつての理性をなくして暴れるだけの怪物と化した妹には、隙が多かった。今度一発入ったら、連打連打で反撃の暇を与えず押し切る。


「知ってるか? 俺、一人でやる格ゲーなら嫌いじゃないんだぜ?」


 だから、一人で〈無職大将軍〉のトレーニングゲームもそれなりに極めた。ナマポンは嘆息する。


「知ってますよォ。ここのところ無駄に打ち込んでましたからァ」


 ここ数日の現実逃避で、もはや体がコマンドを覚えていた。ちゃっかり自己流のコンボも開発している。流れるような動きでボロボロの〈無職大将軍〉はニジヨメンが大振りの攻撃を放った後にローキックから入り、刀を持ったままの殴打、膝蹴り、斬撃と攻撃をつなげていく。


 さすがのニジヨメンも反撃を加えることはできず、守りに入る。たかしは止まらない。ひたすらボタンを連打し、やがて攻撃は連続の必殺技へと移ってゆく。


「無職撲滅! 豪炎撞木ぞり!」


「無職昇天! 豪炎つばめ返し!」


「無職滅殺! 豪炎鵯越の逆落とし!」


「無職斬殺! 豪炎菊一文字!」


 〈無職大将軍〉は投げ技で空中に放り上げたニジヨメンに、連続で剣技を叩き込む。ウメハラでもここまでのコンボはできないに違いない。空中で身動きがとれないニジヨメンは、為す術もなく刀を使った必殺技を立て続けに喰らい、ついに身を守る鎧を砕かれる。


「凄いですねェ、黄山君! ここまで〈無職大将軍〉を使いこなせるのは、想定外ですよォ! これが愛の力ですかァ!?」


 興奮した口ぶりのナマポンに、指を動かし続けながらたかしは冷静に言った。


「いや、努力の力だな。最初から、普通に努力してればよかったんだ」


 この数日間、一日十二時間以上トレーニングゲームをやっていたのだ。そりゃあ、実戦でもできて当たり前である。ここまで一つのことをやったのは、受験勉強のとき以来だった。最後にたかしを救ったのは、努力だったのである。


 きっと、これぐらい真面目に勉学や就活に打ち込んでいれば、たかしはこんな目に合わず済んでいたのだ。ヒーローにはなれなくても一般人にはなれていただろう。能力がなかったわけではなかった。時間がなかったわけでもなかった。ただ、やる気がなかった。


 今になってようやく自覚する。たかしはあまりにも甘ったれていて、世の中を舐めていた。母にも妹にも、死んだ父にも申し訳ない。しかし今さら後悔しても遅すぎる。もう何もかもが手遅れで、間に合わない。


 後悔と焦燥感を打ち消すように、たかしは最後の技を繰り出すべく叫ぶ。


「これで終わりだ! 豪炎村正ロケッター!」


 〈無職大将軍〉は炎を纏った刀を豪快にニジヨメンに投げつける。刀はニジヨメンの鎧を貫き、ニジヨメンを爆散させた。爆風の直撃を受けたボロボロの〈無職大将軍〉は操縦系統が完全に破壊され、機能停止する。電源まで落ち、暗くなったコクピットでたかしはつぶやいた。


「見たか、ジュン。俺はやればできる子なんだぜ……?」


 たかしの人生に意味はあったのだろうか。多分なかったのだろう。ニート撲滅団は倒したが、何かを守れたわけじゃない。未来に影響を及ぼさない範囲で、踊っていただけだ。未来で数万人の視聴者は喜んだかもしれないが、たかしには関係ない。


 何かを残せたかというと、何も残っていない。赤沢との子どもがいるといっても、だからどうしたで済んでしまう。自分の遺伝子を後世に残したら意味があるのか? 自分が死んだら無に帰るのに?


 そもそも、冷静に考えて赤沢が産むと考えるのがおかしい。今は舞い上がっているが、冷静に考えれば堕ろすという結論に行き着くだろう。赤沢が、一人で子育てなんていう重みに耐えられるとも思えない。もし産んでも不幸になるだけだ。


 でも、今はなぜか晴れやかな気分である。母と妹を殺し、責任をとることができたから。無駄にゲームに打ち込んだ努力が報われたから。最後まで戦って勝利し、ヒーローっぽい感じになれたから。


 全て、笑ってしまうほどに自己満足である。これでいいなんていえない。意味があるかないかでいえば、確実に意味がない。でも、これを得るためにたかしは戦っていたのだ。つまらないプライドを満たすために。


「赤沢、生きろよ……」


 何もなかったとしても、生きていることに意味がある。何かを為さなければならないという焦燥感や、凄い人間でなければならないという見栄なんて、必要なかった。ただ、前を向いてまっすぐ歩いていけばよかった。


 〈無職大将軍〉は限界を迎える。〈無職大将軍〉は電気系統から引火して大爆発を起こし、命の答えに辿り着いたたかし共々この世から完全に消滅した。

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