3 説明会→飲み会 なんとなくリア充っぽい
ニート撲滅団。その始まりは、三十世紀の未来で開発された就業支援システムだった。千年後の未来でもニートは存在し、社会問題となっていたのだ。当初のシステムは、マスク型のデバイスをかぶるとやる気が湧いてくる、というものだったらしい。
しかしシステムは暴走した。マスクをかぶると、ニートを殺害したくなるようにプログラムが改竄されていたのだ。ニート撲滅過激派による犯行だったらしい。
未来においては、マスクは即座に回収されて事なきを得た。ところが過激派はニートの遺伝子を撲滅するという目的でマスクの一部を過去に送っていた。
「このとき送られてきたマスクがこの時代で誰かにとりついて、ニート撲滅団を結成したのでェす!」
マスクを回収しなければ歴史が変わり、ナマポンの三十世紀に繋がらなくなってしまう。また狙われるのはニートなので、たかしたちは生命の危機だ。しかし三十世紀人が直接この時代に乗り込むと歴史への影響が大きすぎるため、ナマポンとニート戦隊みんな死ぬンジャーへの変身システムを送り込んだというわけである。
歴史への影響を抑えるため、変身システムの数は四つに限定され、サポートもナマポンだけしか送れなかった。変身システムはニート撲滅システムを改造して用意したため、筋金入りのニートほど高い戦闘力を発揮できる。
「さァ、選ばれし戦士の皆さァん! 一緒にニート撲滅団を撲滅しましょォ!」
ナマポンはハイテンションに説明を終えるが、反応は薄い。皆、ニートになるくらいなのでシャイなのだろう。
まず、ツッコミを入れたのは青松だった。
「つまり俺らは、君たちが未来でやらかした尻ぬぐいをさせられるってわけ?」
ナマポンはあっさり認めた。
「そうなりますねェ。でも、べつにいいじゃないですかァ。それなりの謝礼は用意しますからァ」
「……そりゃ俺としてはレリック作れるだけの金を稼げるならいいけどさ」
金をちらつかされて青松は黙った。続いて白鳥が言う。
「私、忙しいからあんまり長いこと拘束されるのは困るんだけど。舞台もライブも行けなくなっちゃうじゃない!」
一応、自分の生命も危機に晒されているのだが、白鳥はわかっているのだろうか。
「招集は不定期ですよォ。これは人類の危機なのれす。多少は我慢してくださァい!」
「本当に困るんだけどなぁ……。でも仕方ないかぁ」
ナマポンに説得され、白鳥は不承不承といった様子で引き下がった。しかし本当に人類の危機なのだろうか。ニートが何人死のうが、世界は何も変わらない気がする。
「何にせよ、戦えるのはもう私たちだけだ。そうなのだろう、ナマポン?」
赤沢の質問にナマポンはうなずいた。
「はい。認証は終わっているので、他の人間は変身システムを使うことができませェん!」
「ならば私たちでやるしかない。四の五の言ってないで、戦うのだ!」
赤沢は無駄にはりきっているようで、そう言って場をしめた。
説明会が終わった後、赤沢の提案で飲み会を開くこととなった。どこかいい店を知らないかと赤沢に訊かれたので、たかしは大学一年の頃知り合いに連れて行ってもらった居酒屋に皆を案内する。
青松だけは「早くヴィレに帰らないといけないから」と帰ってしまった。おまえが現実に帰ってこいといいたい。おかげでたかしは女子二人に囲まれ、半端ないプレッシャーを感じている。二次元なら小躍りして喜ぶところだが、三次元は一筋縄ではいかない。
居酒屋はすでに暇な大学生がたむろして混み合っており、たかしたちはカウンターに案内された。たかしの右側に赤沢、左側に白鳥が着席する。
「えっと、何にするんだ?」
たかしはまず発案者である赤沢に尋ね、お品書きを渡した。まず飲み物を注文しなければならない。とりあえずビール、とかそんなノリになるんだろう。トラウマが甦って心が重くなる。
予想に反して、赤沢はノンアルコールのページを見始める。
「私はまだ大学生ではないからな。アルコールは遠慮しておこう」
「え、おまえ未成年だったのか」
たかしは少し驚く。自分と同じくらいに思っていた。赤沢は少し不機嫌そうに声を低めて言う。
「今年で二十二歳になる。私は浪人しているのだ」
まさかの四浪だった。医学部でも目指しているのだろうか。赤沢の年齢を知り、白鳥ははしゃぐ。
「じゃあ私と同い年だ! ガンガン飲める歳じゃん!」
「そうか。私は決めたので、白鳥も決めるといい」
そっけなく赤沢はお品書きを白鳥に回す。たかしは白鳥の後に注文するものを決定し、店員を呼んだ。
白鳥、たかし、赤沢の順にオーダーする。
「私、梅酒のロックで!」
「……俺、ウーロン茶」
「私も、ウーロン茶」
「えぇ~! みんな飲まないのぉ~!」
白鳥が声を上げる。たかしは顔をひきつらせながら頭を掻いた。
「いや、俺弱いんだよ……」
たかしは下戸なのだ。一杯飲めば嘔吐してダウンしてしまう。赤沢も飲む気がないようだし、ここは回避でいいだろう。飲めもしないのに、どうして飲み会などと赤沢は言ったのだ。食事会、とでも言ってくれれば楽だったのに。
「よくわからんが、大学生といえば飲み会なのだろう? 遠慮せずに飲めばいい」
赤沢は真顔で言った。じゃあおまえが飲めよ。
「……まぁいいわ。食べ物、適当に注文するね!」
気を取り直して白鳥は唐揚げやらサラダやらを注文し始める。決めてくれるのはありがたい。赤沢は当てにならないし、たかしも「適当に」の加減がわからない。飲み会なんて人任せで自ら何かしたことなどなかった。
すぐに飲み物は出てきた。「じゃあ乾杯しょっか!」と白鳥が音頭をとり、乾杯する。白鳥がいてくれて本当に助かる。たかしは何もできず地蔵となり、赤沢も仏頂面で座っているだけだった。
たかしもただ黙っているわけにはいかないので、白鳥に話しかけてみる。
「えっと、白鳥さんも大学生なのか? ひょっとして俺と同じT大学?」
「ううん、違うよ。今は中退して、自分捜しの最中!」
「どこの大学だったのだ?」
赤沢も話に乗ってくる。白鳥は答えた。
「IC大だよ! やりたいことと違ったから、辞めちゃった!」
県北のFラン大だった。それを聞いて、赤沢がフフンと笑みを浮かべる。
「聞いたことがない大学だな? 偏差値はどれくらいだ?」
「さぁ? 私は推薦で入ったからよく知らない。50くらいじゃない?」
多分そんなにない。学部によるが、40台前半だろう。しかも推薦となると、白鳥本人の学力はそれ以下ということである。というか、推薦で入って辞めるなよ。指定校推薦取り消されて、後輩に迷惑掛かってるぞ。
「私は東大を目指している。東大以外大学ではないというからな」
赤沢は嫌らしい笑みを浮かべながら発言する。まだ受かってないのに、どうしてそんなに偉そうなんですかね……。
白鳥は無邪気に驚く。
「そうなんだ、すごいね! どこの学部目指してるの!?」
「ぶ、文科三類だ」
白鳥の質問になぜか赤沢は口籠もる。いくら東大でも文系で四浪はさすがにどうなのだとたかしは思ったが、口には出さない。赤沢が気まずそうな顔をしているのにも気付かず、白鳥はさらに質問した。
「ふ~ん、それって何する学部?」
「そ、それはだな……。二年生まで教養学部なので、まだわからないのだ!」
東大は二年まで全員教養学部で、三年以降に専門の学部に進むというシステムだ。赤沢が目指していると言った文科三類は、確か文学部やら教育学部やらに振り分けられる学科だったと思う。
白鳥は首を傾げる。
「えっ、自分で選べるんじゃないの?」
「せ、成績も加味されるので、わからないのだ!」
文科三類は東大の文系で一番難易度が低いところだったような気がする。どうも赤沢は東大に入るのが目的になっていて、東大で何をするのか全く考えていなかったらしい。他に何も取り柄がなく勉強しかできない受験生にありがちな現象である。そんなんだと入学できても大学に行かなくなるんだぞ、俺みたいに。