34 ニート、逮捕!w
それから数日は平和だった。二人の怪人は傷を癒しているのだと思われる。たかしも好きなようにすることができる。
たかしはもっぱら、〈無職大将軍〉の操縦トレーニングゲームをして日々を過ごした。ナマポンに頼んで家でやれるようにしたのだ。秘密基地には行きたくない。家に引き籠もっていたい。でも、意味のあることをしたい。ゲームをしていれば、ぐちゃぐちゃの頭を軟化させて何も考えないよう溶かすことができる。
その日、大学に行く日ではなかったので、たかしは例によってずっと〈無職大将軍〉のゲームをしていた。赤沢とはずっと連絡をとっていない。メールは何度か来ていたが、全て無視した。そろそろ何かやらかしそうで怖いが、気にしないことにしよう。赤沢のことを考えると吐きそうになる。
ゲームに疲れたたかしは一旦休憩することにして立ち上がり、ダイニングの椅子に座ってボォッとする。たかしの目は机の上に放り出したままの睡眠薬を吸い寄せられた。そういえば赤沢の家から失敬したきり、返していない。このところずっと眠れないが、これを飲めば眠れるだろうか。ハルシオンは即効性があると聞くし。
いや、でも医師の診察もなしに飲むのはなあ、などと考えていると、いきなり玄関のチャイムが鳴った。いったい誰だろう。赤沢かもしれない。慌ててたかしはハルシオンのアルミシートをポケットに突っ込んで隠し、玄関に向かった。
たかしは玄関のドアを開けて驚く。玄関前にいたのは、数人の警察官だった。警察官はたかしに警察手帖を見せ、尋ねた。
「黄山たかしさんですね? 平田浩介さんのことについてお訊きしたいのですが、よろしいですか?」
「ヒラタコウスケ……? 誰ですか?」
たかしは首を傾げる。全く記憶にない名前だった。
警察官は顔色一つ変えず答える。
「先日のT駅崩落事件の現場で、遺体で発見された男性です。ニュースとか見ていませんか?」
「ああ……。そんな名前だったっけ……?」
そういえばデモシカシ一号の素体は、遺体となって崩壊した地下鉄に置き去りとなっていたのだった。
しかし、なぜそれをたかしに訊いてくるのだ。国営セコムはよっぽど暇なのか。おまえらは上級国民だけ守ってろよ。世界の平和は俺が守るから。
警察官は続ける。
「平田氏の死因は絞殺で、殴打された後もありました。心当たりがあるでしょう?」
「ハァ……?」
事態をよく飲み込めないたかしは間が抜けたような声を出す。
たかしはデモシカシ一号を倒したときのことを思い出してみる。たかしは集中砲火を受けてスーツの装着が解除されながらも生身のままデモシカシに接近し、斧で殴打した後まだ息があったので首を締めて殺した。あれ……? これってひょっとして……? 俺、疑われてる?
ようやく事態の深刻さを理解し、たかしの顔から血の気が引く。警察官は畳みかけるように言った。
「あなたが処分した服に付着した血液を鑑定した結果、平田氏のものであることが判明しました。また、平田氏の体からはあなたの皮膚の一部が検出されました」
これでも言い逃れしますか? そう言わんばかりの剣幕で警察官は迫る。頭が真っ白になり、足が震えた。たかしは辛うじて声を絞り出す。
「これ、任意同行ですよね? 拒否します」
ここはいったん部屋に逃げて、ナマポンに助けてもらおう。ナマポンだってたかしがいなくなれば困るので、助けてくれる……と思う。
「いえ、逮捕状が出ています」
警察官はたかしに逮捕状を見せる。こんな紙切れ一枚で、たかしの身柄は拘束されるのか。
「十五時三十二分、被疑者を確保」
時計を見ながら警官は言って、たかしの両手に手錠が掛けられた。銀色に光る手錠は冷たくて、重い。たかしは腰を抜かして、その場にへたり込んだ。
「違う……俺じゃない。最初から死んでたんだ……!」
うわごとのようにたかしは主張するが、警官たちは聞く耳持たない。
「ほら、立て!」
警官たちに無理矢理立たされ、たかしは連行される。アパートの前には何台ものパトカーが駐まっていて、何事かと野次馬が集まっていた。これはいけない。連れて行かれたら、一巻の終わりだ。拷問されて自白を強要されるとネットに書いてあった。
たまらずたかしは叫んだ。
「助けてくれ、ナマポン!」
「本来私は介入しないのがルールなんですけどねェ……」
ぶつくさ言いながらもナマポンは現れ、派手にフラッシュを炊いたときのようなまばゆい光が辺りを包んだ。気付けばたかしは自分のアパートから十数メートル離れた路上に出現する。
「変身は許可しませんよォォォォォ! 後は自分でなんとかしてくださァい!」
そう言い残してナマポンは消える。たかしの手からは手錠が消失していた。ここは逃げるが勝ちだ。たかしは全力ダッシュでその場を離れた。




