32 敵の正体
翌日、ナマポンが現れて敵の反応があったと報告してきた。場所を訊くと、すぐ近くの空き地だった。
「なんでこんな何もないところに出てくるんだよ……」
寒空の中、赤沢とともにボォッと突っ立っているたかしは思わず愚痴る。そもそもこんなところにニートはいないだろう。
「いやァ、いるじゃないですかァ、あなた方二人がァァァァァ!」
「……」
何が楽しいのかナマポンはたかしの周りをフラフラと飛び回る。こいつ、ひょっとして向こうとグルなんじゃないだろうか。
たかしがそう思っていると、たかしたちの前にニジヨメン、ムダメシンが現れた。今日はハロワーンを一体も連れていない。ニジヨメンの能力をフルに使うためだろう。二対二で、正々堂々やり合うのだ。
「ニート戦隊、許すまじ……!」
ムダメシンは鼻息を荒くして、ニジヨメンも言い放つ。
「今日こそ決着をつけさせてもらおう!」
「望むところだ!」
たかしはニジヨメンの言葉に応え、赤沢とともに変身する。
「「変身!」」
「終わらないたった一人の受験戦争! 私が受からないのは在日が悪い! ルサンチマンの戦士、ネトウヨレッド!」
「親に迷惑なんのその! 就活はとうの昔に捨てた! モラトリアムの戦士、留年イエロー!」
「「二人揃って、ニート戦隊みんな死ぬンジャー!」」
二人の背後で、赤と黄の爆煙が上がる。随分寂しい演出である。四人いたニート戦隊も、たった二人になってしまった。白鳥と青松のためにも、絶対勝つ。
作戦会議で決めたとおり、今回は赤沢が前に出るフォーメーションで挑む。赤沢は課金無双ライフルを乱射しながら駆ける。たかしは家事手伝いアローで赤沢を支援した。
ニジヨメンとムダメシンの作戦は変わらない。ムダメシンが前に出て盾となり、後方からニジヨメンが爆発によって攻撃してくる。
「はああああっ! 愛国無罪ソード!」
赤沢は左手の課金無双ライフルを撃ちまくりながら、右手に愛国無罪ソードを呼び出す。どちらも片手で使える武装なので、この組み合わせなら両方一辺に使えるのだ。
左手だけで撃つ課金無双ライフルの照準はまるででたらめだが、牽制には充分である。プラス、たかしが家事手伝いアローで正確な射撃を混ぜてくるので敵は気を抜けない。
やがて赤沢はムダメシンに取りつき、愛国無罪ソードで斬りつけながら課金無双ライフルのゼロ距離射撃を見舞う。ムダメシンの巨体が揺らいだ。
ニジヨメンは指を鳴らし、ムダメシンを巻き込む覚悟で赤沢の周囲で大きな爆発を起こす。しかし赤沢は止まらない。狂ったように剣を振り、引き金を引き続ける。ムダメシンは長い鼻を振り回し、牙を突き出して赤沢を突き放そうとするが、全く効果はなかった。攻撃を受けて赤沢はひどく興奮している。
この機を逃すわけにはいかない。たかしは矢を放ちながらニジヨメンに接近する。
「おまえの相手はこの俺だ!」
「クッ!」
接近戦用に用意したのだろう、ニジヨメンは腰に下げていた剣を抜き、たかしを迎え撃つ。たかしは自主休講アックスに装備を交換し、殴り合いに持ち込む。
こうなればこっちのものだ。たかしにはスピードはないが、パワーがある。ニジヨメンは細かく動いてたかしの攻撃を捌こうとするが、たかしは斧を豪快に振り回して強引に叩き潰す。柔よく剛を制すより、剛よく柔を断つ方が簡単だ。
たまらずニジヨメンはバックステップでたかしの斧から逃れようとするが、たかしは横に振っていた斧を無理矢理軌道修正して縦に振る。変則の軌道をとった斧を避けきれず、ニジヨメンの仮面は半分ほど引き裂かれた。
このまま追撃を掛けたいところだが、露わとなったニジヨメンの素顔を見てたかしはフリーズする。一瞬、何が起きているのか理解できなかった。だが目の前の現実は容赦なくたかしの出来が悪い脳みそに飛び込み、残酷すぎる真実を突きつける。
嘘だろう。こんなことがあっていいはずがない。運命なのだとしたらこの世に神様なんかいなくて、悪魔しか存在しない。たかしは声を絞り出して問い掛ける。
「ジュン……! どうして……!」
たかしの目の前にいたのは、連絡が取れなくなっていたたかしの妹だった。全く意味がわからない。実家で母と暮らしているはずのジュンが、どうしてこんなところにいて、怪人になっている?
「全部……あんたのせいだ!」
ニジヨメン──ジュンは剣を振るい、たかしを弾き飛ばす。たかしは尻餅をついたままジュンを見上げ、尋ねた。
「いったい、どういうことだよ……?」
ジュンは憤怒の表情を浮かべたまま、涙を流す。
「全部、お兄ちゃんが悪いんだよ……! お兄ちゃんのせいで、うちのお金が全然なくなっちゃったから……!」
たかしの学費は、父親のいない黄山家にとって大きな負担だった。それでも母のパート収入と父の保険金でやり繰りしてきたが、たかしが大学五年生を迎えた今年、ついに父親の死亡保険金が尽きた。去年から大学の学費が値上げされたのが決定打となったのである。パート収入程度ではたかしの生活費と学費の両方を賄うのは無理だ。母もジュンも、たかしにそのことを何度も訴えたが、たかしは完全無視した。
ジュンは思い出すのが苦痛なのか頭を押さえながら話を続ける。
「それで……そうだ、テレビ局の取材を受けたんだ……!」
テレビ局は黄山家にニートの子どもを持つ家庭の取材をしたいと申し入れてきた。うちのたかしはニートではなく大学生だと母は断ったが、高額の謝礼を提示され、最終的に取材を承諾した。
「私と母さんは……仮面をかぶらされて……ニートを殺さなきゃって……!」
「ちょっと待て……! 母さんも怪人になってるのか……!?」
思わずたかしは声を上げる。ニジヨメンの正体はジュンだった。メンドクサーイは引き籠もりの少年。デモシカシ一号はよくわからないオッサン。二号は青松の元上司である。じゃあ、たかしの母は……!
「母さんは……あそこで戦ってるわ。ニートを殺すために」
ジュンの視線の先には、赤沢と戦闘中のムダメシンの姿があった。ムダメシンは劣勢で、今にも赤沢に倒されてしまいそうだ。たかしの顔から一気に血の気が引いた。たかしは叫ぶ。
「やめてくれ、赤沢! そいつは、俺の母さんなんだ!」
「何だと……!?」
赤沢は目に見えて動揺する。その隙をムダメシンに突かれ、赤沢はタックルを受けて吹っ飛ばされる。
たかしの前のジュンは頭を押さえてぶつぶつとつぶやき続ける。
「私たちはお兄ちゃんのためにお金が必要……。だからニートを殺さなきゃ……。殺さなきゃ……。ニート……。ニートは……お兄ちゃん! あああああああっ!」
奇声を上げてジュンは剣を振りかざして斬りかかってくる。たかしは横に転がって間一髪のところで避ける。すぐさま起き上がり、たかしは赤沢に呼びかけた。
「逃げるぞ、赤沢!」
「……わかった!」
どうせ二体が狙っているニートはたかしと赤沢である。今回に限っては、他に被害が出る心配をする必要がない。
たかしと赤沢は一目散にケツ巻くって逃げ出した。それなりのダメージを受けていた二人の怪人が追ってくることはなかった。




