2 頼もしき(笑)仲間たち
たかしは定刻通りに指定の待ち合わせ場所へ向かう。もっと巧妙に隠されているのかと思いきやそうでもなくて、何事もなかったかのように地下への階段が増えていただけだった。
「……こんなのでいいのかよ?」
「問題ありません。普通の人間には認識できないようにしていますから」
ステルスモードで同行しているナマポンが言った。同じようにナマポンも普通の人間には認識できないようになっている。知らない人間に見られれば、たかしは虚空に向かって話しかける危ない人にしか思えないだろう。
若干の緊張を覚えながら、たかしは階段を降りる。他の面子もニートらしいので、あまり気後れする必要はないと思うが、それでも緊張する。自然とたかしの足は鈍った。
たかしは大学に入学したての頃を思い出す。こんな風に緊張しながら入学式に臨んでみれば、もうすでにグループができあがっていた。
入学式前に先輩が行う自由参加のオリエンテーションで、あらかた人間関係が固まっていたのだった。無論たかしは参加していなかった。参加していたら友達ができていたかというと、そんなこともないと思うが。多分、オリエンテーションで孤立して同じルートを辿っただろう。
下級生の頃は気を遣われていたのか、クラスメイトから飲み会の誘いなどもあった(たかしの大学では一年時限定で必修科目を一緒に受けるクラスが設定されている)。一応何度か出席したけれど、やはり馴染めなくてあまり出なくなる。話題が合う者が全くいなかったというわけではないが、ノリについていけない。コールだの一気だの馬鹿馬鹿しいんだよ。ウェ~イとかはしゃいでるやつは死ねばいい。こんな感じなのでサークルなんかはとても無理だった。
結局、大学と下宿先のアパートを往復する生活になり、そのうち大学に行きづらくなった。講義室にいる皆がたかしを見て笑っているような気がするのだ。自意識過剰なのはわかっている。でも、講義室で知っている顔を見つけると思わず目を背けてしまう。そして元々真面目ではなかったたかしはサボリが多くなり、留年した。
階段を降りた先にはドアが一つあった。過去を思い出しブルーな気持ちになりながらも、たかしはドアを開ける。今こそたかしは主役になるのだ。立ち止まっているわけにはいかない。
ドアを開けるなり、声が掛けられた。
「……五分の遅刻だ。まあ許してやる」
見れば六畳ほどの狭い部屋で、腕組みした女が偉そうに立っていた。身長はたかしより少し低いくらいで、多分160センチ前後。顔はまあまあ整っていて、美人と言っても差し支えないだろう。黒髪ストレートのロングで、作品によってはメインヒロインを充分張れそうな感じだ。
しかし、致命的に服装がださい。くたびれた赤のトレーナーに、下は紺色のぼろっちいジャージ。よくこんな格好で外を歩けるものだと感心するくらいだ。たかしもチェックの上着に使い古したジーンズという人のことを言えない服装だが、いくらなんでも女でこれはないと思う。
反面、椅子に腰掛けてスマホをいじり、たかしの方を見ようとしない男はまともな服装をしていた。白いシャツに青の上着を羽織り、下は黒のスキニーパンツで爽やかに決めている。顔もそれなりにイケメンで、何かむかつく。病的に顔が青白くて体も細いので、こうなりたいとは思わないが。
部屋にいるのはこの二人だけだった。たかしも含めて三人戦隊ということだろうか。サンバルカンに始まりハリケンジャー、ゴーバスターズなどたまにある構成だ。大抵途中で追加戦士が加わり五人+αの構成になる。そこまでシナリオが練られているということか?
「もう一人いますよォォォォォ!」
薬でも決めているのかと疑いたくなるほどハイテンションにナマポンが言うと同時に、たかしの後ろからまた女が駆け込んできた。美人というよりはかわいらしいという言葉が似合う綺麗な子である。
彼女は白を基調としたコーディネートで着飾り、イヤリングやらネックレスやらをじゃらじゃらとぶら下げ、ばっちり化粧していた。髪なんか茶髪に染めてクルクルカールしている。ちょっと頭が悪そうに見えるが、女子力は感じられる。もう一人も見習えと言いたい。
「ごめ~ん! 遅れちゃった!」
白コーデの女は手を合わせながら入室し、たかしも部屋のドアを閉める。赤トレーナーの女はナマポンからもらったと思われる腕時計を見て、「七分の遅刻だ。先が思いやられるな」などとつぶやいていた。五分と七分で何が違うんだよ。
たかしは部屋にいる全員の左手を確認する。全員が、腕時計をつけていた。ということは四人全員、戦闘員ということだ。
(……勝ったな)
さえない面子である。たかしは心の中でガッツボーズする。この中なら、どう見てもたかしが一番だろう。
「全員揃いましたねェ」
「四人か? 少しキリが悪いな」
たかしと同じ事を思ったのか、赤トレーナーの女は言う。四人の戦隊なんてジャッカー電撃隊くらいしかない。しかも視聴率が低迷してテコ入れで宮内洋演じる五人目、ビッグワンが登場し、初期メンバーが脇役化した挙げ句打ち切られた。
「この時代に時計は四つしか持ち込めなかったんですよォ、赤沢さん」
赤トレーナーの女は赤沢というらしい。赤沢はフンと鼻を鳴らす。
「まぁ、この戦力で勝てるとナマポンが判断したのならいい。別に私一人でも構わないのだが、使えるのを集めたのだろうな?」
赤沢はナマポンに尋ね、ナマポンはニッコリ笑った。
「それはもちろんですよォォォォォ! ニート力一万を超える猛者ばかりですよォォォォォ!」
「あの、ちょっといいかな」
ここでイケメン野郎が手を挙げる。
「どうしたんですかァ、青松君」
「この後十八時からギルドの会議なんだよね。それからSEIryuuの討伐に行かなきゃならない。時間が押してるんだよ。お金がもらえるっていうから来たけど、早く進めてくれないかな。だいたいこの時間だってもったいないんだよ。これだけ時間があればHNM二体は狩って、三万くらいは経験値を稼げる」
何言ってんだこいつ。ネトゲの話っぽいが、ちょっと意味がわからない。廃人というやつだろうか。
「はいは~い、私も忙しい!」
「あなたもですかァ、白鳥さん」
白コーデ女、白鳥も同調する。
「私ぃ、明日はライブに行かなきゃいけないの! だから今日はその準備で忙しいの! だから早くしてくれると助かるかなっ!」
遅刻してきたくせに何言ってんだと思わないでもないが、まあわかる。白鳥はミュージシャンか何かなのだろう。見た目からはそう見えないが、きっとロックなのだ。ネトゲ廃人よりはマシである。
「せっかくいい席とったんだから、準備万端で行かないと!」
って観る方かよ! たかしは思わずその場でずっこけそうになった。青松といい白鳥といい、大丈夫か、こいつら……。
服装のセンスが悪い赤沢は渋面を作る。
「使えないやつらばかりだな……。真面目にやれ。人類の未来が掛かっているんだぞ。やはり私一人でやる方がよかったか……? しかしナマポン、そろそろ本題に入ってもいいと思う」
皆に促されて、ようやくナマポンはどうしてこんな事態になったのかという説明会を始めた。
「では始めますかァ。あなた方に集まってもらったのは他でもありません! 未来からやってきたニート撲滅団を倒してもらうためなのです! あなた方は選ばれし戦士、ニート戦隊みんな死ぬンジャーとなったのですよォォォォォ!」