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25 絶対に許さない、顔も見たくない

 昼前頃、怪人たちは正面から堂々と現れた。デモシカシを先頭にニジヨメン、ムダメシンが続き、その後ろには無数のハロワーンが控えるという布陣だ。車もまばらな広い駐車場で、たかしと赤沢は二人きりで彼らを相手にしなければならない。


「今回で、全滅させちまおう。そうすりゃ何も悩まずに済む」


 たかしの言葉に、赤沢は力強くうなずく。


「ああ……! 勝つのは私たちだ!」


 小難しいことを考えるからだめだったのだ。皆殺しにしてしまえば、強制細胞増殖剤など使うことができない。最悪、使われてしまうとしても怪人を二体倒して、この一回で全部使わせるのだ。そうすれば〈無職大将軍〉への生け贄は一人で済む。ロボ戦なしの最終回も悪くないだろう。


 たかしと赤沢は時計の針を逆に回し、変身する。演出の爆発が起きると同時にたかしと赤沢は名乗りを上げ、それぞれ課金無双ライフルと家事手伝いアローを装備した。課金無双ライフルをたかしに、家事手伝いアローを赤沢に、装備を変更していたのだ。


「赤沢! まず、減らせるだけ減らすぞ!」


「わかった!」


 たかしと赤沢は矢弾を乱射する。適当に弾幕を張っているだけでも、数が多いのでハロワーンはバタバタ倒れていった。


 敵も黙って見ているわけではない。三体の怪人はたかしと赤沢を崩しに掛かる。筋骨隆々なムダメシンが前に出て盾となり、素早いデモシカシはたかしと赤沢を攻撃しようと先行する。無数のハロワーンは散開し、たかしと赤沢を包囲しようと動く。もう少し近づけばニジヨメンが爆発を起こして攻撃してきて、いよいよ手がつけられなくなるだろう。


 ポイントは、ニジヨメンを抑え込むことだ。爆発による攻撃は射程や爆発の規模が全くわからないため、回避が困難である。ニジヨメンに絶え間なく攻撃を仕掛けて余裕を奪い、必殺の一撃を出させないことが肝心だ。


 役割分担は決まっていた。ニジヨメンを抑える役目は、バランス型の赤沢に任せる。ムダメシンはパワー型のたかしが相手をする。決定力のないデモシカシは手の空いている方が適当にあしらう。基本的にはたかしが前に出て、敵の攻撃を引きつける。


 作戦と呼ぶにはあまりに穴が多いが、これまでのように無為無策で戦って出たとこ勝負をするよりはマシだ。強制細胞増殖剤を持っていると思われるニジヨメン、ムダメシンを同時に倒してしまい、巨大化させないのが理想である。


「赤沢、俺に続いてくれ!」


「無論だ!」


 たかしと赤沢は手持ちの武器で射撃を続けながら、敵陣に突っ込む。たかしはムダメシンに正面から突撃し、武器を自主休講アックスに持ち替えてがっぷり四つに組み合う。赤沢は予定通りたかしを盾にできる位置からニジヨメンを射撃。この陣形で押し切ろう。


 たかしたちがムダメシンに近すぎるせいで、ニジヨメンは爆発の攻撃を行えない。デモシカシが状況を打破するため出張ってくるが、赤沢の射撃かたかしの物理で追い払い、仕事をさせない。ハロワーンたちはたかしと赤沢の背後に回り込もうとするが、無視だ。近づいてくれば無双シリーズにおける雑魚敵のごとく斧で吹っ飛ばすのみである。


 敵は無駄に大勢で押しかけたのが仇になった。混戦になったため、ニジヨメンの爆発が使えないのはもちろん、デモシカシも自慢のスピードを活かせていない。


 この騒ぎで警察をすっ飛ばし、自衛隊が駆けつけて現場は騒然とする。自衛隊にヒーローと怪人の区別はない。自衛隊はたかし、赤沢と怪人軍団の両方に猛烈な射撃を加えるが、たかしたちはニート力に守られてノーダメージである。全く、国営暴力団も正義と悪の区別くらいつけてほしいものだ。


 幸い、無数のハロワーンたちが直接病院を襲撃することはなかった。多分、病院関係者はニートではないので攻撃しないという交戦規定になっているのだろう。直接、青松だけを狙われたらどうしようもなかったが、どうも敵のお目当てはたかしと赤沢らしい。青松が後ろにいて逃げられない状況で、たかしと赤沢の撃破を狙っているのだ。両軍一歩も引かない膠着状態となり、たかしは興奮のまま斧を振るい続ける。




 永遠とも思える激しい戦いは十数分続き、あっけなく終わった。たかしの背後から奇襲を掛けようとしたデモシカシの頭部に、ムダメシンを思い切りぶん殴ろうと振りかぶった斧がちょうど激突してしまったのだ。


「あっ……」


 たかしは思わず間抜けな声を上げた。デモシカシの首がすっ飛び、勢いよく地面をころがっていく。デモシカシの体はスーツ姿の人間へと戻っていき、首から勢いよく真っ赤な血を噴出させながらばったりと倒れた。


 潮が引くようにたかしたちを囲んでいたハロワーンたちは引いていく。作戦とは違うが、ラッキーはラッキーだ。強制細胞増殖剤さえ使わせなければ、たかしたちの勝ちである。いち早く砕け散ったマスクを回収して、再利用させない必要もある。


 敵に何もさせないためには攻め続けるしかないが、スピードのないたかしが単独で突っ込んでも一人相撲になる。赤沢と連携してニジヨメン、ムダメシンを撃退しなくては。


「赤沢! おまえはニジヨメンを……!」


「アッ、アッ、アッ……! うわああああっ!」


 たかしは赤沢に指示を出そうとするが、当の赤沢は腰を抜かして座り込んでいた。マスクの剥がれた生首が、ちょうど赤沢の前に転がっていたのである。確かにショッキングではあるが、赤沢に立ち上がってもらわないと同じ事の繰り返しだ。


 たかしは赤沢を叱咤しようと声を上げかけ、そして固まった。


「赤沢、何やって……! え……? は……?」


 たかしと赤沢は戦いの際、何度かグロい場面に遭遇している。ただの生首だったら、赤沢だってここまで取り乱さなかっただろうし、たかしだって見なかったことにして戦い続けることができた。でも、知っている顔の生首を見れば誰だって狂乱する。


「何でだよ……! どういうことだよ……!」


 たかしは呆然とつぶやく。一昨日、会ったばかりの顔がそこにはあった。白髪頭に、黒縁の眼鏡。かつての青松の上司、和田課長である。


 ニジヨメンとムダメシンが偶然、青松の元上司を怪人にしたというのか。そんなはずはない。最初から、たかしたちをピンポイントで狙っての処置だろう。ニートと関わるのは罪だとでもいうのか。超えちゃいけないラインを考えろよ……!


「絶対許さねえ……! 課金無双ライフル!」


 たかしは歯ぎしりしながら火器を装備し、ニジヨメンとムダメシンに撃ちまくる。遅ればせながら赤沢も立ち上がり、剣を振りかぶって突撃。しかし、たかしたちが失った一瞬はあまりにも長すぎた。たかしたちが動けないでいるほんの数秒の間に、ムダメシンもニジヨメンもたかしたちから距離をとっていたのだ。


「フンガァ~~~ッ!」


 ムダメシンが長い鼻からいくつもの氷塊を放つ。同時にニジヨメンが指を鳴らし、たかしたちの周囲で爆発が起きた。たかしも赤沢もでたらめにジグザグに走り、どうにか氷と爆発を回避するが、次はハロワーンの大群が襲いかかってきた。


「気にするな! あの二人さえ倒せば!」


「ああ! 私たちの勝ちだ!」


 爆風が鼓膜にジンジン響く中、たかしと赤沢はハロワーンをばったばったと倒しながら、ムダメシンとニジヨメンに迫る。もう少しだ。もう少しで二体の怪人を捉えられる距離まで接近できる。勝利は間近だ。


 そう思ったたかしは、甘かった。たかしたちの背後で、デモシカシが巨大化していく。敵はハロワーンたちの一人に強制細胞増殖剤が入った注射器を持たせ、回り込ませていたのだ。たかしたちの行動は完全に読まれていたのである。


 たかしは立ち止まってデモシカシを見上げる。不安げな声で、赤沢はたかしに尋ねる。


「どうするのだ……?」


「……決まってる。ぶっ倒すんだよ。ナマポン、〈無職大将軍〉を!」


「了解でェす!」


 たかしの求めに応じ、ナマポンはデモシカシがつけていたマスクの破片から携帯電話を作り、たかしに渡す。ニヤニヤと腹立たしい笑みを浮かべ、嬉しそうに少しはしゃいでいるような口調でナマポンはたかしに訊いた。


「黄山君の命と青松君の命、どちらを使いますかァ?」


 たかしは即答する。


「青松の命だ」


「そうですよねェ。自分の命より大切なものなんて、この世には存在しませんからァ!」


 ナマポンが嫌らしく笑うが、たかしは無視する。畜生には好きなように言わせておけばいい。


「黄山……!」


 赤沢は声を震わせながらたかしを見上げた。たかしのことを案じてくれているのだろう。人に心配されるなんて、久しぶりだ。たかしは赤沢の手をぎゅっと握った。


「俺は大丈夫だ」


「え、ちょ、黄山……!?」


 赤沢は無駄に女の子らしくわたわたと慌てた。こいつにもかわいいところがあるようだ。たかしはマスクの下で笑みを浮かべた。


「さぁ、さっさとやっちまうぞ! 〈無職大将軍〉でニジヨメンとムダメシンを踏み潰すんだ!」


 テレビの戦隊モノなら絶対にやらないことだが、たかしはやる気満々だ。絵面が凄惨で卑怯にもほどがあるが、知ったことか。戦いってのはそもそも卑怯者はやることで、グロいものなんだよ!


 だいたい、五人で一人の怪人を倒すという構図からして卑怯なのである。まあ、一つの力を五分割して戦ってるからセーフ! ってカーレンジャーが言ってたけど。


「は……?」


 たかしの発言内容をようやく理解した赤沢はボケ老人のつぶやきのような声を漏らす。赤沢がマスクの下であ然としているのがわかった。しかしフォローしている時間はない。早くしなければ怪人たちに逃げられてしまう。たかしはナマポンからもらった青い携帯電話を使い、〈無職大将軍〉を呼び出した。


「来てくれ、〈無職大将軍〉!」


 次の瞬間、周囲は眩しいくらいの光に包まれる。

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