23 ブーメラン
「次は銀行か……。まず青松の部屋に行かないとな」
たかしは自転車置き場で赤沢に話しかける。見せてもらった資料の銀行名や口座番号は個人情報に配慮してか黒で塗りつぶされていた。まず青松の口座がある銀行名と口座番号を特定しなくてはならない。市役所で訊けば教えてくれる気もするが、通帳かキャッシュカードくらいは持参しないと銀行も信用してくれないだろう。
一昨日から続く手続き祭に赤沢もさすがに疲れているようだ。赤沢は虚ろな目でバカなことを言う。
「うむ……。私が政権をとった暁には、市役所などぶっ潰してやるのだ。仕事をしない地方公務員がいるから日本の財政は滅茶苦茶になった……。独裁国家万歳……!」
仕事をしていないニートがそんなことを言っても全く説得力がない。しかし、もし就職すればこんな感じで毎日走り回らなければならないのだろうか。しかし普通に考えれば、青松のために駆け回っているここ数日よりちゃんと働く方が忙しいだろう。正直やってられない。やっぱニートって最高だわ。
たかしが銀行へ向かおうと自転車に跨ったところで、ナマポンが現れた。
「皆さァん、大変でェす! 敵が出現しましたァ!」
「何だと!? このクソ忙しいときに……!」
「すぐに行くぞ!」
赤沢は自転車に乗って走り出す。ちょっと待て。場所さえ聞いていないのにどこへ行く気だ。
「この近くでェす! ボクが先導するのでついてきてくださァい!」
たかしも自転車を発進させ、ナマポンについていった。
ナマポンが案内したのは閑静な住宅街の一角だった。不登校タイプのニートがいそうな場所である。とある住宅の屋根に、怪人がいた。
「デモシカシ、デモシカシ……!」
屋根の上でぶつぶつと声を上げているのは、デモシカシだった。デモシカシは倒したはずなのに、どういうことだ。
「どうやらマスクを修復して別人にかぶせたようですねェ」
そんなことが可能なら、どうしてマスクを回収しなかったのだ。
「駅そのものが崩落してましたから、無理ですよォ。再生怪人だから前回よりは弱っていると思いますので、がんばってくださァい!」
むしろマスクを回収した敵を褒めるべきなのだろう。たかしと赤沢は変身する。
「終わらないたった一人の受験戦争! 私が受からないのは在日が悪い! ルサンチマンの戦士、ネトウヨレッド!」
「親に迷惑なんのその! 就活はとうの昔に捨てた! モラトリアムの戦士、留年イエロー!」
ポーズを決めると背後で赤と黄の爆煙が上がる。住宅への侵入を計っていたと思われるデモシカシはターゲットを変え、たかしと赤沢に飛びかかってくる。
「愛国無罪ソード!」
「自主休講アックス!」
たかしと赤沢は固有武器でデモシカシを迎撃する。今回デモシカシは戦闘員ハロワーンなしで、スピードも前回より随分落ちている。
たかしは楽勝だ、と思っていた。しかしデモシカシは駅で戦ったときより長く助走をすることで速力を稼ぐ。デモシカシは一撃離脱で拳や蹴りを繰り出し、たかしと赤沢は捉えられない。
「クッ、家事手伝いアロー!」
青松の課金無双ライフルはまだ所有者を移していないので、今回使うことはできない。たかしが家事手伝いアローでデモシカシを牽制して足を止め、赤沢が愛国無罪ソードで決定打を入れるという作戦でいく。
たかしはエネルギーの矢を乱射するが、全く当たらない。デモシカシは一切減速せず右に左にジャンプして矢を避け、たかしたちの側面、背面に回り込んでから攻撃を仕掛けてくる。赤沢が剣で迎撃するが、間に合わない。
「クソッ! 赤沢、こっちだ!」
たまらずたかしは壁を背にする位置へと移動する。こうすればデモシカシの攻撃ルートはかなり限定される。たかしと赤沢は武器を手にデモシカシを迎え撃とうとカメになって待つが、己の不利を悟ったデモシカシは撤退した。本来なら追撃すべきだが、まず追いつけないので諦めた。
「どうすりゃいいんだ……」
たかしは思わずつぶやく。怪人三体に強制細胞増殖剤は二本残っている。〈無職大将軍〉を使ってたかしと赤沢が順に命を捨てたら青松の面倒を見る者がいない。
「そんなに悲観することはないですよォ」
ここでナマポンがしゃしゃり出てくる。どうせろくでもなことを言うに違いない。
「デモシカシのニート撲滅マスクは青松君によってほぼ破壊されています。なので青松君の命を使って、あなた方が〈無職大将軍〉を動かす事は可能ですよォォォォォ!」
「バカかよ……」
開いた口がふさがらない。たかしたちに青松を殺せと言っているのと一緒だ。ナマポンはドヤ顔で言う。
「黄山君、適当なニートを電池代わりに連れてくればいいって言ってたじゃないですかァ。青松君を電池代わりに使えばいいんですよォォォォォ!」
過去の発言は、ブーメランとなってたかしのところに戻ってきていた。




