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21 ニートなのに税金って掛かるの?

 次の日、たかしは赤沢とともに市役所に向かった。青松兄の話だと、青松は誰の扶養にも入っていない。ならば青松は国民健康保険に加入しているということである。市役所に行けば保険証がもらえるはずだ。


 市役所の保険課で保険証の発行手続きをやる。委任状などは用意できないので青松の会社を訪れたときと同様に手術証明書、入院証明書を受付の女性職員に提示した。たかしと赤沢は受付のカウンターで座って、女性職員が自席でPCを操作して保険証を再発行するのを待つ。


 ところが、女性職員が保険証を持ってくることはなかった。女性職員は年配の男性職員同伴で現れ、告げた。


「保険税を滞納しているので保険証を発行することができません」


 たかしは耳を疑う。


「えっ、滞納って……。どういうことですか?」


 自分で言っていてあほらしい。どうもこうもない。青松は国民健康保険税を払っていなかったのだ。それも、かなりの長期に渡って。


「ど、どうすればいいのですか?」


 赤沢が尋ねる。女性職員は神妙な面持ちで言った。


「税務課で相談を受けてください」




 たかしと赤沢は女性職員の案内で税務課窓口に移動する。強面の男性職員が待っていた。顔が怖いだけでなく、肩幅が広くて体格もいい。本当に市役所職員なのか。暴力団の構成員と言われても信じてしまいそうだ。


 やくざ顔の男性職員はまず明細を出してきた。


「あなた方が青松さんの代理ですね……。滞納税額はこちらになります」


「え~っと総額で……六十万円!? 何だよ、これ!?」


 ほとんどが国民健康保険税だったが、二十数万の住民税も含まれていた。ガッツリ延滞金も掛かってきている。なぜニートがこんなにも高額の税金を払わなくてはならないのだ。


 男性職員はニコリともせずに答える。


「この年の前年まで青松さんは所得がありますから」


 前年の所得により、住民税や国民健康保険税は計算される。よく大減俸を喰らったプロ野球選手などが税金を払えないと言われるのは、これが原因だ。一年遅れで高額の請求が来るのである。


「いや、でも青松は無職だったんですよ? 減免とかないんですか?」


 たかしは訊いてみるが、男性職員はにべもない返事をする。


「住民税は現に所得があるので無理です。国民健康保険税は会社都合退職なら減額されますが、青松さんの場合適用されませんね」


「せめて延滞金だけでも減免できませんか?」


「できません。99%の人は納期限内に収めてもらっています。その方たちとの公平性を保つためには、延滞金を支払っていただく必要があります」


 延滞金の率は年10%近い。銀行のローンなどに比べたらとんでもなく高額だ。払えるわけがない。


「いや、でも青松は今現にニートで、意識不明の重体で入院中なんですよ!?」


 ドン、とたかしは机を叩く。男性職員は全く動じず、言った。


「保険税を払っていただければ保険証はお出しします。一括で納付してください」


「……ちょっと相談させてください」


 たかしはそう言って赤沢とともに中座する。人気のないところに行きながら、赤沢は小声で尋ねてくる。


「どうするのだ?」


「金ならあるはずだろ……? 青松には悪いが、勝手に使わせてもらう。ナマポン、来てくれ!」


 たかしが呼びかけると、ナマポンは現れた。


「はいはい。なんでしょうかァ~!」


「青松の分の報酬を出してくれ。保険税払わなくちゃいけない」


 保険税を払わないという選択肢はない。保険なしで手術、入院費を払うなら軽く百万を超えるし、入院費はこれからまだ増えていく見込みなのだ。不当に高額だと感じても、保険税を払って保険証を出してもらった方がマシである。当然たかしには出せないので、戦いの報酬で賄うしかない。


 ところがナマポンは首を振り、たかしの目論見はもろくも崩れ去った。


「それは無理ですねェ。青松君には報酬を全額前払いで渡しているんですよォ」


「ハァ!? あいつ、全然金持ってなかったぞ!?」


 青松の財布に入っていたのは一万円札一枚と小銭が少々。ナマポンはそれなりの大金を渡したと言うが全く辻褄が合っていない。


「ボクに言われても知りませんよォ。もう使っちゃったんじゃないですかァ?」


 適当な調子でナマポンは言う。いくらなんでもそれはないだろう。たかしは愕然としながらも、交渉を試みる。


「じゃあ、これから払われる予定のを出してくれよ!」


「いや、青松君が復帰するのは残念ながらもう無理でしょォ。後から出来高は払う予定でしたが、現状ゼロですし。黄山君のならお出ししますがァ、どうします?」


 ナマポンは嫌らしい笑みを浮かべてたかしの顔を覗き込む。たかしにだってお金は必要だ。青松のために出すことなど、できるわけがない。


 赤沢は訊かれてもいないのに謝る。


「すまない……。私の報酬は、前借りして全額武装の強化に使ってもらった……。私もお金はない……」


 たかしたちの固有武器が合体する機能は、赤沢に支払われる予定だった報酬を使って追加されたものだそうである。


 当てが外れた。先立つものは用意できそうになかった。




 税務課窓口に戻ったたかしは、担当職員に青松の財布から一万円札を出して言った。


「まずこれだけ払うから、保険証を作ってくれ」


 とりあえず保険証をゲットしなければ始まらない。下手したら病院にいられなくなるかもしれないのだ。手術費、入院費の都合は後から考えるとして、保険証は有り金全部を使って確保する。


 しかし、やくざ顔の担当職員はあっさり却下する。


「ダメです」


「何でだよ!」


 たかしは身を乗り出して抗議するが、担当職員は一顧だにしない。


「分割納付するなら、完納までの計画を立てることが前提になります。完納の見込みが立たないのであれば、分割納付は受けられません」


「見込みって……! じゃあ、幾ら払えばいいんだよ!?」


 たかしは机をドンドン叩きながら言う。担当職員は電卓を叩きながら告げた。


「そうですね……。あまり長期の分納計画はお受けできません。一年以内に完納するということで、月五万円の分納でいかがでしょうか」


「五万円!? 払えるわけないだろ、ニートなんだから!」


 加えて、代わりに払ってくれる家族もいない。たかしはその場で立ち上がり、身振り手振りを交えて窮状を訴える。しかし担当職員の返答は冷たいものだ。


「お支払いされないということなら、差し押さえ等の滞納処分をさせていただきます」


 いったい何を差し押さえるというのだ。確かにあいつのPC一式は高そうだったが、それでも六十万には遠く及ばないだろう。


「あいつは今、意識不明で入院中なんだぞ!? 月一万円でも無理だ! それぐらいわかれよ! 減免にならなきゃ世の中おかしいだろ!」


 たかしが喚いても担当職員は全く顔色を変えない。淡々と説明するだけだ。


「減免という制度はありません。怪我で経済状況が悪化したのであれば、生活保護を受けるということになりますが……」


「じゃあ今すぐ生活保護を受けさせろ!」


「それでは福祉課の方にどうぞ」

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