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19 ニート、保険証がない

 結局、その日はたかしが病院に泊まった(赤沢は親から電話が掛かってきたので帰らせた)。手術は深夜まで掛かり、容態が安定したのは朝方のことである。青松は意識がないまま、ベッドで包帯に巻かれて眠り続けている。いつ意識が戻るかは、神のみぞ知るといったところだ。一生意識が戻らないかもしれないと医師には言われた。


 たかしは入院の手続きを行うが、そこで新たな問題にぶち当たる。


「保険証はありますか?」


「え~っと……」


 看護師に訊かれたたかしは青松の財布を探ってみるが、見つからない。アニメショップやらレンタルビデオやらの会員カードばかりが入っている。いい歳をした大人の財布だとは思えないが、ニートなので仕方がない。現金もほとんどなくて、諭吉が一枚入っているばかりである。


「ごめんなさい、ないみたいです……」


 たかしがそう言うと看護師は困った顔をする。


「保険証がないのは困りますね……。治療費はどうなさいますか……?」


 言いにくそうに看護師は尋ねてきた。手術だけでも相当な金額になるし、ここから入院治療も始まる。保険証があれば三割負担だが、健康保険なしで全額負担するのだとすれば、とても払いきれるものではない。


「……必ずご家族の方と連絡をとるので、待ってもらえませんか?」


 たかしはこう言うしかなかった。




 帰宅したたかしが寝ていると、青松はどうなったのかと赤沢から電話が掛かってきた。峠は越えて容態は安定しているが、意識は戻っていない。このまま永久に戻らないかもしれない。たかしは医師から聞いたとおりを赤沢に伝えた。


「今から青松の家に行ってみる。家族の連絡先と、保険証捜さなきゃならないから……」


 青松の財布には保険証も家族への連絡先も入っていなかった。しかし中に入っていた会員カード類には自宅住所が記載され、部屋の鍵もチェーンに釣り下げられていた。


『私も行く。今回の件は、私の責任だから……』


 赤沢の声が沈んでいく。確かに赤沢が愛国無罪ソードを青松から取り上げなければ、違う展開になったかもしれない。だが固有武器の優先順位などたかしも知らなかったことだし、赤沢だけの責任ではない。最初に説明しないナマポンが悪いのだ。またマスクが剥がれた敵の素顔を見て固まってしまった青松自身も悪い。


「おまえだけのせいじゃないし、今それを言っても仕方ない。やれることをやっていこう」


 柄にもなく前向きな台詞を吐いた後、たかしは待ち合わせ場所に向かった。




 青松の家があるのは、大学近くの学生用アパートが密集している地域だった、青松の部屋に入ってわかったことだが、どうも青松はたかしと同じ大学を卒業して、そのまま下宿先から仕事場に通っていたらしい。青松の部屋にはもう何年も前の学生証があった。


「こんなもの見つけてもなぁ……」


 学生証を手にたかしは嘆息する。必要なのは家族の連絡先と、保険証だ。青松の部屋はたかしの部屋より汚く、モノを捜すのは大変だった。お菓子の袋やらカップ麺の容器やらが散乱していて、フローリングの地肌が見えない。ゲーミングPCというやつだろうか、メカニカルなデザインのマウスなど、高そうな周辺機器を取り付けられたPCの周囲だけが異様に整理整頓されていた。


 デスクの引き出しや押し入れを開けてみたりと、たかしたちは捜索を続けるが全く手掛かりさえなかった。捜し疲れたたかしは赤沢の方を見てみる。赤沢は何やら一心不乱に漫画を読んでいた。大掃除の最中によく見られる現象だ。どうやら赤沢も捜索に飽きてしまったらしい。


「うわ……。すごい。こんなことをするのか……」


「何やってんだよ」


「うわあああっ!」


 たかしは赤沢の手元を覗き込む。赤沢は素っ頓狂な声を上げながら胸元に漫画を押し付け、隠した。たかしは内容をバッチリ見てしまう。


「本当に何やってんだよ……」


「ち、違うのだ! たまたま落ちていたのをチラッと見ていただけのだ!」


 赤沢は顔を真っ赤にして言い訳し、たかしはあきれ顔を浮かべる。赤沢が読みふけっていたのは床に落ちていたエロ本だった。青松も、こういうのはちゃんと本棚の裏とかに隠しておけよ……。縁起でもないことであるが、もし青松がこのまま目を覚まさなかったら、武士の情けでPCのハードディスクも破壊した方がいいのかな……。




 たかしと赤沢は気を取り直して捜索を再開する。デスクの引き出しの奥の奥まで捜索し、ようやく出てきたのは期限切れの保険証だった。


「期限が五年前じゃなぁ……。どこに言えばいいんだ?」


「よく知らないが、健康保険なら会社ではないのか? 私もお父さんから保険証を持たされているが、会社からもらっていると言っていたぞ?」


 たかしも母の勤め先から保険証はもらっていた。青松が昔勤めていた会社に連絡をとってみればいいのだろうか。会社なら青松の家族の連絡先も知っているだろう。


 たかしは押し入れの奥に入っていた鞄から、青松の社会人時代の名刺を発見する。東京の聞いたことがない会社だった。青松は営業職だったようだ。


 さっそくたかしは青松の会社に連絡してみることにした。

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