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18 ニートに労災はありません

 赤沢は線路伝いに地上に出るルートを選んだ。駅のすぐ上は大騒ぎになっていることが予想されたからだ。どうにか赤沢は人気のないところまでたかしたちを運び、変身を解除する。


「黄山、無事だな! よかった……」


 赤沢は心から安堵しているようで、胸を撫で下ろす。このバカ女、一人忘れてやがる。


「バカ、何言ってるんだ! 青松が死ぬぞ! ナマポン、来てくれ!」


「なんでしょうかァ?」


 たかしの隣にナマポンが出現する。たかしはナマポンに尋ねた。


「青松がやばい! なんとかできないか!?」


 ナマポンの反応は鈍い。


「ボクに言われてもねェ……」


「いや、未来の技術でどうにかできるだろ!?」


「私はただのナビゲーションマスコットですよォォォォォ! そんな機能はありませェん!」


 ナマポンの返答を聞いて、たかしは絶句した。同じくナマポンのことを当てにしていたのだろう、今まで平然としていた赤沢も青ざめる。


「ナ、ナマポン! ではどうすればよいのだ!?」


「知りませんよォ、そんなことォ!」


「おい、ふざけんなよ! 俺たちを戦わせておいて、無責任だぞ!」


 たかしの抗議をナマポンは一蹴した。


「何を言ってるんですかァ? ボクは最初に説明しましたよォ。危険だし、死ぬかもしれないとォ。あえて言わせてもらいますがァ、何の知識も技能もないニートのあなた方ごときに高額の報酬を支払ってるのは、それだけ危険だからですよォ? 黄山君の認識が甘すぎただけでしょォォォォォ!」


「テメー、金払ってたら何やってもいいと思ってんのか!?」


「金は命より重いですからァァァァァ! ボクはあなた方が普通にしていたら絶対稼げないくらいのお金をあなた方に払っているんですよォォォォォ! とにかくボクには何もできませんので、あなた方でなんとかしてくださァい!」


「ふざけんな! 待てや、コラァ!」


 ナマポンは消え、たかしがいくら喚いても戻ってこない。赤沢は真っ青な顔のまましゃがみ込み、震える手で青松を抱き起こそうとする。


「病院に連れて行かなくては……!」


「バカ! 強く頭打ってるんだ、動かすな!」


 たかしはそう言って赤沢を止めたが、今さらである。ここまで青松を運ぶのに、激しく動かしていた。


「きゅ、救急車を呼ぼう! 駅の騒ぎに巻き込まれたってことにして……!」


 たかしはポケットをまさぐり、携帯電話を取り出す。手が震えてうまくボタンを押せない。


「頼むから保ってくれよ、青松……!」


 もはやたかしは神に祈るしかなかった。



 脳挫傷。全身複数箇所の骨折。腎臓が一個破裂し、他の内臓からも出血。これが病院に運ばれた青松の診察結果だった。「今夜が峠です」という医師からの言葉を聞いたたかしと赤沢は絶句する。すぐに緊急手術を始めるとのことだ。


「早急にご家族の方に連絡をとってください……。あなたたちは青松さんとどういったご関係ですか?」


「えっと……ちょっとした知り合いです」


 医師に尋ねられたたかしはそう答えた。友達ではないだろう。たかしは青松の下の名前さえ知らない。


 誰もいない待合に戻ったたかしと赤沢は、ナマポンをこっそり呼び出す。できれば頼りたくはなかったが、他に当てがない。


「ナマポン、来てくれ……」


「なんでしょうかァ?」


「青松の家族の連絡先を教えてくれ……」


 たかしが訊いてみると、ナマポンは嫌らしく笑った。


「先ほどボクを口汚く罵ったばかりなのに、随分都合がいいですねェ」


「おまえしか頼れるやつがいないんだよ! さっきは俺が悪かった……。頼む、この通りだ……!」


 たかしは屈辱をかみ殺して頭を下げる。赤沢も続いた。


「わ、私からも頼む……!」


 頭を下げるたかしと赤沢を見下ろし、ナマポンはニヤニヤと笑う。


「安い謝罪ですねェ。とりあえず謝ればいいと思ってませんかァ? 謝って許されるのは小学生までですよォ? 社会はそんなに甘くないですよォォォォォ!」


 なぜこいつに社会の厳しさを教えられなければならないのかと腹が立ったが、ナマポン以外に手掛かりがない。耐えるしかなかった。


 ナマポンはたかしたちを煽りながらも仕事はしてくれる。


「まァ、いいでしょう。あなた方を大人扱いしても仕方ないですからァ。残念ながら、ボクも彼の家族のことは聞いていません。なので、これで捜してみてくださァい! ちなみにボクはパスワードとかそんなのは知らないので、自分で何とかしてくださァい!」


 ナマポンは財布とスマホを出し、たかしの手の上に落とす。青松のものを失敬したらしい。仕事を終えたナマポンは姿を消した。


「いや、これでどうしろっていうんだよ……」


 たかしは途方に暮れる。スマホにはロックが掛かっているし、財布の中にも家族の連絡先らしきものはない。全くどうしようもなかった。

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