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16 シナリオ誘導

 三日後の夕方、ナマポンから連絡があった。駅周辺に敵らしきものの反応があったとのことである。


「なんで駅なんだ……?」


 青松と歩きながら、たかしは話しかける。今日、赤沢は呼んでいない。変身アイテムの時計は取り上げたままであり、戦わせる気はなかった。ナマポンに話を通し、赤沢と白鳥の固有武器はたかしたちで使えるようにしてもらっている。


「わからない……。こんなところにニートがいるとはあまり思えないんだけど……。何かの罠かもしれない」


 この周囲に集まるのは、むしろ社畜だ。駅からは東京に直通の電車が出ているので、近くに家を建てて住み、通勤しているのである。朝、一時間近く掛けて東京の職場に出て、夜に帰ってくるという生活だ。たかしは絶対したくない。


 電車は秋葉原に通じているので、オタクタイプのニートならいるかもしれない。たかしは青松とともに異常がないか警戒したが、何も起こらなかった。


 そのうちにたかしと青松は見回りに飽きてしまう。かといって怪人の反応が消えたわけではないので、帰るわけにもいかない。たかしと青松は地下にある駅構内のベンチに座り、雑談を始める。


「黄山は大学生なのかい?」


「ああ、大学にはほとんど行ってないけどな……。青松は?」


 そういえば青松のことを、たかしはほとんど知らない。最初に会った日の飲み会に青松は参加しなかったし、その後もあまり絡みがなかった。


「俺は正真正銘のニートだよ。五年前までは働いていたけどね」


 青松は二十九歳で、ニート戦隊の最年長戦士だった。新卒で就職して二年ほど働くも退職し、今はハイレベルノートリアスモンスターを狩る仕事をしている。もちろん、収入はない。


 青松は大きくため息をつく。


「早く帰りたいんだけど、そういうわけにもいかないよなぁ。会社勤めしてたときのことを思い出してブルーになるよ」


「ブラック企業だったのか?」


 若干声を低めながら、たかしは訊く。二年で辞めるくらいだ。凄まじいブラックだったのかもしれない。


「ああ、ブラックだったよ。毎日怒鳴られるし、なかなか帰れないし、最悪だった……」


 辛かった過去を思い出したのか、青松は憂鬱そうにうつむいた。やっぱり社会人になんてなるもんじゃない。


「だけどお金はもらえたから、その点はよかったかな……。黄山はバイトも何もしてないの?」


「ああ。親に仕送りもらってたんだけど、いきなり連絡がとれなくなってな……」


「俺も一緒だよ。親とは絶縁状態。ナマポンだけが頼りだなぁ……」


 たかしも青松も、ナマポンに財布の紐を握られているのだった。どうしても明るい話にはならない。そのうちたかしも青松も黙り込み、ひたすら沈黙が続いた。




 事態が急変したのは、すっかり夜の帳が降りてから、午後九時を回ったところでだ。何もないから帰ろうという話をしていたところで、地下にあるプラットホームから悲鳴が上がった。


 平日の九時ということで、さすがに人は少なくなっていた。エスカレーターを駆け上がり、会社帰りとおぼしき人々が慌てて駅から逃げ出していく。


「黄山、行こう!」


「ああ!」


 たかしと青松はプラットホームに降りる。ムダメシンとニジヨメンがいた。たかしと青松は変身する。




「リアルなんて知ったことか! 俺の居場所はファンタジー! 現実逃避の戦士、ネトゲブルー!」


「親に迷惑なんのその! 就活はとうの昔に捨てた! モラトリアムの戦士、留年イエロー!」




 屋内ということで爆発による演出はなしだ。乗客はあらかた逃げ終わっており、残っている人たちはムダメシン、ニジヨメンによってだろう、気絶させられている。


 たかしは自主休講アックス、青松は課金無双ライフルを構えた。


「遅かったか……!」


 たかしは歯噛みする。ニジヨメンとムダメシンの背後で、新たな怪人がうずくまっていた。怪人は立ち上がる。


「デモシカシ……! デモシカシ……! 私の名前はデモシカシ……!」


 今度は鹿型の怪人である。スピードタイプなのか前回のメンドクサーイより一回り細く、邪魔にならないようにということか角も短い。ただし要所要所の筋肉はしっかりとついているし、全身を覆う青い体毛も深く、多少の攻撃なら防ぎそうだ。


「黄山、チャンスだ……! きっと勝てる! 黄山はムダメシン、ニジヨメンを頼む! 俺はデモシカシをやる!」


「えっ、俺が二人相手にすんの!?」


 たかしは慌てるが、青松は無視して敵に向かっていく。たかしも青松に続いた。


「オラァッ!」


 たかしはムダメシンに斧で斬りかかり、近接戦を挑む。マンモス型のムダメシンは牙で払い、鼻を伸ばして攻撃してくる。たかしは斧だけでなく時に拳や足も使ってムダメシンに打撃を加え、なんとか互角に戦う。


 ニジヨメンは動かない。たかしはようやく、青松がチャンスだと言った理由を理解していた。自滅する恐れがあるため、狭い駅の地下プラットフォームで、ニジヨメンは爆発による攻撃を使えないのだ。また、戦闘員であるハロワーンを呼び出しても邪魔になって身動きがとれなくなる。


 スピードタイプと思われる新怪人デモシカシにも空間の狭さは不利に働く。青松はデモシカシを挑発してうまくムダメシン、ニジヨメンから引き離した後、エスカレーターや電車の影に隠れながらライフルで射撃し、冷静に追い詰めていく。


 たかしはムダメシンに圧倒され始めるが、ここで目先を変えることにする。


「家事手伝いアロー!」


 たかしは白鳥から借りた武装で、少し距離をとって射撃を始める。青松のライフルより連射速度は遅いが、その分威力が高い。ムダメシンはたかしに近づこうとするが、エネルギーの矢が当たるたびにムダメシンは足を止める。時間稼ぎができるのもあと少しだ。この間に、青松がデモシカシを倒してくれれば……!


 青松はたかしの期待に応える。課金無双ライフルでデモシカシの足を集中的に狙ってスピードを殺した後、赤沢から預かっている武装で斬りかかった。


「愛国無罪ソード!」


 青松はデモシカシを袈裟懸けに斬った。傷口から火花を散らしながら、デモシカシは苦しむ。通常の攻撃だったので倒しきれなかったのか、デモシカシは頭部だけ青いマスクをつけた人間体に戻り、よろける。マスクは半分ほど砕け、中年っぽい男の顔が覗いた。


 あまりニートっぽく見えない。会社員か何かっぽい。敵はニートを狙っていたのではなかったのか。たかしが疑問に思うと、すかさずナマポンが解説を加える。


「前回、生粋のニートを怪人にして制御しきれなかったので、今回は一般人を使ったっぽいですねェ」


 なるほど、社畜か。ならば死んでもたかしの心は痛まない。駅に現れたのは秋葉帰りのオタクニートを狙ってのことか。


 この後デモシカシにとどめを刺して、ムダメシンとニジヨメンを抑えて強制細胞増殖剤を使わせなければたかしたちの完全勝利だ。しかし青松はデモシカシの顔を見て、凍りついたように固まっていた。


「おい、青松! 何やってんだよ!」


 ムダメシンを引きつけながら、たかしは怒鳴る。赤沢のときと同じパターンだ。まさか青松も怖じ気づいたというのか。


「デモシカ~シ!」


 デモシカシは死に物狂いで抵抗を始めた。デモシカシは鼻息を荒くしながら動かない青松に殴りかかる。


「クッ……!」


 青松は震えながらも愛国無罪ソードで迎え撃とうとするが、どこか動きが鈍い。デモシカシは青松の攻撃を簡単にすり抜け、息もつかせぬジャブの連打で青松を圧倒する。


 青松はそれでもカウンター狙いで愛国無罪ソードを振り、デモシカシは何度か重い一撃を喰らう。それでも手負いの獣は止まらない。青松は徐々に、壁際へと追い詰められていく。雲行きが怪しくなってきた。このままだと負ける。


 たかしがマスクの下で険しい表情を浮かべていると、また厄介さんが現れた。赤沢がエスカレーターを駆け下り、こちらにやってきたのだ。


「黄山、青松! 今助ける!」


 赤沢には今日、戦いがあることさえ伝えていないし、変身アイテムも取り上げたままだ。なぜここに姿を現したのか。犯人は一人しかいない。


「ナマポン、テメェ! やりやがったな!?」


 弓を撃ち続けてムダメシンを牽制しつつ、たかしは怒声を上げる。


「大ピンチになりそうだったので、呼んでおきましたァ!」


 ナマポンは空中を漂いながら飄々と答えた。もちろん赤沢の左手には時計がある。こっそり青松から奪い返していたようだ。


「私が来たからにはもう安心だ! 変身!」

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