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15 いろいろお通夜

 翌日、青松から電話があった。白鳥の通夜が夕方に行われるので、一緒に出席しないかという誘いだ。たかしは承諾し、駅前で待ち合わせることにする。


 ちなみに連絡にラインは使っていない。前に話は上がったが、ラインは韓国産だからと赤沢が断固拒否したのだ。たかしも友達がいないのでラインなど使ったことがなく、青松と白鳥を嘆息させて終わっていた。


 時間より少し早く、たかしは駅に着く。青松も赤沢もすでにいた。さすがにたかしも空気を読んでスーツ姿である。青松も同じく黒いスーツだった。しかし赤沢は高校のときのものと思われる制服姿。企画モノAVかな? さすがに無理があるぞ。他になかったんだろうなぁ。


 たかしもあまり赤沢のことはいえない。黒ネクタイでないことを青松に指摘され、慌てて買いに走るはめになった。痛い出費である。服装なんて、どうでもいいと思うんだがなあ。


 葬儀場に入った三人は青松を先頭に昨日病院で会った白鳥の親戚たちに挨拶し、着席する。三人とも特に怪しまれたりはしていない。多少浮いているような気もしたが、白鳥の友人という若者の参列者も多かったため、あからさまに不審の目を向けられることはなかった。


 すぐに通夜は始まる。坊主がお経を唱え、その後一人ずつ焼香だ。たかしも順番に並び、焼香する。棺の中の白鳥は、綺麗な顔のまま死んでいた。


 焼香を終えて席へと戻る最中に大勢の参列者を見て、たかしは思う。若い女の子など、泣いている参列者もいた。仮に自分が死んだとして、こんなにたくさんの人が来てくれるだろうか。


 来るわけがない。地元の知り合いだって「あいつ死んだのか」程度の反応だろう。誰もたかしのために泣いてくれるわけがない。たかしは、この世に何の痕跡も残さず消えてしまう。身が震えた。




 通夜が終わった後、秘密基地に移動する。今後のことを話し合わなければならない。たかしと赤沢は自転車、青松はバスで移動した。かなり遅い時間になっていたが、理系の学生なら日を跨いで大学に残ることもあるので裏口の施錠はされない。建物の中には普通に入れる。


 薄暗い地下室に三人は集合した。四人掛けの机に、三人が掛ける。まずたかしが訊いた。


「二人とも、まだ戦うつもりなのか?」


「当然だ」


「まあ……仕方がないね。やるしかない」


 赤沢は青い顔でうなずき、青松も言った。


「ロボに乗ったら確実に死んじまうけど、それでもか?」


 たかしがそう問い掛けると、赤沢が強い口調で言った。


「昨日も言ったはずだ。私が責任を持って戦うから心配ない」


「あのなぁ、もうそういう話じゃねぇんだよ。わかれよ。俺はガキの強がりを聞きに来てるんじゃないんだよ。命かかってるんだぞ?」


 たかしはあきれ顔を見せる。しかし赤沢は止まらない。


「わかっている。私はお国のために死んでみせる……!」


 赤沢は立ち上がって熱弁を振るう。特攻隊にでもなったつもりなのか。しかしこの戦いはお国のためではなく、未来人の尻ぬぐいのための戦いである。


「軽々しく死ぬとか言うんじゃねぇよ……! 白鳥は本当に死んでるんだぞ!」


 たかしは思わず立ち上がって身を乗り出し、対面の赤沢を怒鳴りつけた。


「それでも戦えるのは私たちしかいないのだ! 白鳥はお国のために立派に戦って死んだ! だから私も……!」


「いい加減にしろ! 白鳥を何だと思ってるんだ! バカヤロー!」


 たかしは赤沢の頬を平手で打つ。今度は青松も止めなかった。乾いた音が部屋に響き、赤沢は頬を押さえてうつむく。


 特攻隊を全否定するつもりはない。無理矢理志願させられ、薬で恐怖をごまかしながら死んでいった者がいるのが事実なら、本心からお国のため、家族のためにと進んでその身を犠牲にした者がいるというのも事実だろう。今、絶対に許されないことだとしても、当時の情勢だったり時代背景だったりを勘案すれば、簡単に結論は出せないし出るものでもないと思う。


 だが、たかしたちは特攻隊でさえなかった。白鳥は何も知らないまま〈無職大将軍〉に乗って、そして死んだ。端的に表現すれば、たかしたちは騙されていた。白鳥は騙されて死んだ。


 赤沢は涙をこぼしながらまだ言い返す。


「黄山は、自分が死ぬのが怖いだけなのだ……!」


「ああ、そうだよ! 怖いに決まってるだろ! 最初から〈無職大将軍〉のことを知ってりゃ、参加しなかった!」


「戦って死ぬことだけが私の生き方なのだ! 邪魔するな!」


「だったら一人で勝手に死ねよ! 黙って人を巻き込むんじゃねぇ!」


「私が真っ先に死ぬつもりだった!」


「だから、そもそもそういう問題じゃないって、何度言えばわかるんだ!」


 怒鳴りすぎて、のどがひりひりする。一息入れてからドンと机を叩き、たかしは言いたいことを言ってやった。


「おまえがやるべきだったのはな、自分が敵にとどめ刺して死ぬことじゃねぇ! ロボに乗れば死ぬって問題を、俺らに相談することだよ! 黙っておまえが一人で死ねば済む話じゃないんだ! わかれよ!」


 ここまで言っても赤沢は反抗する。


「それでも私はこういう生き方しかできないんだ!」


「バカなこと言ってんじゃねぇよ、現実を見ろ!」


 敵にとどめを刺すのを二回も躊躇したのは誰だ。たかしはそう思ったが、胸の中にしまって口には出さなかった。


 たかしにだって、赤沢の気持ちがわからないわけではないのだ。たかしには何もない。多分、赤沢にも。でも、認めたくない。やればできる人間だと思われたい。隠れた才能があると思いたい。周囲に何もできない人間だと笑われたくない。見下されたくない。だから、たとえ死ぬのだとしても世界を守る戦士として戦う。世界を守って死ぬなら、立派な人間だ。勇者だ。ヒーローだ。人生に意味があったということができる。


 でも、それで満たされるのは自分の安っぽい見栄だけだということに気付いている。命は惜しい。死ぬのは怖い。だから、いざとなったら動けない。たかしも赤沢も、勇者でもヒーローでもないから。最初から死に場所なんか捜していないのだ。生きる場所を探している。どこにもないけれど。


 死に近づいているようで遠ざかっている堂々巡りだった。多分、赤沢も同じところにいる。なのでそこを責める気になれない。


 たかしと赤沢のエンドレスな言い合いに辟易したのか、青松は大きくため息をつく。そして、赤沢の腕を掴んだ。


「今の君を戦わせるわけにはいかないな……」


「何をする、やめろ!」


 赤沢は抵抗するが男の力には敵わない。青松は赤沢の腕をひねり上げ、変身アイテムである時計を奪った。青松はたかしの方を向く。


「黄山はまだ戦う気ある?」


「あ、ああ」


 たかしはうなずく。青松は宣言した。


「俺たち二人でやろう。強制細胞増殖剤を使わせないように戦うんだ。ラストアタックは俺がやる」

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