11 命
「動くな、警察だ!」
数人の警察官たちはこちらに拳銃を向ける。そりゃあ、あれだけ派手な爆発を起こせば警察だって来るだろう。前回は間に合わなかったようだが、前回の事件があったからこそ態勢を強化していて、今回は間に合ってしまった。
「メ、メ、メンドクサーイ!」
手負いのメンドクサーイは警察の姿を見て興奮し、角を振りかざして突っ込んだ。たちまち警察官たちは5tトラックにでもはねられたかのように吹っ飛び、地面に叩きつけられる。警官たちは怪我しただけで死んではいないようだが、放っておけばメンドクサーイにとどめをさされるだろう。
「アアア、ウウウ、ウアアアア!」
メンドクサーイはなぜか頭を押さえて苦しんでいた。やってはいけないことをやったとでもいうのか。
他方、赤沢は下を向いて震えている。マスクに隠されて赤沢の表情はわからないが、前回と同じくたかしには赤沢が何かを恐れているように見えた。
動かない赤沢。苦しむメンドクサーイ。わけがわからないが、嫌な予感がする。迂闊に動かない方がよさそうだ。
青松の方を見ると、青松はうなずいた。たかしは説明を求めるため、ナマポンを呼び出そうと声を上げる。
「ナマポン、来てくれ!」
だがナマポンは来ない。そのうちにメンドクサーイは苦しみながらも、警官たちにとどめを刺そうとのろのろ動き始める。足止めくらいはするべきだろうか? でもメンドクサーイを下手に刺激すると、何が起こるかわからない。
ここで、白鳥がメンドクサーイの前に出た。白鳥は手を広げ、警官たちを守るようにしてメンドクサーイの前に立ちはだかる。
「もうやめて! 人が死ぬのは絶対ダメ! 死んだら、終わりなんだよ……?」
「おいバカ、何やってんだ! こっちに戻れ! おまえが死ぬぞ!」
たかしは慌てる。メンドクサーイが暴れると、白鳥の命が危ない。まず自分の命を大事にしろと言いたい。
「ダメなの! 死んだら、終わりだから……! パパとママも優しかったけど、死んだら、終わりだから……!」
白鳥は、マスクの下で泣いているようだった。白鳥は三年前からずっと病気の両親を介護し、その最後を看取った。
詳しいことは全然知らない。しかし辛かったには違いない。何せ介護だ。たかしなら何もしない。でも白鳥はやり切った。第三者視点から見ればバカ女のヒステリーなのだろうけど、たかしは白鳥を否定する気にはなれなかった。
白鳥の叫びは、怪人となり果てたメンドクサーイに通じない。メンドクサーイは剣を構え、じりじりと白鳥に近づいてゆく。
覚悟を決めて、白鳥は弓を引き絞った。たかしたちは止めるどころか声を発することさえできない。
「終わらない時間とお金の浪費! だけど私は夢に近づいてるから別にいいよねショット!」
白鳥は家事手伝いアローから一際大きなエネルギーの矢を放つ。必殺技は一人でも使えるが、相応に感情が昂ぶってニート力が増幅される必要があるので自由に使えないし、一回しか撃てない。
エネルギーで形成された矢はメンドクサーイを貫き、メンドクサーイはばったりと倒れ動かなくなった。
「やったのか……?」
たかしはつぶやく。どうやら死んだらしい。派手な爆発等は起こらないようだ。どういう仕組みかメンドクサーイは元の人間の姿に戻り、赤い血を流した。怪人に変えられたときに絶命しているとはいえ、気分はよくない。少年の顔から白い仮面が剥がれ、砕けた。
「ごめんね……。でも、みんなの命を守るためだから……!」
白鳥は少年の遺体を見下ろし、謝った。ともかく、勝利だ。たかしは少しだけホッとする。あとは救急車でも呼んでから、この場を離れるだけだ。
「! みんな、伏せろ!」
青松が叫ぶと同時に、たかしたちの周りでいくつもの小規模な爆発が起きる。いきなりの脳を揺らされるような衝撃で、たかしたちは吹っ飛ぶ。
ムダメシンとニジヨメンが、作業場の入り口から歩いてきていた。戦いが終わり、たかしたちの気が抜けるのを待っていたのだろう。ニジヨメンの手には、大きな注射器があった。あれが強制細胞増殖剤に違いない。
二体の怪人を止めなければならないが、三半規管をやられたのか、たかしたちは立ち上がることができない。ニジヨメンは少年の遺体に薬液を注入した。
「ウ、アアアアアッ!」
少年は起き上がり、外に向かってゾンビのようによたよたと歩いていった。少年は再び怪人へと変質しながらブクブクと膨れあがり、巨大化した。
「メンドクサ~イ!」
全長数十メートルにもなったメンドクサーイが低い声でうなりながらたかしたちを覗き込む。
「うわああああっ!」
たかしは思わず悲鳴を上げ、尻餅をついてあとずさる。無茶苦茶だ。反則だ。俺たちにどうしろというのだ。
ここでようやくナマポンが瞬間移動でたかしたちの前に現れた。
「黄山君、私を呼びましたかァ!?」
「バカヤロー、遅いんだよ! あれ、どうするんだ!?」
たかしが抗議すると、ナマポンはドヤ顔を決めた。
「もちろん、皆さんが倒すんですよォ! ようやくロボが完成しましたからねェ!」
ナマポンは、砕けて少年の顔から剥がれたマスクが転がっているあたりに移動する。マスクの破片が光って消失し、代わりに真っ白な携帯電話が出現した。今時誰も使っていないだろうという古臭いガラケーはふわふわと浮遊して、白鳥の手にぽとりと落ちる。
「さぁ、呼んでください! 〈無職大将軍〉を!」




