10 一回は怪人を逃がすのはスーツ代削減のため
次の日の昼頃、ナマポンから連絡があり、たかしたちはまた秘密基地に集まった。
「ニート撲滅団の潜伏先が見つかりましたァァァァァ! 今度はこちらが先手を取りましょォォォォォ!」
たかしたちは無駄にテンションの高いナマポンに、説明を受ける。先日の戦いでナマポンは何もしなかったわけではなく、メンドクサーイに発信器をつけていたという。発信器からの信号で、ナマポンは市内北部の廃墟に敵が潜んでいることを突き止めた。
「どうして昨日言ってくれなかったの?」
青松は尋ねる。どうせならすぐ襲撃した方がよかったはずだ。
「一日置いて皆さんが落ち着くのを待っていたんですよォ。幸い相手に動きはありませんでしたからァ」
プラス、ナマポンは巨大ロボットの組み立てで忙しかった。敵が動いていたら緊急招集するつもりだったそうだ。
例によって白鳥の車でたかしたちは現場に移動した。しかし敵が潜伏していると思われる廃墟は細い山道の先にあるため、車では入れない。たかしたちは近くに車を止めて、歩いて廃墟を目指すことにした。
たかしたちは赤沢を先頭に山道を進んでゆく。寂れた山道のはずなのに、確かに最近誰かが通ったような形跡があった。どうやらビンゴっぽい。
ちなみにナマポンはロボの最終調整のため、秘密基地に残っている。呼べば瞬間移動でこちらに来るということなので、差し支えはない。
たかしは白鳥とともに後ろの方から先行する赤沢、青松についていった。道中、白鳥が話しかけてくる。
「昨日、赤沢さんと何かあったの?」
「いや……特に何もなかったけど、どうしたんだ?」
「だって、赤沢さんが凄く元気になってるんだもん。青松君は部屋に籠もってゲームしてたっていうから、黄山君ががんばったのかな、って」
白鳥は先頭を行く赤沢の方を見る。赤沢は先日の戦闘終了後、ふて腐れていたのが嘘のようにキリッとした顔をして堂々と歩いていた。昨日会って話をしたという程度のことなら、教えてもいいだろう。
「……受験のストレスでおかしくなってたみたいだから、ちょっと話しただけだよ」
「あ、そうなの? 大変そうだね、東大なんだし。でも元気になったんだから、きっと受かるよ」
「……東大は絶望的だって自分で言ってたぞ」
「でも、がんばってるんでしょう? 大丈夫だって」
「そんなに甘くねえだろ」
「周りがそんなこと言うのはよくないよ。努力は絶対裏切らない。だから、信じて見守ってあげないと」
白鳥は無邪気に笑った。白鳥は、ピュアに赤沢を信じているらしい。きっと今までの人生で挫折したことがないんだろうな。いいところのお嬢様のようだし。
関係がないのに、たかしは勇気づけられたような気がした。
やがて目標の廃墟が見えてきた。小さな廃工場である。たかしは提案する。
「ここら辺で変身してから乗り込んだ方がいいんじゃないか?」
わざわざ敵の前に行かなければ変身できないというルールはないだろう。先に変身してこっそり忍び込み、不意打ちしてボコボコにするのだ。ヒーローにあるまじき卑怯な行いとなるが、仕方がないじゃない。戦争だもの。
しかしたかしの提案は青松に却下された。
「いや……強制的にポーズとらされて爆発が起きるから、逆に目立つんじゃないかな」
たかしが自室で初変身したときは爆発が起こらなかったが、それは屋内だったからだ。今変身すると、確実に派手な爆煙が上がる。
「ナマポン呼んでその機能、解除できないのか?」
「昨日訊いたけど、様式美だから無理だってさ」
青松は嘆息する。たかしもため息をつきたい気分になった。
一見無意味に思えるポージングや名乗りは、ニート力を高める効果があるのだそうだ。よって省略することはできない。
「ヒーローたるもの、やはり正面から堂々と乗り込むべきだろう」
赤沢はそう言って、生身のまま廃工場に乗り込んだ。仕方なくたかしも後に続く。
廃工場は面積の大半が開けた作業場となっており、隅に錆び付いたドラム缶が積まれている程度で他に何もない。屋根にはところどころ穴が開いていて、薄暗い作業場に太陽の光が差し込んでいた。
「フゥゥゥゥ、フゥゥゥゥ、メンドクサーイ!」
作業場にいたのはメンドクサーイだけだ。ムダメシン、ニジヨメンの姿はない。
「おい、何か強そうになってないか!」
たかしは叫んだ。メンドクサーイはいかにも防御力が高そうな銀色の鎧を着込んでいた。この間の傷もない。中一日空いたことで、傷の回復はもちろん装備の強化まで行ったらしい。
「私が倒してしまえば問題ない! 変身!」
赤沢に続いて全員変身する。
「終わらないたった一人の受験戦争! 私が受からないのは在日が悪い! ルサンチマンの戦士、ネトウヨレッド!」
「リアルなんて知ったことか! 俺の居場所はファンタジー! 現実逃避の戦士、ネトゲブルー!」
「親に迷惑なんのその! 就活はとうの昔に捨てた! モラトリアムの戦士、留年イエロー!」
「遊び歩くのは自分への投資! 世界は私に絶対優しい! 堕落と怠惰の戦士、すねかじりホワイト!」
「「「「四人揃って、ニート戦隊みんな死ぬンジャー!」」」」
屋内なのに建物がボロすぎて屋外判定されたらしく、たかしたちの背後で色とりどりの爆炎が上がった。建物がボロすぎて爆風も煙も普通に壁や屋根を突き破って吹き抜け、逆に倒壊しない。……しかしこれ、毎回やらなきゃならんのだろうか。普通の戦隊みたいに短縮バージョン作れよ。
「愛国無罪ソード!」
「課金無双ライフル!」
「自主休講アックス!」
「家事手伝いアロー!」
四人はそれぞれの固有武器を出し、メンドクサーイはぬいぐるみを撒いて戦闘員ハロワーンを呼び出す。作業場を舞台に、両者はぶつかり合う。
ハロワーンの戦闘力は大したことがない。たかし一人でも数人纏めて相手にできる程度だ。しかしメンドクサーイの支援に動かれると、途端に厄介な存在になる。
「メンドクサーイ!」
例によってメンドクサーイは雄叫びを上げながら角を振りかざして突進。たかしたちは避けようとするが、そこを狙って五月雨式に剣を持ったハロワーンたちが斬りかかってくる。
たかしたちはどうにかメンドクサーイとハロワーンの攻撃を避け続ける。時折青松が課金無双ライフルでメンドクサーイを撃ったが、新装備の鎧に阻まれて全く効果がない。ジリ貧だ。どうにかしなければ。壁際に追い詰められたところで、赤沢が声を上げた。
「私と黄山でメンドクサーイを止めよう! 青松、白鳥、援護を頼む!」
赤沢は愛国無罪ソードを片手にメンドクサーイの前に躍り出る。マジかよ、と思いながらたかしも続いた。青松と白鳥はライフルと弓の連射で弾幕を張ってハロワーンを追い散らし、二人を支援する。
「オオオオオッ!」
赤沢は愛国無罪ソードを滅茶苦茶に振り回してメンドクサーイを斬りつける。メンドクサーイの鎧から火花が散るが、やはり効果が薄い。メンドクサーイは腰の鞘から剣を抜き、フルスイングで振り回した。赤沢はどうにか愛国無罪ソードで防御するが、凌ぎきれずに勢いよく後ろに飛ばされる。
すかさず入れ替わりでたかしが自主休講アックスを振りかぶり、思い切りメンドクサーイの胴に叩きつけた。頑強な鎧にヒビが入った。メンドクサーイは剣で反撃してきて、たかしは斧を放り出して逃げる。
ここでヒビの入った鎧を狙って、青松が課金無双ライフルを連射する。気付けば青松と白鳥はハロワーンの掃討を終えていた。たかしと赤沢がメンドクサーイの前から退避したことで、射線をとれるようになったのだ。
青松の射撃が鎧に開けた穴を目がけて、白鳥が弓を射る。エネルギーの矢は正確にメンドクサーイを貫いた。
「かわいそうだけど、もうこれ以上の犠牲は出せないから……!」
「今だ、赤沢!」
メンドクサーイがよろける。ここで赤沢がだめ押しすれば勝てる。たかしはそう思ったが、まただった。赤沢は愛国無罪ソードを手にしたまま棒立ちになって動かない。心なしか、たかしには赤沢が震えているようにさえ見えた。
強制細胞増殖剤とやらが投与されてメンドクサーイが巨大化するのを恐れているのか。しかしナマポンの話だと、死亡した怪人にしか投与できないはずである。むしろ他の怪人の姿が見当たらない今こそ倒してしまうべきだろう。
青松もさすがにおかしいと思ったのだろう、銃を降ろす。白鳥はかわいく首を傾げた。たかしも拾い上げた斧を手に動かない。
だが、沈黙が訪れたのは一瞬だけだった。第三者が踏み込んできたのだ。
「動くな、警察だ!」




