伊丹金子と俺
「いつまで寝てるんだい?さっさと起きな!!」
布団を剥ぎ取られ、大声で起こされた。
久しぶりの暖かい布団で、グッスリ寝ていた俺は、その大声にビックリして、飛び起きた。
「え!?」
目の前に濃い目の化粧の妖怪(笑)
もとい金子が立っていた!?
「まだ寝ぼけてんのかい?その小汚ない顔洗って、さっさと朝食食べな!」
「グスグズすんじゃないよ!!」
金子は、慌ただしく台所に消えて行った。
いやいや…朝からその化粧の濃い顔はキツいから…
マジで…(汗)
時計を見ると朝7時…早すぎるだろ…
「早くしな!!」再び金子の大声が響く。
顔を洗って、居間のテーブルに用意してある、朝食を食べる。
朝から純和風の朝食を食べるのは、いつ以来なのか…ボーっとそんな事を考えていると、台所から金子の怒号が響く。
「それ食べたら、庭の草取りに、2階の部屋の片付けしてもらうよ!!」
何で俺がそんな事しなきゃ…
「タダ飯喰わしてやってるんだ、宿代の代わりにしっかり働きな!!」
おいおい…マジか…
溜め息をつきながら、朝食をかきこむ。
今までしたことのない、庭の草取りに以外に時間がかかった。
「腰イテェ~マジで死にそう…」
ボソッっと呟く俺。
「腰痛いだろ~(笑)」
縁側から見てた金子がニヤニヤしながら、声をかけてきた。
「じいさんが生きてた頃は、じいさんがしてたんだけどねぇ…私は見ての通りか弱い老人だろ?」
か弱い老人?どこがだょ…まったく…
「さぁ~さっさと終わらせないと、2階の部屋の片付けできなくやるだろ!!」
人使いの荒いバァサンだな、まったく。
草取りを何とか終らせ2階に上がる。
金子が古ぼけたアルバムを眺めていた。
声を掛けようか、一瞬迷う。
金子がアルバムを眺めながら、寂しげな表情をしていたからだ。
「草取り終ったのかい?」
金子から、声を掛けてきた。
「あぁ~終わりました…」
「じゃあ~この辺にある物粗大ゴミに出すから、もってとくれ。」
俺にそう言い残し、金子は1階に降りていった。
俺は金子の眺めていた、アルバムを開く。
多分旦那さんと思われる男性と金子が写っている。
「へぇ~あのバァサンもこんな顔するんだ…」
結婚式の写真を見付ける。20代位だろうか?今では想像出来ない位に美人だった。
旦那は…お世辞にも格好いいって風ではないが、いかにも人が良いって感じで、おっとりした人物が写っていた。
「俺のがイケメンだよなぁ~(笑)」
いや待てよ…こんな美人も、あんなバァサンになるんだよなぁ~時間は残酷だ…
「さっさと終わらせないと、日が暮れるよ!!」
1階から金子の怒号が飛んできた。
わかりました、わかりました…やりやぁ~いいんだろ~。
2階の粗大ゴミをゴミ捨て場にもって行く。
数回往復してやっと終らせる。
「ご苦労さん、晩御飯何か食べたい物あるかい?時別に作ってやるよ、何でも言ってごらん?」
俺は別に何でも良かったのだが、まぁ~言葉に甘えて
「じゃあ~鰻が喰いたいです。」
「お前贅沢だね!馬鹿じゃ~ないかい?居候の癖して、遠慮って言葉知らないのかねぇ~?」
いやいや、バァサンが何なのかもって、言ったんだろ?
バァサン頭ボケてん?俺がそう思っていると
「あたしゃ~頭はしっかりしてるよ」
金子が俺にそう言ってきた。
「え!」俺声出してた?いやいや~まさか!!
慌てる俺をみて、金子が一言。
「お前の考え位、顔見りゃ~わかるんだよ!!」
絶対バァサン、変な能力あるだろ!!
俺はこの頃から疑っている。
「まぁ~じいさんも鰻好きだったし、しょうがない今日は鰻にするかねぇ~」
そう言って金子は、近所の鰻屋に電話をかけ出前を頼んだ。
俺が、夕方に来た出前の鰻をほうばってると、金子が
「それであんた、これからどうするんだい?」と聞いてきた。
俺は言葉が出てこなかった…
「別に今すぐに、出てけって言ってんじゃ~ないよ?」
「これから自分が何をしたいか?何が出来るか?良く考えな!」
このままバァサンに頼る訳にもいかないし、俺に出来る事…
したい事かぁ… 俺したいんだろ…
風呂上がり、布団に潜り込んで天井をみながら漠然と考えていたが、当然の様に答え何か出るはずもなく、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。