プロローグ
初めまして、けっとしー@です。
誤字脱字、駄文の嵐の稚拙な作品ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。
宴会は昨日の夜から今日の朝まで、ずっと続いていた。
俺の部屋の中は狭いという事もあり、既に隅々まで酒気を帯びている。中に入っただけで酔いそうなくらいだ。
俺を含めて6人がそんな部屋で、ビールの空き缶を増やしながら談笑を続けていた。
大学で同じサークルに入る友達で、一ヶ月に一度はこうして皆で酒を持ち寄って宴会を行うのが習慣となっていた。しかも、絶対に俺の部屋に集まるので宴会後の後片付けは全て俺だし、宴会前に酒の肴を作るのも全部俺だ。良くやってたと思う。
サークル名は『ゲーム同好会』などという、どこにでもありふれたオタク系サークルだ。だが、ここで勘違いしないで欲しいのが、ここではゲームを創るんじゃなく、ゲームを持ち寄ってそのゲームが社会に及ぼして来た影響なんかをそれっぽく論文にまとめる、というのが主な活動である。
だから、俺もだが6人ともゲームについてだけは博識である。そもそもゲーマー達だけの集まりな訳で、そんな奴らの酒の場に上がる様な話と言えばそれはもうゲームの事しか無かった。
そんな感じで夜の時間を最近有名な乙女ゲームがいかに良作かの議論を深めて埋めていって、朝日が昇る頃には解散となった。それ以上は全員の胃袋が耐えきれなかった。
そして、部屋をぞろぞろとふらついた感じで出て行く友人達を、俺もふらふらとしながら見送りにいく。俺の部屋はアパートの2階の一室で、階段から落ちたらヤバいだろうなー、なんて考えて、俺も酒浸りになったというのに一丁前に見送りに出たのだ。
多分、それがいけなかったのだろう。
俺も一緒に降りて、全員が階段を無事に降りれた事を確認した後、俺は朦朧とした頭で階段へ折り返す。一歩一歩、残念なくらいふらふらな足取りで俺は上っていった。
そして、足を滑らせた。しかも不幸な事に、後一歩で2階に着きますよ、という所でだ。
一瞬の浮遊感、そして、あ、これヤバいんじゃね、という本能的危機感と落ちた後の自分の姿が脳裏によぎって。
次の瞬間に、耳の近くで何かが潰れる音がして、俺、宮沢隼人と言う存在は、呆気なく死を迎えたのだったーーー
ーーーと、そう記憶しているんだがなぁ…。
俺はあまりの事態に、声も出せずに呆然と突っ立っていた。
どこに?そりゃ、真っ白な地面の上に、だ。
そこは右左、上下、斜め、360度どこを見渡しても白ばかりな、完全な真っ白空間だった。俺はそんな所に、裸で突っ立っていたのだ。
何故か俺の身体は普段の凹凸は無く、のっぺりとした感じのマネキンの様な仕上がりへと化していた。股間の部分は何故かそこだけ暗くなっていて、アニメとかで良くあるヒロイン達の入浴シーンの様な感じとなっていた。誰得だよ。
「やあ、目を覚ましたんだね」
困惑して動けないでいた俺の上から、幼い少年の声が降って来た。視線を上にやると、先ほどまで何も無かった空間に、小学生程の小さな男の子が浮いていた。
少年は猫の様に目を薄めて、そして楽しそうににやけながら腰を曲げる。
「こんにちはっ。僕は神様。君が今まで生きていた世界を管理する者さ。初めまして、隼人君っ」
頼んでも無い自己紹介を弾む様な声で行う少年に、俺は目を白黒させた。
「は?か、神様?」
「冗談ではないよ。僕は歴とした神様さ。人間からはゼウスだとか呼ばれてるけどね」
ゼウスって、それ最高神じゃんーーー俺は顔が引きつるのを自覚しながら、少年の容姿を眺める。
少年の目はとても綺麗な碧眼だ。形の良い眉に、小ぶりな鼻、そしてふっくらとした唇。西欧の人形なんじゃないかという程完成された美貌を感じさせるショタフェイスだ。髪の毛は真っ黒で、古代ローマ人が着ていそうな服を身に着けていた。
確かに、完全なその美貌は神様っぽい雰囲気を醸し出していた。
「ゼウス(ショタ)って、本当、何の冗談だよ」
「なんだよぅ。人の事じいっと見ておいてその感想はっ」
口では不満そうに言いつつ、あははははと楽しそうに笑うショタ神。特に気にしていないらしい。
俺はそんな笑うショタ神に、目を覚ましてからずっと気になっていた事を尋ねた。
「なあ、俺って死んだのか?」
「うん。死んだよ。それはもうあっさりと」
即答で、特に何の感慨も無く笑顔でそう告げられる。
「後頭部から落ちたからね。頭蓋骨が割れて脳が潰れて、心臓が止まってからのショック死って所かなー。運が無かったねっ」
「そうあっけらかんと言われると、何だかなぁ…」
俺は不思議と自分が死んだ事をすっと理解して、それから首を捻った。
「で、そんな運が無い俺に一体何の用で?」
「よくぞ聞いてくれましたっ」
俺の言葉にぱんっと手の平を打って、更に上機嫌な顔をずいっと近づけてくる。言葉にも出来ない程丹精に創られた美貌が、目と鼻の先にあった。
「君は運悪く死んだっ。だけど、君は運が良いっ。こうして僕に、何十億という魂の中から選ばれたんだ。君はとても運が良いよ。それこそ全人類で一番ねっ」
身体を悩ましくくねらせながら恍惚の表情を浮かべショタ神。
「選ばれた?一体何にだよ」
「君は、転生ってものを知ってるかい?」
ショタ神は俺の疑問に疑問で返した。俺は視線を浮かせて、その単語についての記憶フォルダを引っ張りだす。
「転生って…あれか?異世界に新しい命で転生するっていう、web小説で良くある」
「そうっ。まさにそれだよそれなんだよっ。君には、転生してもらいます!」
はい、ぱちぱちぱち〜、と拍手を送られて、俺は呆気にとられて「はあ?」と聞き返した。
「ちょ、おい。待て、そりゃ一体どういう意味だ!」
「だあから、君には転生してもらうんだよっ。良かったね、運が良いね君っ」
「転生って、あの?俺がさっき言った意味での?」
「うん」
首を勢いよく縦に振られる。俺は楽しそうに笑うショタ神に、顔を更に引きつらせた。
「…ち、ちなみに元の世界には…」
「勿論無理だよっ。そんなの楽しく無いじゃんっ」
「楽しく無いってなぁ…」
俺は頭を掻いて、困惑しきった表情でショタ神に尋ねる。
「俺が転生って、突飛過ぎて訳が分からないんだが。何故転生なのか、教えてくれないか?」
「えっ?僕が楽しむ為だけど?」
それ以外にあるのかい?と逆に問いかけられて、俺はさらに言葉を詰まらせた。何その俺様理論。
「俺に拒否権は」
「無い」
これもにべもなく即答だった。
「この話には君にもメリットがあるんだよ?記憶はそのままで、君という意識は死なずに生き返れる。これ以上に幸せな事ってある?」
「そも、事故で死んだって時点で何もかも不幸なんだが」
しかも、その死に方が酔って階段から落ちるという物なのだから救い様が無い。
「そんな事無いよ。君以上に残酷な死に方をして逝った人間なら沢山いるよ?すり身にされたり、生き埋めにされたり、裏切られたりね。そんな日常の一コマの様に死ねた君は非常に運が良いっ」
「ああそうかよ」
ずびしっと突きつけられたたおやかな指を押しのけて、俺はため息を吐き出した。
ふむ、転生。転生か。そりゃ、俺も中学生や高校生の頃はそう言うのに憧れてweb小説に読みふけったりしたし、妄想の中で異世界に行って『俺TUEEEEEE!ヒャッハー!』をしたりした事もある。そう言うのに憧れがあるのは事実だ。だって男の子だもん。
ゲームが好きである事だって、そういうファンタジー系な世界に行ってみたいなという欲望があったというのも理由の一つなのだ。
「…まあ、悪くは無いかもな。どうせ死んだ命だ。このまま消えるんなら、異世界に行った方がまだマシだよな」
そこまで考えて、俺は頷きながらそう言った。そんな俺に、ショタ神は目を輝かせて、そして俺の手に自分の白くて細いすべすべな指を絡めてぶんぶんと振った。
「君は話が分かるやつだっ!異世界転生はロマンだよねっ!話が合って本当に嬉しいよ!」
「いや、別にロマンだどうだって話は一度もしてないが」
「いやぁ、断られたらどうしようかと内心、困ってたんだよねっ。次元の狭間に永久に閉じ込めたり、グングニールで貫き続けたり、ミンチにし続けたり、色々と考えてたんだけどねっ」
「転生させてくれて本当にありがとう俺頑張ります」
俺は青い顔をして腰を90度に曲げた。やばいこのショタ神邪教の絶対神の類いだった。
ショタ神はそんな俺の頭を撫でて、「期待してるよっ」と笑顔で言った。怖かった。
「それじゃあ、早速行ってらっしゃいだね。ちゃんと楽しい事して、僕を楽しませてね?」
「あんま期待しないで欲しいがな」
ああそれと、とショタ神は付け加える様に言った。
「転生する世界は、君が良く知る世界だから。そこは安心してねっ」
「は?そりゃ一体どういう…って、どわあっ!?」
怪訝な顔をして首を傾げた瞬間、ショタ神は細い指をぱっちんと鳴らした。それに呼応して、俺の足下に半径1m程の真っ黒な穴が空いて、俺はそこにずぼっと落ちた。
「頑張って!君なら出来る!応援してるからっ」
「いやっ、ふざけんなよてめえええええ!」
途轍も無い浮遊感が恐怖に変わって、風の塊が俺の身体中を打ち付ける。
真っ白な世界から一転、真っ黒な世界へと乱暴に落とされた。俺は真っ黒な世界に一つだけ空いた穴から、覗くショタ神に向かって手を伸ばす。
落ちていき、俺が意識を失う直前まで、ショタ神はにこやかに手をふり続けていた。