序章「ネオン街ととんこつラーメンバリカタ」07
というわけで更新です。
月曜日は体調が悪く申し訳ありませんでした。
これからも長い目でよろしくお願いします。
「リアちゃんかー!」
店主は馴れ馴れしくリアの名前を呼ぶ。まあ、元々接客業の人間なのだから当然か。
「えっと、あなたは?」
「俺?」
名乗っていなかっただろうか?
幸良はちょっと疑問に思ったが、そういえば名前を呼んだのは店主だけだったか……。
「俺は、――幸良」
苗字の部分がぼそぼそと聞き取れなかった。
リアは眉をひそめる。
「あのー前半がよく聞こえなかったのですが……」
幸良はちょっと困った感じで頭をかく。
その様子をニヤニヤと見ている店主。どうやら事情を知っているようだ。
「えっと……」
不思議そうに見つめるリアに、勘弁したように幸良が両手を上げる。
「そんな顔をしなさんな。戸次だ、戸次幸良」
「……ベッキー? 外国の方ですか?」
「伸ばすな!」
「ひっ……!」
急に叫んだ幸良の声にリアが身を縮める。
しまった……。
幸良はバツが悪そうである。
「あーすまん。ガキの頃からからかわれてな。ベッキーじゃなくて、『べっき』だ」
「ベッキ?」
「そう、戸次だ」
ちょっと戸惑いながら幸良の苗字を呼ぶリアになぜだか彼は満足気である。
リアはうーんと考えると、ピンと指を立ててにっこり笑う。
「でも、ベッキーというのはいいじゃないですか! 愛称みたいで、私は好きですよ」
「いや、あのなぁ……」
顔を抑えてため息をつく。
「はっはっは! 幸良〜観念するんだな。こんな可愛い子に呼ばれるのはいいじゃねえか!」
「よくなか!」
ふんっと鼻息を荒くして腕を組む。
その様子が何故か可笑しくて、リアがふふふと笑う。
「……なんね?」
「いえすみません。先ほどのとギャップが……ふふふ」
「確かに雰囲気は怖いけど、話してみるといいやつだぞ幸良は」
店主がよくわからないフォローを入れる。
「まあまあ、それはよかけん。注文は? お前はいつものでいいんだよな?」
「ん? ああ、ラーメンバリカタ」
幸良がよくわからない言葉を言った。ラーメンはわかるのだが、ばりかた? なんだろうか?
「そいで、リアちゃんは?」
「え? ええっと……ベッキーと同じもので」
不意をつかれて慌てたリアは少し早口で注文した。
すっかり、ベッキー呼びが定着してしまったことに幸良は静かに息を吐いた。