序章「ネオン街ととんこつラーメンバリカタ」06
といわけでようやく名前が出てきました
よろしくお願いします
「ご飯ですか?」
少女はきょとんとした顔で少年を見る。
「そ、そうだ!」
思わず目を逸らしてしまった。なんというか……かわいい。
顔立ちから察するに純日本人という感じはしない。ハーフか、クォーターか。恐らくあの髪も地毛だろう。
それにあと……。
「どうかしました?」
ぽよんとその胸が揺れた。
「何もなか! それより行くぞ」
少年は頬を染めて先行する。その後ろをたとたととついていく少女。
何よりもまずはこの街から抜けよう。いささか、十六歳の男女が歩くにはあまりふさわしくない。
街を抜け、橋を渡る。
ここは少女が最初に逃げていた人通りの多い街であった。
「えっと……」
スタスタと歩く少年に付いていく少女。すっかり気持ちは落ち着いており、街を見渡す。
四月の福岡の街は人通りに溢れていた。少女の記憶では確か、天神という街だったはず。
「あ……」
少女の鼻腔をくすぐる何かがある。これは覚えがある。逃げていた時に思わず意識が向けられたものだ。
あの時は前を見ていたが、なるほど屋台だったのか。
少年は並んでいる屋台の中から真っ直ぐにとある屋台へと向かって行く。
「ういーっす」
慣れた感じで暖簾を潜り少年は座る。少女も慌ててそれに習う。
濃厚な匂いがより一層強くなった。
「おう、幸良《 ゆきよし》……と、このお嬢さんは?」
幸良と呼ばれたのは――この少年のことだろう。
幸良は彼女の方を見て、再び店主の方を見る。
「中洲で絡まれてたから助けた」
「なーるほど、だからちょっと汚れてるんだな」
はっはっはと笑う店主。よく見ると彼の服の袖先などに軽い汚れが付いていた。
暗がりだったため気が付かなかった。
「で、お嬢ちゃんは?」
「へ?」
「そういえば、俺も知らんかったな」
何を話しているのかよくわからないで、両者の顔を交互に見やる。
それを察した店主が手をうつ。
「名前だよ、お嬢ちゃんの名前」
「あー。そういえば……」
自分としたことが名乗るのをすっかり忘れていた。
少女はお辞儀をする。ふわっと金髪が揺れる。裸電球のやけに眩しい光に輝く。
「入田《 いりた》リアです」