序章「ネオン街ととんこつラーメンバリカタ」02
ほぼ日刊更新で行きます
おそらく3ヶ月ほどで完結予定
「ひ……」
少女は小さな悲鳴を上げる。男の接近に合わせて少女も下がる。
しかし、それはすぐに終わる。
トン……と背中に堅いそれを感じる。冷たく、慈悲も感じられない。ついに壁に追い込まれた。
このお守りを手放せば勘弁してくれるだろうか?
いや、それはありえないだろう。こういう場合口封じのためにきっと持ち主にも危害を加えるものだ……。
ならばどうする?
戦う?
できるわけがない。自分よりも背丈のある男。それに結合者の本分は戦闘にあらず。
いよいよもって万事休すかと思われた――その時だった。
「お前、何やってんだよ?」
少女の視線の先、さらに自身の一メートルまで近づいてきた男の後方、ネオンの光が影となって声の主のシルエットがあった。
「ああ?」
男は意識を少女ではなく、呼び止めてきた背後の声へと向ける。
声の主はゆっくりと近づいてきた。
男の反応を見る限り、仲間ではないようだが……。ならば一体?
「どんな事情があったのか知らんけど、さすがにいい大人がやってよかことじゃなかやろ」
この街特有の話し方をしている。つまり、地元の人間か……。一応少女もこの街に住んでいるが、生まれは東京だ。
そして、少女と男に近づき、ようやく声の主の姿がはっきりと見えた。
若白髪というには、極端すぎる白髪の髪だった。いや、よく見ると少し青みがかっており、稲妻のような雰囲気を感じた。
背丈は男のそれと同じくらいだが、顔つきはまだ大人のそれではなく、十代後半のそれであった。
見ただけだと、少女と歳は近いか変わらないほどだろう。
黒が濃い目のブレザー制服。右腕の二の腕部分には「SL1」と書かれた腕章をつけている。それだけなら、地域ボランティアの何かかと思えるが、一箇所おかしいところがあった。
彼の右手には刀が握られていた。
鞘に納まっているが、この形は紛れもない刀である。
彼は鞘に納まっている刀の真ん中部分を握っていた。今にでも居合の一閃をお見舞いしそうな雰囲気だ。
「てめえは誰だ?」
「あえて言うぞ、名乗る必要はなか!」
「格好つけやがって――ん?」
男は制服の少年の腕章に気づくとニタァと気持ち悪い笑顔を見せる。
「なんだあ、てめえ『ソロプレイヤー』か?」
ソロプレイヤー。
この世界にはそれなりの人数が人間のそれを遥かに超えた能力、通称「スキル」を持っている。
それらは実に多く、また人間離れしたものである。
人々はそのスキルを持った人間を「スキルホルダー」と呼んでいる。
そして、力を持ったら当然それを悪用する連中が出てくる。そんな奴らを取り締まるのが自警団と呼ばれる集団だ。
彼らは徹底した統率で悪人を見つけ、時には戦い、人々の平和を守っている。
しかし中にはそれが嫌な、一匹狼なスキルホルダーもいる。
もちろん、それには特別な理由があったりするので一概に自警団に所属するのが嫌だというのもあるが……。
それでもスキルによる犯罪などを止めたいと思った一匹狼のスキルホルダーのことを「ソロプレイヤー」、たった一人の自警団としてそう呼んでいるのである。
「ならなんだ?」
「悪いがお前みたいなガキンチョにやられるわけにはいかないんでな! 邪魔をするというなら覚悟をしてもらうぜ!」
男の矛先は少女ではなく、突然やってきたソロプレイヤーへと向けられていた。
「来るとよか、俺が強かってことを教えてやっけん!」
ソロプレイヤーの少年は刀を持った右腕を後ろに半身の体制を取る。
まさに居合い抜きの構えそのものだ。