序章「ネオン街ととんこつラーメンバリカタ」01
ほぼ日刊更新で行きます
おそらく3ヶ月ほどで完結予定
少女は何度も後ろを振り返りながら街を走る。
長いこと走ったのだろう、空に浮かぶ月のような輝きのブロンドの髪が汗で頬に張り付いている。
だんだんと脚も疲れてきた。最早、体力ではなく気力で夜の福岡の街を駆ける。
何度か通行人にぶつかりそうになりながらも、それを縫うように走り抜ける。
人集りに交じれば大丈夫だろうと思っていたが、それは少女を追う男も同様だった。背丈が高い割には非常に敏捷性がよく、少女よりもスマートに走っている。
「はぁ……はぁ……」
息は切れ切れ、どうしたものか……。
だが止まるわけにはいかない。止まったらきっとやられてしまう。
現代社会で追手から逃げるというのもなかなかありえないのだが、現実問題そんな状況なのだから仕方がない。
普段はそれほど気にならないのだが、同年代の少女より少し大きめの胸が重く感じる。
膝が少し隠れるほどのフレアスカートだったのが幸いした。走ることに邪魔にはなっていない。
ひたすら少女は無我夢中で走る。
幅が広い歩道には多くの屋台がある。鼻腔をくすぐる香りに寄せられそうになるのだが、今はそんな場合じゃない。
「逃げ切ったら……逃げ切ったら!」
なんてことを言っている場合でもないのだが……。
ネックレスの先が何度か胸に当って煩わしくなってきた。走りながら首から外し、右手に巻いてぐっと握る。
これは、彼女が「結合者)」になると言った時に母から貰ったものだ。
曰く、きっと答えてくれるとかなんとやら言われたものだが……。
「何を……どう、答えてくれるのですか!」
お守りとか言うならどんな形でもいいから助けて欲しいのだが。
がむしゃらに走っていたらいつの間にか人通りが少なくなっていた。いや、違う。人の感じが変わった。
いわゆる飲み街というのだろうか?
きらびやかなネオンが光り、中々アダルトな雰囲気だ。酔っぱらいの中年男性が何人もいる。
初めて見た景色に少女は少し驚いたのだが、すぐそこまで男の靴音が聞こえてきた。
「待たんかぁ!」
「待てと言われて、待つ者がいるわけないでしょう!」
少女はこんな状況に関わらずなぜ挑発するようなことを言ったのだろうか……。どうにもわからない。
しかし、少女はネオン街を走り、そして――
「え……?」
少女の足が止まった。
行き止まりにたどり着いたのだった。
ここに来てようやく少女の顔が青ざめる。血の気が引く。
足音が止まった。少女は震えながら振り返る。
「ちょこちょこと!」
男は息を整えながら、彼女の方へ歩いてきた。行き止まりということでもう走る必要もないと判断したのだろう。
「さあ、お前のそれを貰おうか」
男の狙いはズバリ、彼女が持っているお守りである……というか、これがあるせいでこんな目に遭うのならお守りどころか呪いの何かに思えてきた。
なんてものを母はくれたのだ!
怒りの矛先をこの場にいない母親に向けるが、男の歩みは止まらない。じりじりと距離が縮まってくる。