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ほことたて  作者: 盆戸炉
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42話 シェゾリア・ホルン

 午前一時、アキュレスの寝室にいた三人は緊迫していた。

「わざわざ呼び鈴鳴らすとは、随分と"粋"な領主だな」

「ど、どっちですかね……」

 深夜のエイデン邸に、心なしかいつもよりも冷たい音色の呼び鈴が、嫌に大きく響いたからである。それを鳴らした人物は、バグリー公爵夫人が、ホルン子爵のどちらかであることは明らかだ。

 アキュレスは真剣な顔をして二人の方を向いた。

「とりあえず行くよ。二人とも」





「来ちゃった☆」


 扉をあけると、そこにいたのはホルン子爵であった。その後ろには、深夜の暗さによって不気味さが増したハンプティ・ダンプティが直立している。

「シェゾリア……」

「本当はこんなことしたくなかったんだけどねぇ? でも、アキュレスにいを最後に殺すのはちょっと……と思って」

「……そっか。じゃあ一つだけお願いしてもいい?」

「ん? なあに?」

 アキュレスはホルン子爵に庭での戦いを提案した。すると、彼は快くそれを受け入れる。

「もちろんそのつもりだったよ! じゃなきゃわざわざベル鳴らさないでしょもー……。

 じゃあ、行こうか」

 子爵は一気に雰囲気を変えた。殺気を纏い、使い魔を連れて庭へと向かって行った。アキュレス達もそれに続く。


 ナツは固唾を飲んだ。これから、子爵との生き死にの戦いが始まる。



 庭へ到着し対峙すると、一息つく間もなく子爵が仕掛けた。

「いけ、ハンプティ・ダンプティ!」

 すると彼の使い魔たちは真っ先にナツへと向かって行く。それを見たハルバードはすかさずナツに魔法を浴びせた。

 その炎がキラキラと消えていく様を見て、子爵は目を見開いた。


「何、それ……」


 そんな主人をよそに、ハンプティ・ダンプティは一切動揺はせず、一体がナツに向かって電気を浴びせようとする。

 しかし、それもまたナツの目の前で消えてしまった。彼女は得意げにしている。

(よしっ! これでしばらくは大丈夫!)



「魔法攻撃はするな!」


 子爵がそう叫ぶと、使い魔たちが今度は短剣を取りだし、尚もナツへと向かう。それはまるで機械の様に何の躊躇いもない。

 しかしその攻撃も、ナツは腕をクロスさせて受け止めた。ズズッと後ろへ下りはしたものの、傷はどこにもない。


 子爵は混乱していた。

 彼の人生はさほど長いものではないが、こんな事が出来る使い魔は見たことも聞いたこともない。

 先日彼がナツにちょっとした疑問を持ったのは、間違ってはいなかった。しかし、それでもこれは予測ができないだろう。


 アキュレスはこれを狙っていた。

 ハルバードよりも明らかに劣るであろうナツを敢えて争いの前に見せ、彼女に攻撃を集中させるように仕向けたのである。

 結果、子爵はナツを単体で狙い、彼女のイレギュラーな(さま)に混乱している。


 しかし、それで堕ちる子爵ではない。すぐさま思考を巡らせ、次を考える。

「ナツねえには魔法を浴びせられない。最悪ハンプティが浴びせたものが利用さ……いや、まてよ。

 ハルにいは"ワザと"浴びせたな……。

 チッ! 状況は最悪じゃないか」

 彼は聡明である。今の状況を確実に理解した。


 すると今度はターゲットを変え、ハルバードに向かわせようとした。だが、気がつくとハルバードの姿が見えない。

「どこへ行った!?」

 ハンプティ・ダンプティも彼を捕捉できず、固まっている。

 すると、暗闇の中から低い声が響いた。



「こんな子供騙しにかかるとは、やはり貴様もまだ子供だな」



「!?」

 ハルバードはハンプティ・ダンプティの顔に向かって回し蹴りを決めた。

 ハルバードは生成した黒い霧で身を隠し、攻撃の機会を窺っていたのである。

 一見単純に見える方法であるが、混乱していた子爵相手には功を奏した。


 二体の仮面が宙を舞う。

「……!」

「えっ……!?」

「これは……」

 そしてアキュレス達は、仮面が取れた姿を見て驚愕した。

 

 何故なら、ハンプティ・ダンプティの顔が『無かった』からである。


 目も、鼻も、口も何もない。ただ真っ白な"卵"の様であった。

「なっ……なにこれ……」

 ナツは所謂『不気味の谷』を感じていた。人の形をして、人のように動いているのに、完全に人ではない。

 吐き気が込み上げてくる。


 すかさず子爵が攻撃命令を出した。ナツとハルバードが動揺している今が、子爵にとって最後のチャンスである。

「やれっ!」

 ハンプティ・ダンプティはハルバードに向かい、ナイフを振りかざす。

 ニ体が左右から同じように向かってくる。ハルバードが前に避けようと地面を蹴り上げるが、避け切る直前に一体が彼の腕を切りつけた。

「チッ……!」

「ハルバードさん!」

 ナツが心配そうにしているが、ハルバードは構うな!と叫び、そのまま切りつけてきた一体に回し蹴りを決める。

 しかし、もう一体が彼に迫っていた。すかさずそれにも回し蹴りを決めようと足を上げるが、予想以上に移動速度が速く避けられてしまう。

 そして、ハルバードに炎を浴びせようと構えた。

(ハルバードさんっ……!)

 それを見たナツはそれを受けに走った。魔法はナツの身体に集中し、消滅。

 お互い体制を整え、振り出しに戻る。


 バキリ、と仮面が割れる音だけが辺りに響いた。

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