回想
「本日未明1時4分、中国海軍は海上自衛隊に対し、魚雷に
よる攻撃を受け戦闘状態へ入りましたが、無事回避。
現在戦闘は小康状態に入っています……」
アイドルなのかアイドルじゃないのかよく解からない
アナウンサーの棒読みから始まり、戦争ジャーナリストに
話を振る
「これは間違いなく戦争です。是が戦闘なのです!」
果てのないいつものお決まりの言葉で締めくくるジャーナリスト
ブラウン管から映し出される映像に冷めた態度でいる自分が
いた
無意味にコーヒーを啜り、もう二日も寝ていない自分を叱咤する
外交オンチと陰口を叩かれながらもアジア平和のため全てを
捧げてきたものが音も無く崩れ落ちた
「総理、中島外相から連絡がありました、交渉決裂です。
魯国家主席は沖縄返還とともに軍を引くと言っています」
秘書からの一言にまたも絶望は広がる
「万が一攻撃が命中した場合、自衛権は行使しますか?」
「……むりだな。我国は憲法9条に縛られてる。まして、
前例が無い事件だ…皆対応に困っている」
「では見殺しにしろと?」
「そうではない。私的にはすぐに攻撃を仕掛けて、殲滅して貰いたい
ものだがな」
「だが私達は何も出来ないんだよ、歯痒いばかりだ」
「だがいずれ煉獄の扉は開けなければならない」
「煉獄の扉?」
「いずれわかるよ……」
佐島は何も出来ない自分に無力を噛締めていた……
「・・・・・・」
戦闘が終わり7時間。全員の疲労が限界に近づいていた
初めての実践、それに伴う緊張。戦闘が終わり張り詰めていた
緊張の糸が切れ疲労がどっと押し寄せてきたのだろう
「斎藤1曹、レーダーに感は?」
「対空・艦・潜いずれも感無し」
艦長が一定感覚で聞いているが全くといっていいほど無にも無い
艦長までが欠伸を噛締めている
ヘリーのローター音がうるさい。中国の哨戒ヘリが上を通過している
反撃命令があるわけでも無くうっとしい音を聞いていなければならない
「航海長よりCICへ敵艦の動きが活発していますどう対処しますか?」
「CICより航海長へそのまま待機、以上」
「航海長よりCICへアイ・サー」
また重い空気が流れた。何もしてくれない政府に怒りと絶望を覚えた
「レーダーに感1、こちらに向ってきます。……我が艦隊です」
「何故今向ってくる?おい、艦長に繋いでくれ」
いつの間にか艦橋にいってしまった艦長を再び呼ぶ
「瀧瀬砲雷長、こちらに向ってくる艦から打電がありました」
「読み上げてみろ」
「16:52より打電"我、補給艦マシュウナリ。貴艦ノ補給ヲ致ス
許可ヲ求ム"とのことですいかがしますか?」
「ご苦労だ」
「はっ!」
通信員は敬礼をして持ち場に戻っていった
「CICより艦橋へ艦長、補給艦が来ましたいかがします?」
「今はしなくてよいデフコン5をこのまま維持しろ」
「アイ・サー。通信員、補給艦へ打電"中国艦ノ動キガ不審ナリ
今シバラク待テ"と打て」
「砲雷長、ヘリがこちらに向っています」
こんな時にヘリとは1つしかない…敵艦観測ようは攻撃するための
距離と座標を把握するのだろう。中国にはイージスもなく更に攻撃
が無いのを知っているからヘリを飛ばしてきたのだろう
「両弦全速、針路1−1−5面舵一杯」
艦長の声が聞こえた。いつのまにか艦橋からCICに降りてきてた
「アイ・サー!両弦全速取り舵一杯!」
復誦が聞こえて徐々に艦が動き始めた
「!?敵観測ヘリ本艦を通過!…補給艦に向っています!」
「観測ヘリが?はっ、ましゅうが危ない!打電"スグニ戦闘カラ離脱セヨ!」
「無駄ですぜ艦長……」
「何がだ?斎藤?」
「中国からハープーン(対艦火器)発射を確認。アクティブレーダー反射を
ましゅうに確認。弾着まであと4分53秒」
海上自衛隊に始めての危機が訪れた……