招かざる客
恐ろしいほど更新が遅れてしまいました。申し訳ありません(泣)
「うぅ……瀧瀬さん……」
ポツリと細い声を振り絞って出した浅尾の言葉で瀧瀬は自我を取り戻した
「あぁ……すまない」
瀧瀬と浅尾は見詰め合ったまま動こうとしない
この間に耐え切れなくなった瀧瀬は、たまらなく屋上から逃げた
※
「くそっ!」
煮え切らない頭の中を瀧瀬はむりやり叱咤する
美雪はいない。もう二度と会えるはずがないとわかっていてもいまだ俺の頭は美雪を求めている
二課のオフィスに着くと課長が神妙な顔をしていた
「瀧瀬、お客さんだ……」
瀧瀬にはわからなかった。何故客人が来ただけでこんな神妙な顔をするのか
「応接室に待ってもらっている。早く行きなさい」
「あ、はい」
釈然としない課長の行動に不信感を覚えながらも応接室へと歩を進める
ドアを二回軽くノックしてドアノブを回す
応接室のソファーに座っていた中年と見える男性は瀧瀬の顔をみて微笑し話し掛けてきた
「待っていましたよ。こんにちは」
みた事もない男性だった。身長は170センチ前後、ダークグレーのスーツを着ていた。
顔立ちは中年そのものだが、出している空気はとても中年男性のものとは思えなかった
そして目つき、物腰柔らかそうな雰囲気を全身に出しているが娑婆の目ではない
「私はこういうものです」
差し出してきた名刺を素早く見る。『保証生命』と書いてある
「保証生命……」
頭の中に一筋の光が走った。『保証生命』、地方公務員向けの生命保険会社で地方勤務の
警察官に斡旋される保険である。そのためこの会社の90パーセントの契約は警察官であったはずだ
表向きは生命保険会社だが実は、歓楽街における外国マフィアと暴力団の銃器・麻薬取引の
現場に突入、逮捕・ブツの確保を任務としている特別機動捜査隊、通称「特機隊」のアジトで
ある。そのため会社の支社は歓楽街の近くに建てられている
北海道警察のように、警察庁監督下でも汚職が摘発されているのに暴力団との癒着がないと は言えないため、全都道府県警察に警視庁隷下のもと特機隊が設立された
最初に目つきで感じた疑念が確信へと変わっていった。
間違いない、コイツは警察庁の人間だ
「あんた……どこの畑の人間だ?」
※
名刺では吉田と名乗っている人間は右手を顎に乗せて動こうとしない
2課のオフィスの奥にある応接室はまるで時間が止まっているかのような静かさだった
顎に手を置いていた吉田は微笑を浮かべて言った
「畑ですか……なんのことやら」
「警察庁の手先が俺になんの用だ?」
話をはぐらされたのが気に食わなかったのか瀧瀬は語尾を荒げて言った
「おやおや、そんな熱くならなくても」
年の差か今回は瀧瀬のほうが分が悪い。完全に苛立った瀧瀬は無言のまま応接室から
出ようとした
「サッチョウですか……。どうやら市ヶ谷と横須賀には隠蔽は成功していたようだ」
「どういうことだ?」
ドアノブに手を掛けようとしたときだった。突然の意味深な言葉に瀧瀬は再びソファー
へと向った
「あれ?帰らないのですか?」
また微笑を浮かべながら嫌味を言ってくる吉田は無視して質問をする
「貴様……サッチョウではないのか?」
コホンと一つ咳払いをして吉田は言った
「ぼくらはジャガイモなんですよ」
「ジャガイモ?」
鸚鵡返しで聞いた瀧瀬の反応をあたりまえだという表情を見せながら吉田は饒舌な口調で言う
「そうです。僕らはずっと土の中で生活しているのです。外から見ればどうのように 成長しているかもわからないし、大きさも同じわけではない。そして土地も取る」
「何を言いたい?」
再びイライラしてきている瀧瀬を無視して吉田は続ける
「やがて大きく育っていき頃合を見て収穫したとき、娑婆に引き戻されたとき、公安としての
人生は終わるのです」
「まさか……ハム(公安)?」
「その通り」
警視庁公安警察、国家の安全と秩序を守る陰日向の組織
いてもたってもいられなくなった瀧瀬はいきなり立ち上がり、さっき貰ったとく名刺をビリビリに破いた
「手帳を見せててくれ」
懐から出てきた警察手帳を見て、この吉田の言っている事が本当かわかった
階級は警部補だった
「あんたはハムの浸透員か?」
「その通り」
「私の正式な肩書きは警視庁公安部5課、特殊浸透員、吉田隆警部補です。
現在本官は、斎木警備企画課情報担当理事官の密命もと動いています」
公安警察は形としては警察庁に組み込まれているが、機能的には独立をしており
普通の警察とは任務の内容も違う
「それで、サッチョウに使えている公安さんが俺になんの用だ?」
「一ヶ月前、公安調査庁のエスから連絡が入った」
公安調査庁とは大きく纏めてしまえば公安警察と活動内容が同じだ。
一つの違いとすれば公安調査庁は逮捕権が無い
ちなみにエスとはスパイの英文字スペルの最初のエスをとってのこと
「2週間後、指定暴力団神谷組と中国系マフィア殺華の間で大規模な取引が
行われるらしい」
先程の人の良さそうな顔つきと物腰は何処へ行ったのかその世界の住人としての厳しい
顔つきをしている
「偽装通貨や拳銃、麻薬のレベルでしょうね」
当然といえば当然で、暴力団レベルの取引と言えばその程度である
「いや違う」
「違う?」
青ざめた顔をしている吉田を見て何か嫌な予感がした
「一体何を取引するんですか……」
吉田は一度天を向いて一息ついて言った
「小核弾頭……」
※
瀧瀬は鈍器で思いっきり殴られた感覚に陥った
さらに目眩もしてきた。小核弾頭、それぐらいショックだった
「……何処ルートですか?」
自分でも顔が青ざめていく感覚がわかる
「露西亜、チェルノブイリルート。武器商、ロマコフ・セルゲイから殺華総統、謝華に
輸出。そして神谷組にだ」
チェルノブイリ、数年前に原発事故が発生。それからゴーストタウン化して、武器商売の
メッカとなっている
「神谷組はその小核弾頭を手にして何をするつもりですか?」
「今回、取引で輸入する数は1つと予想されている。打ち込むとしたら
何処にすると思う?」
簡単な質問のようにも取れるが難しい質問だ。一発で日本の中枢をシャットアウト
出来る場所は一つ
「霞ヶ関でしょうか?」
吉田は顔色一つ変えず言った
「ハズレだ」
「え?」
「では、一体何処です?」
吉田はふぅと一息ついてから厳しい顔つきで言った
「貴社だ」
吉田は間髪いれず続けていく
「この情報には間違いは無い。公安調査庁のエスからの情報もながら、公安部外事課が
全力をあげて情報のもとを取ったのだ」
「そして、君が所属していた組織の対外情報解析課からもね」
「何故、佐山建設が?」
「それは簡単に言えませんね」
「何故だ?」
「一つ条件を提示させてもらいます」
吉田の瞳がかすかに揺れた
「今回、警察庁は緊急事態として非合法の特殊部隊を創設する事が決まった。
防衛省の介入が入る前に処理をしたい」
そこでだと話に間を入れて瀧瀬の瞳を直視しながら続けた
「瀧瀬君、君にはその特殊部隊の実動隊の指揮官になってもらいたい」
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