回想 〜転機〜
「航海長!!」
「う、ぐぅ……」
航海長を吐き、ぐったりと倒れた
「馬鹿野郎!なんで連れてきた!!」
俺が航海長を連れてきた航海科の科員を怒鳴ると一人が声を出した
「申し訳ありません砲雷長、航海長がどうしてもと…」
航海長は血を吐いているだけではなく、ミサイルの破片を無数に身体に
受けていた
「なんで……」
航海長は苦しそうにこっちを見て何かを伝えようとしている
「くそっ!医療班、衛生兵を連れて来い!!」
俺が怒号すると慌てて航海科の科員が医療班を呼びに行った
「航海長、しっかりして下さい」
俺は航海長の元へ駆け寄り声をかけた
「瀧瀬……」
必死に声を出して"砲雷長"としてでは無く、"瀧瀬真"とという個人に
語りかけている
「俺らは…海上自衛隊として・・戦ってきた・・だが・・ぐっ!」
「しっかりして下さい!航海長!!」
「煉獄・・の・・・扉・・は……開いたぞ・・・」
航海長は本当に苦しそうに喋っていて俺も苦しくて涙が出てきた
深く息を吸い込み最後の力を絞ったように声を張り上げた
「憲法に縛られるな、クルーから死者が出たという現実から逃げるな!」
「現実……」
「……ぐふっ!!くっ……」
「航海長!!」
医療班がようやく到着して応急処置を始め、脈を計り始めた
「砲雷長、医療室に運ぶ猶予はありません。脈が相当弱ってます」
衛生班班長、加藤1尉が喋りかけてきた
「そうか……助かるのか?」
加藤1尉は顔を少し顰めて答えた
「……覚悟しておいてください……」
そんな……
「そうか、最善を尽くせ」
「はっ!おい、血清アルプミン投与!!」
眼の前が真っ白になりそうだった。航海長が……
ふと横をみると顔が真っ青になった艦長が突っ立っていた
「艦長……」
「私は……私は……」
眼の前にある現実に呆然としたのか混乱をしている
「瀧瀬、私はどうしたらいいのか?どうすればいい?……」
うろたえた目をしてこちらに向ってきた
俺は艦長の顔を目掛けてぶん殴った
「馬鹿野郎!!あんたの優柔不断で航海長が死のうとしている、
まだあんたにやることは残っているだろが!!」
息を吸い込み喋る
「艦長という仕事が……」
「瀧瀬……」
「急速に脈拍が低下しています!!それに出血が酷いです!!」
加藤はすごい形相で一喝した
「くっ!酸素の流入量を上げろ!血液を持って来い!!」
航海長の容態が急変したようだ
俺は慌てて航海長に駆け寄り声をかけた
「航海長?航海長!!しっかりしてください!俺が見えますか?」
「う……くっ!!……くそっ!!」
「航海長!!」
加藤が声を慌ててかけて心臓マッサージをしようとしたが傷が酷くて
触れないようだ
「瀧瀬……クルーを頼む…………」
「頼むじゃないんです!これからもあなたは"しまぐに"の航海長の
責任を全うしてもらわなければいけないのです!!」
「いいか瀧瀬…今ある眼の前の現実を考え"行動"をしろ……」
「そんな、困りますよ1人だけ逝かないでくださいよ!!」
「うっ!……これが最後だ、舞に愛していると言っておいてくれ……」
「え…」
「航海長の奥さんって他界してるんじゃ……」
航海科の誰かが発した声だった
「黙れ!!」
そうだ、確かに航海長の奥さん、舞さんは病気で他界している
だが、今となっては関係ない。最後の"望み"なのだから…
「わかりました、舞さんに言っておきます!絶対に約束をします!!」
航海長はニッと笑い
「バカ、舞は死んでるよ……」
ガクッ
「航海長!しっかり!気を確かに!!」
2004年6月14日、海上自衛隊DDH護衛艦「しまぐに」
航海長、西原克己は永遠に旅立った
その顔はとても穏やかで笑っていた……
「くそっ!!」
加藤はたった今届いた血液を握って床に投げた
嗚咽
涙が溢れた
誰よりも人望が厚く、誰よりも優しかった航海長……
航海長が最後に残してくれた"言葉"に俺は従おうと思う
航海長のせいにはしない
是はあくまで俺の"意志"だ
「戦場の最前線で静観は美徳ではないな」
俺は艦長に向って喋ると、艦長は「へっ?」って顔をした
「艦長、現在戦闘海域にいる全ての敵を殲滅する事を具申します」
「それがどういうことか解かっているのか瀧瀬?」
「ええ、解かっていますよ。俺は自分の意志で口を開きました」
俺はこう解釈した。誰のためでもない、自分の幸せを掴む為に
大切なものを護る。それが海の守護者、海上自衛隊に与えられた使命
なのだと……
「もう憲法の大義名分は飽きたんだ!戦争をしない、武器は持ちません
と言って攻めてこない国は無いんですよ」
「瀧瀬……貴様……」
こう宣言した
「解かったんですよ……憲法に護られた平和は続かないということが
航海長が死んで……」
「…………了承した。だが、俺は生憎この身体だ。艦の指揮もとれない
それにこの後の事後処理の……」
艦長の身体はボロボロだ。額からも血を出し、意識も朦朧としている
何度でも宣言する。俺の"意志"だ誰にも迷惑なんかかけはしない
「艦長、ご安心ください。全責任は砲雷長、瀧瀬真が預ります」
艦長はにこやかに笑い
「そうか、安心したよ。後は頼んだ……」
そう言いガクッと倒れた
「加藤、艦長を頼んだ」
加藤を見て命令をすると加藤は目で了解の意を表してそのまま艦長を
担いでいった
副長は意識を当の前に失っており、現在俺は最高級将校となった
クルーを見ると全てのクルーが涙を流し俺の指示を待っている
「いいんだな俺が指揮をとっても?」
俺はそう問い掛けると全員がハッ!!っとでかい声を出してくれた
中国、お前らはこれから復讐の鎮魂歌にどっぷり漬からせてやる!!
ちなみにDDHとは、HDD(駆逐)
という意味です。
現在の艦は対潜哨戒に重点を置いています
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