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僕と彼女の探偵日記  作者: ポン酢
第二章『重厚なイチゴミルク』
8/17

~僕と彼女の序話探求~



 

四月二十日 午前三時五十分 東京都世河渡市 音無ヶ山


空は、まだ暗い。

東京の隅っこ。奥多摩のさらに奥に位置するこの町は、急速な発展が進む中心部を除けば、未だ豊かな自然に包まれたままだ。世河渡『市』という名前こそついているが、実際のところは、単に小さな村々が平成の大合併にのっかってとりあえず合併してみました。という感じで、とても『市』という印象は持てない。

発展しているのは市役所とJRの駅がある町の中心部だけで、他は山々の中に小さな集落が点在している状態だ。今、私たちがいるこの山も、数百メートル先に川見電子社の大きな工場があることを除けば、そのままNHKのドキュメンタリーに使えそうなほどの雄大な自然に満ちあふれている。

「おい、差し入れ持ってきたぞ!」

「ああ先輩、ありがとうございます!」

私たちはこの山に、地学部の活動として天体観測に来ていた。今私たちがいるのは、国が所有する標高四百メートルほどの山、その中腹にある小さな平地だった。崖と崖のちょうど中間に位置していて。ひらけた東側からは美しい山々と星空が一望でき、今回の流星群の観測にはぴったりの場所だった。

「もうすぐ夜明けだな。もう四十分もすれば、ここからきれいな日の出が見られるはずだ。流星群のおまけとして楽しもうじゃないか。」

地学部の部長、忠泰先輩が、私にホットココアを差し出しながら言ってくれた。

「本当ですか? 楽しみです!」

私はそう答え、ホットココアを受け取り、天体望遠鏡のそばにしかれたレジャーシートに座った。先輩も私の隣に座り、ホットココアをすする。

「しかし、いい流星群だったね。木村先生も、今年の流星群はいつもより量が多かったと言っていたよ。」

「ですね、私も感動しました。」

先輩の言葉に、私もうなずいた。月明かりに照らされた先輩の笑顔がまぶしい。

「ただ、まだまだイベントはある。なんと言ってもこの後の朝焼け! 僕は写真でしか見たことがないけど、あの山の頂上から上る太陽は本当にきれいなんだ! それを見るために今年度はわざわざ観測場所をここに変えたくらいなんだからな! いやはや、セーケト様がここに住んでいる理由がわかるよ。あんなきれいな景色が見られるなら、僕だってここに住みたいぐらいだよ。」

先輩が自信ありげに言った。私もうなずき。

ええ、楽しみです。

そう言おうとした。しかし、言えなかった。

べつに、先輩の笑顔を前に緊張している訳ではなかった。なんだか、身体に違和感を感じた。なんだろう、全身の毛穴が開き、逆立つような、不安になる感覚。

ふと、先輩の腕時計が目に入った。ちょうど、午前四時。なんだか不吉な数字。気のせいだろうか、いやな予感がした。先輩の顔に視線を移すと、不思議そうな顔でこちらを見ている。いけない。変な事を気にしない方がいい。なんてったってこの観測会は、先輩と私の仲を深める絶好の機会なんだから。

ええ、たのしみです。

気を取り直してもう一度、言おうとした。しかし、その瞬間だった。

脳に、激痛が走った。

 


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