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僕と彼女の探偵日記  作者: ポン酢
第一章『騒がしいジンジャーエール』
3/17

~僕と彼女とメタルギア~

「ぬ・・・く・・・」

「変な声出すな! 人に聞こえたらどーすんだ!」

「書記長! 俺もう我慢できない!」

「バカ! もうちょっと頑張れ!」

「だってもうかなり長い時間こうしてるじゃないか! 正直もう限界だよ!」

「だああああもう! 今出たら今までの労力全部台無しだろ! もうちょっとだから!」

「そんな事言ったって・・・体力ももう持たないし・・・オマケにこの格好寒いし・・・」

「体力っつったってお前はただ寄りかかってるだけじゃねーか! 必死で支えてるこっちの身にもなれ! 本当にお前ひ弱だな、男のくせに! 寒いならもっと身体ふるわせろ!」

「なんだと! もとはと言えばお前がやろうって言い出したんだろ! それぐらいのサポートしてくれたっていいんじゃないか? お前は何度もこういう事してるんだろうけど、こっちは初めてなんだから!」

「私だって初めてだこんな事! ああ! あんたとなんてやるんじゃ無かった!・・・・・・・!? まずい! 静かに! 誰か来た!」

「うっく!? お前! 胸が顔に当たってる! 締め付けるな!」 

「うるさい! 静かにしろっつってんだろうが!」

「む!?・・ンンーーーっムーーーっ!!」






午後十時。すっかり暗くなった冬の部活棟。その一階にある写真部の部室を、懐中電灯の光が照らし出した。

「おかしいな。この部屋から生徒の声が聞こえた気がしたんだが・・・」

懐中電灯の主である当直の教員がそうつぶやき、部室内を懐中電灯でまんべんなく照らした。しかしそこには生徒の姿は無く、動く物は電灯の陰だけであった。

「まぁ聞き間違いかな。そもそもこんな時間まで生徒が残ってるワケが無い・・・おっと、もう警備を夜間警備員に引き継ぐ時間だな、早く戻らないと。」

そう言って、その教員は足早に部室から出て行った。




 「・・・・ぷはぁ!」

教員が部室から出て行ったのを確認した僕はついに耐えきれなくなり、狭いロッカーからおもいっきり飛び出した。

スチール製のドアが音を立てて開き、僕の身体が床に転がり落ちる。

「はぁ・・はぁ・・・まったくなんて作戦だよ! ロッカーに五時間以上も隠れ続けるなんて! もうちょっとで酸欠起こしてぶっ倒れるところだったわボケ!」

ぼくはロッカーの奥にいる彼女にむかって叫んだ。

「しかたないでしょ、先生や警備員の巡回の目がごまかせて、セコムのセンサーにも引っかからない場所と言ったらここしかないんだから。」

彼女がそう言って、制服の袖についたほこりを払いつつ、ロッカーから出てきた。

「むしろ被害者はこっちだ。バ会長となんか密着したまま五時間も密室の中に立ったままだなんて拷問だ拷問。正直提案するんじゃなかった。」

彼女はそう吐き捨てる。なんだい、胸を押しつけてきたのはそっちのくせに。と、僕は頭の中で反論した。実際に口に出すと殺される気がしたので、思うだけに留めておいたが。

「まあとりあえずその話はおいといて・・・この後はどうするんだい? ポルターガイストの真実を探るためにこんなメタルギアみたいな事してるんだろう?」

僕は尋ねた。

「ああ、私の考えが正しければ、あれはポルターガイストなんかじゃ無い、まぎれもない人為的な犯行だ。しかしまだ証拠も根拠もかなり乏しい。そのためのスニーキングミッションだ。さぁ、とっとと行くぞ。やることは山ほどある。」

彼女が部室のドアへ向かって歩き出す。それを見て、僕はあわてて彼女を止めた。

「おい、待て! この校舎にはセコムの防犯センサーが稼働してるんだろう? それに引っかからないようにわざわざ唯一センサーの無い写真部の暗室に隠れてたってのに、そんな簡単に外に出て大丈夫なのか?」

しかし、彼女は慌てる様子も無く言った。

「安心しろ、さっきの当直の先生も言っていたが、この学校は午後十時に、教員による巡回から警備員による深夜警備に切り替わる。そしてその切り替わるまでのほんの数分間の間は、警備の引き継ぎの関係上、あらゆるセンサーが一時的に解除される仕組みになっているんだ。」

彼女がそう説明する。

「しかし、その時間はきわめて短い。急ぐぞ、その間にやらなければならない事がある。」

彼女がドアを開け、廊下へと走り出した、僕も慌ててついて行く。焦って何かの瓶を蹴ってこぼしてしまった気がしたが、多分気のせいだろう。

暗い廊下をひたすら走る。窓から入ってくるわずかな月明かりだけでは、うっすらと彼女の背中をとらえるので精一杯だ。途中何回もつまずきそうになり、壁等にうっかり激突する恐怖からか速度も落ちる。しかし、運動能力に秀でた彼女にとっては暗い中のランニングなどたいしたことは無いらしく、長い髪をなびかせながらいつも通り全速力で走っていた。そのため、数秒と持たずに僕たちは離ればなれになってしまった。

「はぁ・・・はぁ・・・まったくあいつは、もうちょっと他人の事も考えてくれよなもう!」

僕は壁によりかかると、そのまま床に座り込んだ。僕は生まれつき身体が弱い。そのため、短時間でも全速力で走るといつもこうなる。彼女もそのことは理解しているはずなので、恐らくはわざと僕を置いていったのだろう。

乱れた息を整える。冬だというのに、額が若干汗ばんできた。少し休んだら彼女を探しに行こうかとも思ったが、下手に動くのも良くない気がしたので、そのまましばらく待っていることにした。

暗闇の中、壁に腰掛けてじっと待つ。すると、彼女の足音らしき音が聞こえてきた。

「おい、 お前最近僕に対する扱いが酷くなってきてないか? ロッカーに無理矢理引き込んできたり置いてけぼりにしたり!」

足音のする方向に向かって呼びかける。すると突然、足音がぴたりとやんだ。呼びかけに対する返事は無い。

「・・・おい?」

もう一度呼びかける、やはり返事は無い。不思議に思い、その場から立ち上がる。そして、ポケットから携帯電話を取りだし、ディスプレイの光で廊下を照らした。

しかし、そこには誰も居なかった。暗い闇に包まれた廊下が延々と続いているだけだ。すると、今度は逆方向から足音が聞こえてきた。

僕は振り向いた、しかし、振り向くと今度はまた逆方向から足音が聞こえてきた。

「??・・・?」

僕はもう一度、おい。とつぶやいた。しかし、やはり返答はない。だんだんと不気味に感じてくる。そして、5回目に振り向いた時の事だった。天井から、バチンと言う大きな音が聞こえた。驚いて天井を見ると、古くさい電灯がバチバチと火花を散らしていた。明かりがつくわけでは無く、ただただ火花を散らしている。どうやら電気設備が古すぎていよいよ故障し始めたらしい。何だよ脅かすなよ。僕はそう思い、視線を戻した。その瞬間、全身がこわばった。


今の今まで何も無かったはずの暗い廊下のむこうに、血溜まりや血でできた足跡が、べったりと付着していた。そしてそれは、闇に包まれた廊下の中で赤くグロテスクな光を放っていた。


「・・・ははは・・・ウソだろ?」

僕は、その異様な光景に立ち尽くした。あちこちに血でできた足跡があるだけでもたまったもんじゃ無いのに、ここは真っ暗な廊下の中だ。普通なら暗くて視認できないはずのそれは、まるで霊魂にでも取り憑かれたかのように赤く不気味に輝いていた。しかもそれが一瞬目を離した隙に突然現れるだなんて、僕の今までの常識では考えられない光景だった。恐怖と疑問の中、いつしか僕は、床に倒れ込み意識を失っていた。


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