5 刺
その戦争で彼が、どうなったのかは分からない。
教会は、近隣の村は、どうなったのかは分からない。
ただひとつ言えることは、私の知る中で、この一生が一番幸せなものであったのだ。
厳しい両親と可愛い弟妹、最愛の片割れと過ごした十五年間は何よりの宝だった。
何よりも大切な記憶なのに、その記憶を次に持ち越すことは出来なかった。
新しく生まれた場所で物心ついた頃、私は孤児として育っていた。
売春宿で雑用をしながら、その日の残飯をあさり生き延びる生活。
幸運にも美しいと言われる外見をしていたため、十五を迎える頃には客を取り、売春宿の中でも高嶺の華として扱われるようになった。
他の女の客であっても、高い金を運んでくる客であれば媚を売り微笑み、酌をすれば、その客は私に乗り換え、私の客としてまた大金を運んでくる。
それを繰り返し、破滅する男や共に売春宿を逃げ出そうという男を見捨て、次の客をとる。
男からは金を、女からは男をむしりとっていく。
そんな生活を続けていたからだろう。
売春宿で一番稼ぐようになった頃には、狂愛と皮肉と侮蔑をもって毒花の魔女と呼ばれるようになっていた。
男からも女からも随分と恨まれていた。
だからその末路も当然のものだったのだと思う。
ある日の明け方、狂ったように一緒に逃げようと言う男に、私がくれてやったのは、嘲笑と蔑み。
男は、自分に向かって唾を吐く私に逆上し、その懐の小刀を抜き。
私のこの胸に突き付け。
叫ぶ間もなく。
私は死んだ。