7 裏話 6
『7 魔女話 4』ロディとダイスが店にいる間の小話。
「なぁ、ちょっと気になってたんだけど聞いていいか?」
俺の持ってきたケーキを二分割にして、ダイスとロディの皿に分けている彼女に声をかけた。
「……なんだ」
そう、実はこの店に入った時からずっと気になっていたことがある。
作業台の上にちょこんと座っているウサギの人形。
「この人形、どうしたんだ?」
「頂き物だ」
――嬉々――
途端に長い髪の向こうで彼女の顔が輝くのを見た。
声音はいつもと変わらない。……けれど。
「最近来るようになった女性客がくれた……薬膳料理を教えた礼にと」
――愛玩――
どうも相当気に入っているらしい。
髪の隙間から見える表情を言葉に表すなら……
どうだ可愛いだろう!
だ。 はっきり言おう。 そんなおまえが、俺は可愛い。
「……良かったな、可愛いウサギじゃないか」
「ああ、うちの看板ウサギだ」
そう言って置いてあったウサギを手に取り、自慢気にこちらに見せてきた。 確かに看板もってるしな『いらっしゃいませ』って書いてある。
「っくくく……」
そんな彼女を見て、ダイスは口元をおさえて笑っていた。いや、笑い声漏れてるから。
「……っははは! 何だよ、トマトちゃんはぬいぐるみとか好きなのか?」
ロディはと言えば、遠慮無く笑ってる。
「………………その、何だ……まぁ、まぁ……」
モゴモゴと恥ずかしそうにしてるけど、今さら隠そうとしてもバレバレだ。
「ぬいぐるみに限らず、可愛いものは大体好きだよな?」
「……う、うるさい……悪いか……」
――羞恥――
悪くない、むしろ良い!
「と、ところで、だな……」
恥ずかしくて話題を変えたいらしく、彼女は自分からロディに話をふった。
「一応……確認するが、トマトとは私のアダ名なのだろうか?」
「ああ、そうそう! 可愛いだろ、気に入ったか?」
――愉快――
面白がってんじゃねぇよ。ロディのやつ、何度も何度もトマトって……嫌味だろ、どう考えても。
「いや、気に入ってはいない」
そう言って彼女はうつ向いてしまった。なぜか、嬉しそうにしている。……何で?
「気に入ってはいないが……アダ名をつけられるなど久しぶりで……その、何だ……」
――含羞――喜々――
言いながら髪の毛の隙間から見える顔を、少し赤らめている。
え、なにそれ。 そんなんで喜ぶの?
俺が前に『ハニー』って呼んだ時は『堕ちてしまえ』とか思ったくせに。差別じゃないか。
友人二人の方に目をやれば二人とも驚いている。
「……まぁ、おまえがそれで良いなら……良いけどさ」
でもなんかムカつく。
「でも、久しぶり……ってことは、前にもアダ名つけられたことあるのか?」
そんなに仲の良い友人がいたのだろうか? そう思って聞けば、彼女は苦い顔をする。
「昔……師匠がな……」
――懐古――
また師匠だ。
彼女の話にはよく師匠が出てくる。基本的にお人好しで女に弱く金に頓着がない美形……という話を何度か気いた。
その話をするとき、彼女は決まって懐かしそうに少しだけ笑うんだ。
それがとても悔しい。
「へぇ、どんなアダ名なんですか?」
「……どこぞの……大佐の名前を借りて『ファンファン』とかなんとか……まぁ師匠は飽き性でな、三回くらいその名で呼んだら元の呼び方に戻っていた」
――苦笑――
長い髪の奥で、彼女は笑う。
口では『女たらし』だの『ポンコツ』だの言っているが、師匠の話をするとき、彼女の持つ雰囲気はとても柔らかくなる。
それを肌で感じて、俺は毎回嫉妬しちゃうわけだ。ガキと言われてもいい、悔しいものは悔しいの。
「何か……本当に想像してたのと全然違うな……」
ロディが身を乗り出して彼女に顔を近づける。 それ以上近づいたら本気で殴るぞ。
「……想像? 何がだ」
「トマトちゃんは自分が街中で何て呼ばれてるか知ってるか?」
「おい、ロディ」
「……西第八区の陰気な魔女、だったか?」
「それそれ。魔女なんて言うから、俺もっと怖い女想像してたわけ。でも実際に会って喋ってみれば何か違うもんだなぁ……病院で見たときは怒ってる印象しかなかったからアレだけど……想像よりずっと人間くさいというか……」
そう言ってしげしげと彼女を見る。
「にしてもクロムも変わった趣味してんな……いや、人の恋路に口出すのは野暮な話か」
失礼だな、彼女の事もよく知らないくせに。……まぁ、俺も客観的に見ればそう思ってしまう気がするけど。
――驚愕――
「……貴様……」
ロディの方を睨んでいたら、彼女が驚きながら俺の方を見ていた。その耳は少しだけ赤くなっている。
「い、いったい人様に何の話を」
あれ? もしかしなくてもこれは……
――含羞――
「……いやぁ、ちょっと好いた惚れたの話を……」
「っっっっっ」
――羞恥――
あ、やっぱり照れてた。でもなんかこれは……
「っんな……なしを……するなぁ……」
ううう、と唸りながら彼女は頭を抱えてしまった。
ははははは、何この可愛い生き物。
人の恋路に口出すのは野暮な話か←建前
人の恋路に口出すのは野暮な話か(笑)←本音




