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魔女話  作者: ゆきむら
裏話
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7 裏話 5

『7 魔女話 4』の彼視点です。裏話と言うほどではありません。

 で、無事に退院したわけだ。


 元々傷の治りが早いタチだった俺は、医者も姉ちゃんも驚くほどの早さで怪我を治して見せた。……まぁ擦り傷切り傷は彼女にもらった傷薬のおかげなんだけどな。


 退院まで病院に残って面倒見てくれた姉ちゃんも、心配しつつ家に帰って行った。 姪っ子によろしくと伝えてお菓子のお土産を渡せば、『例のトマ子と一緒に今度会いに来なさい』と言われた。わりとマジで。

 ……勘弁してくれ姉ちゃん。姉ちゃんに会わせるなんてハードルが高すぎる。付き合うどころか一緒に出掛けたことすら無いんだぞ。

 


 退院して職場に戻ると、待っていたのは部署の移動だった。

 怪我が完治するまでは事務方の補佐をするようにと命じられ、しょんぼり。正直、事務仕事は苦手だ……まぁ完治するまでの間だからな、我慢するさ。


 慣れない仕事に疲れることもあるけれど、これも仕事だから頑張らなくては、と働いたわけだ。

 退院後、はじめての休日には彼女に会えると思ってこそ。固定用のコルセットは着用しているものの、普通にしていればアバラが痛むことも無くなった頃。


 とってもとっても頑張って、その日を迎えた……ワケだが。




「で、だ。」


「何だよ?」

「何だい?」


 ――愉快――

 ――痛快――


 完全に面白がってんな…… 何が悲しくて男三人で薬屋を訪ねなきゃならねぇんだ。

 チラリと彼女の方を見れば、髪の毛をいじり始めている。


 ――面倒――


 ほらこれ絶対『なんなんだ貴様ら、鬱陶しいな』とか思てるんだよ。彼女が髪をいじるのは大体そう感じてる時だ。


 ……せっかくの休みなんだから、どっか遊びに行けよおまえら。特にダイスは新婚のはずだ、奥さんと過ごさなくていいのか。


 大体、俺は今日彼女に会いに来ただけだから、ケーキも二つしか買ってない。それを二人に伝えれば、なんと二人は焼き菓子持参で来たらしい。彼女は甘いものが好きだと医務室のじいさんに聞いたそうだ。


 じいさん……余計なことを……


「良いじゃねーか、クロムだけズリーだろ! いつも甘いもの売ってる店教えてんの俺じゃねーか! ここの薬膳茶、最近有名なんだよ。ご賞味あずかりてーじゃねーか!」


 確かにいつもロディの情報には助けられてる。助けられてるが、それとこれとは話が別だろ。


「ロディ静かに、彼女が驚いている……すみません、いきなり」

「……いや、別に……」


 ――疑問――


 そうは言うものの、彼女は首を傾げてこちらを見てくる。

 長い髪の隙間から見える目が言っているじゃないか。

『貴様らここに何をしに来たんだ?』と。


「……おまえがダイスに言ったんだろ? 次に店に来たときは、良い茶でもてなしてやると伝えてくれって。で、俺が行くって言ったら二人が勝手にきたんだよ」


 ――合点――


 いやいや、納得しないでくれ。


「いきなりお邪魔してすみません」

「いや、別に構わん」


 ……え。ちょっと待て、俺は構う。何なんだその聞き分けの良さは。俺が入院してる間にどういう心境の変化が起きたんだ? おまえ煩いやつって嫌いだろ? よく店に騒がしい女の子が来ると髪の毛いじりながら面倒くさそうな顔してたじゃねーか。


「……お二人にも病室では迷惑をかけた。詫びにもならないだろうが、茶の一杯でよければ飲んでいってくれ」


 ――謝罪――


 あ、そう言うこと。



 それだけ言って、彼女はいそいそと店の奥に準備に向かってしまった。


「言っちゃあ悪いが、無愛想な子だな……」


 ……その言葉は否定できない。基本的に口数が少ないと言うか、大事なことを言わないというか。


「クロムはともかく……ロディみたいな赤毛で厳つい不良顔の男が訪ねて来たら、少しぐらい無愛想になるのは仕方がないよ」

「……ダイス、おまえたまに酷いよな……俺だって傷つくんだぜ?」

「おや、それは知らなかった。次から気を付けるよ」


 ガシガシと頭を掻いているロディの横でダイスが笑っている。 その時、ゆっくりと店の扉が開いた。


「あ、やっぱりクロムさん! さっきお店に入ってくの見えたんで来ちゃいました!」

「お久しぶりです! やっぱり退院してたんですね~」

「もう治ったんですね! 私のおまじないがが効いたんだわ……」


 わいわいと笑顔を浮かべて入ってきたのは、よくこの店にやって来る女の子達。

 いや、うん……みんな、好意を向けてくれるのは良いんだけど、ちょっと鬼気迫るものがあるというか、迫力があるというか。

 何で俺が薬屋に来たタイミングで、こんな偶然を装って入ってこれるかな。


 俺たちがこの店に来るまでの道中、ずっと後ろからつけて来てたの、お兄さん知ってるよ?


 ちょっと所か、だいぶん怖かった……一歩間違えれば犯罪だからね、それ。

 あと、たぶんこの中には入院中に見舞いの品をくれた子もいるんだろうけど、赤い粉のまぶしてある手作りのクッキーとか、よく分からない呪いみたいなものが延々と書かれた手紙とか、髪の毛入りのお守りとか…… 正直とても恐かったです。やめてくれと言いたい。


 でも、幼い頃から姉ちゃんに仕込まれてきた女子への愛想の良さが邪魔をして言えない。 ……俺のバカ!


 助けを求めてロディとダイスを見れば、しれっとした顔で店の隅に移動している。

 おいおい、こういう時は逃げずに助けてくれ! 友達じゃないのか。


 ――唖然――


 好意に紛れて呆れに満ちた感情が店の奥から流れてくる。そこには椅子を二脚持っている彼女。 髪の毛の隙間から少しだけ見える口元があんぐりと空いている。


 ――同情――


 同情するなら助けてくれ!

 そう思っても彼女は助けてくれず、そのまま椅子を持ってロディとダイスの所へ行ってしまった。

 ちょっと待って、いくらなんでも薄情ではないか、お兄さん泣いちゃうよ?  病み上がりなんだから労ってほしい……

 

 そう思っていると、彼女はいそいそと戻ってきた。


 ああ、やっぱり俺が辛いときは助けてくれる、心配して傍に来てくれる……無愛想でも優しいんだ……惚れ直したぞ!

 なんて舞い上がって考えていたから、彼女の発した言葉に思わず頭を抱えるかと思った。


「……商品の注文は、もう受けているのか?」


 ――嬉々――


 駄目だ。その黒い瞳は、俺ではなく女の子たちの持つ財布を映している。


 ちくしょう、金の亡者め!






 女の子たちがいなくなると、店の中は静かになった。

 彼女が作業台の上にカップを並べて、ご自慢の薬膳茶を注いでいく。


 分かってるんだよ俺だって。女の子たちを店から出すには、俺が店を出ていくか、薬膳茶を売り切ってしまうのが一番手っ取り早いんだって。

 けれど俺は店を出ていきたくない。

 なら薬膳茶を売れるだけ売って、この店に茶を買いに来たと言いはる女の子たちが、店にいられる理由を無くせばいい。


 ただ喋っているだけなら営業妨害と言って彼女に追い出されでしまうのだから。


 分かってるんだよ、それは。 でもさ、でもさ……



「……俺、疲れた……」


 つい口から出てしまう。

 ただでさえ、ここ最近は慣れない事務仕事で疲れてるのに。

 別に体力的には何もしんどくない。精神的なものだ。


 それにしても今日は頑張った。俺は褒められていいはずだ。今日の分の薬膳茶は、ほぼ完売に近いのではないだろうか。

 俺以外の三人から伝わってくるのは、同情と労い。

 そう思うなら実際に褒めてほしいと思い、彼女の方を向いて言う。



「……おまえ、今褒めてやっても良いと思ったろ」

「…………。……思ってない」

「思ったはずだ、いや、俺は今褒められたい、褒めてくれ!」


 睨んでもムダだ、俺はめげない諦めない!

 普通、気持ちって言うのはちゃんと言葉にしないと伝わらないんだぞ。 たまには旨いお茶だけじゃなくて、優しい言葉で労われたい。


 そう思って彼女の目を見つめ返せば、観念したような顔をする。


「…………………………感謝する、お疲れさま。……よく頑張ってくれた」


 勝った。にらみ合いの末、俺は勝ったのだ。

 だがしかし。


「……それだけか?」


 もうちょっと何かほしい。


「頭撫でてくれたりハグしてくれたり、ちゅーのひとつもあって良いはずだ!」

「黙れ痴漢」


 ちっっっっっっっっっっ……!

 今日はなんかやたら素直だし、どさくさ紛れでいけるかと思ったんだけどな。やっぱダメか。

 それにしても痴漢は酷い、心外だ。


「……おまえらさぁ……」

「何だかなぁ……」


 男二人に哀れみの眼差しを向けられた。 何だよ、良いだろ。こんなやり取りが俺の日常なんだ。別に同情される謂れはない。


「まぁ良いや、それよりも、だ。乾杯しようぜ」


 ロディが楽しそうに茶の入ったカップを掲げる。

 薬膳茶で乾杯って、何でもアリだな。

 でもまぁいいか……何せ俺は今、彼女に労ってもらったので機嫌が良いのだ。

 そう思いながら、彼女がお茶をいれてくれたカップを持ち上げる。


「クロムの退院を祝ってー」


 俺たちがカップを持ち上げているのを見て、彼女も慌ててカップを持ち上げた。


「かんぱーい」

「「乾杯」」


 カツンと小さな音をたてたカップを、口に運ぶ。




 ……ああ、彼女が『とっておき』と言うだけのことはある。


 体に染み渡るような味も香りも、その温かさですら特別で。


 これまで飲んだ、どのお茶よりも美味しいと感じるのは、きっと気のせいではないはずだ。

ほっぺで良い、ほっぺで良いから!(必死)

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