7 裏話 1
人の感情なんてものが分かってしまうからこそ、苦労することもある。
主に人間関係。
誰が誰を好きで、誰を嫌いで……とか。
分からなければ余計な気を回さずに済んだのにとか思わないでもない。
例えば、だ。
ふだんは気が強くて憎まれ口ばっかり叩く姉ちゃんが、見た目には普通なのに実は落ち込んでいるのを見れば、慰めたいと思う。
例えば、普段は仲の良い父ちゃんと母ちゃんが喧嘩をしていたら、うまく立ち回って仲直りしてほしいと思う。
例えば、好きな女の子が俺の大事な幼馴染みの事を好きだと知ってしまったら、またその幼馴染みが女の子の事を憎からず想っていたならば。
自分が割って入ってしまうより、二人の仲を取り持ちたい。
いつだって、好きな人には幸せでいてほしいと思う。
時々嫌になることも、もちろんあった。
他人の感情が分かるからこそ、人に不満も抱いたし、ケンカもしたし、家出したこともある。 どうして俺ばっかこんな目にと思ったことも数知れず。
聡過ぎると気味悪がられたこともあったし、人に距離を置かれることもあった。
ああ、小さい頃から人の感情に慣れすぎて、少しませてたから『俺が大人にならなきゃ』なんて考えてた時もあったっけ。
それでも、他人の感情が煩すぎてうずくまってしまうと、心配して声をかけてくれる人がいた。
ケンカをした後に、本気で仲直りしようと言ってくれる友達がいた。
家出すれば、家族どころか近所中の人が必死で探してくれた。
今思えば、きっと育った環境が良かったんだ。 人に対して卑屈にならずに済んだのは、誰に対しても嘘を言わない母ちゃんや姉ちゃんのお陰だし、それが誰かの為であるなら嘘もまた良しと示してくれたのは父ちゃんだった。
悪さをすれば本気で叱ってくれる大人がいたし、悩んでいれば一緒に考えてくれる友達がいた。
家族には感謝してる。
一緒に育った友達にも、学校の先生にも、近所の口うるさいおっちゃんにも。 感謝してる。
学校の授業中に『自分にとっての大切な人』というテーマで作文を書いたとき、人の名前だけで紙を埋め尽くして先生に注意されたのも、今では良い思い出だ。
だから大きくなったら父ちゃんみたいに、生まれ育ったあの街を守れる男になりたかった。
配属先が別の街だった時はちょっと落ち込んだ。
でもみんなが送り出してくれたから。
心から別れを名残惜しんで、俺を送り出してくれたから、頑張ろうと思えた。
感情が分かるからこそ得したことも、損したことも、嬉しかったことも、悲しかったことも、たくさんある。
あの街にいたときも、この街に来てからも。
嫌になること以上に、嬉しくなることが多かったんだ。
例えば、意地っ張りな姉ちゃんを慰めた、その見返りが照れ隠しのコブラツイストだったとしても。
例えば、仲直りした父ちゃんと母ちゃんの仲が良すぎて、見ているこちらが恥ずかしくなってしまっても。
例えば、幼馴染みと好きな子の仲を取り持ったお陰で、俺の初恋が見事に散ってしまっても。
俺の好きな人が笑ってくれるなら、それで良かった。
クロムのターン。残念な二枚目の話です。




