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魔女話  作者: ゆきむら
魔女話
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7 魔女話 10

 最初はただの常連だった。

 傷薬の軟膏を異様な頻度で買っていくものだと不思議に思い、いつの間にか顔を見れば、また軟膏を買いに来たのかと思うようになった。


 師匠の自称彼女に襲われて医務室で目が覚めたときも、何故か傍にいて。いきなり謝られたのはよく分からなかったが、店に帰りたいとわがままを言う私のために、渋る先生を説得してくれた。それからよく店に来るようになって、甘いものを持ってきてくれて、色々な話をしてくれた。


 いつも私が貰ってばかりの側で、彼に特別何かをした覚えはないのに、何故か私を好きだなどと言い出して。

 答えを急かさず、好かれていることを知っていてほしいのだと言ってくれた。


 前世の話をしたとき、彼は私の言葉を冗談と笑い飛ばすでも気味が悪いと否定するわけでもなく、言ったんだ。


『つまりはあれだ、前世で幸福になれなかったおまえは、今生では是非とも俺に幸せにしてほしいとそういう』


 馬鹿にしていると、冗談を言って流そうしている言葉にも聞こえる。最初は私もそう思った。

 けれど彼には他人の感情が分かってしまうのだから、きっと私が真剣に話していたことも知っていたはずだ。


 その上で彼は『今生』の話をした。

 後からそれに気づいて驚いた。


 私が、いつ死んでもいいようにと思っていた今生の……これからの話を、彼はしようとしていたのだから。


 過去は過去、今は今。混同してはいけない。

 過去に同じことが何度もあったからと言って、今度もそうとは限らない。きちんと考えて言っていたのか、ただの偶然かは知らないが、その言葉は私が考えるきっかけになった。


 前向きになれたんだ。

 もうすぐ死亡適齢期だなどと諦めていた私が、まだ生きていたいと思うようになっていった。


 ずっと私は目の前の不確定な死を意識して、いつそれが襲ってくるのだろうと恐がっていたのに。

 これまでの人生を否定はしない。死ぬまでそういう生き方をするのも、数ある選択肢の一つだろう。


 けれど、私は別の生き方をしたくなったんだ。

 明日死ぬかもしれないと思いながら生きるのではなくて、明日は何が起こるだろうかと思いながら生きたくなった。


 少しずつ、少しずつ。人と関わろう、自分を変えよう。

 そう思っていた時に、先生から彼が入院したことを聞かされて驚いた。 けれどそれ以上に、腹が立った。

 意識があるのに、なぜ教えてくれなかったのか。傷があるなら私だって何かしら役にはたてるのに。私だって心配するのに。


 ……ああ、だから教えてくれなかったのか。

 心配されたり、悲しい顔をされるのは嫌だものな。 

 私もそう思っていた。

 私が死んだとしても、誰にも悲しい顔はされたくないと、人と関わることを避けて、いなくなった師匠を探すことをしなかった。

 怪我をしたことも入院していることも、言わなかったんじゃない。言えなかったんだ。


 退院して、『死にたくなかった』と言った彼の隣で、少なくとも私は彼に死んでほしくないと思っていた。

 よくぞ死なずにいてくれたと。


 彼がいないと薬膳茶の売り上げが半分以下だとか、店に活気がなくなるとか、甘いものが食べられなくなるとか、そう言うことではなくて。


 私の薬膳茶や薬草のうんちくを興味深げに聞いてくれて、彼の顔を見ると笑顔になる人が確かにいて、甘いものも一緒に食べてくれる人がいないと、どこか味気ないし。


 いつもどこから仕入れてくるのだと思うほど話題に事欠かなくて、気配り上手で優しくて、わりと真面目で正義感も強くて、自分で言うだけあって顔は良いのに気取らず、何だかんだと二枚目半くらい。でもその方が自分も周りも楽しいんだって知ってる人。


 私を好きだと言ってくれた人。



 私が、好きになった人。



 私と出会ってくれてありがとう。




 いつからなんて聞かれても、本当に分からないんだ。

 いつの間にかだ。






 何とか泣き止んで、顔を洗って店に戻ると、彼はいつもの笑顔をこちらに向けた。

 ……何か照れくさいな。


「ファータ」


 なんだ。


「俺も名前で呼んでほしいんだけど」


 ……。


 ………………。


  …………。


 そう来たか。

 いや、しかし、こう何度も自己紹介をされているのに、知らぬ存ぜぬと突っぱねて来たのは私だ。 今思えば何とも失礼な話だ。この男、よく耐えたな。




「……く、」


 がんばれ。





「く、くろ……」


 頑張るんだ、私!






「くっっっ」


 行け、その場の勢いに乗るのだ。 もし明日私が死んだらどうする、後悔するぞ!





「うあああああああああああああ!」




 無理だった。



 所詮私だ。



 無理だった。



「ええい、名前など、私にはまだ早い!」

 自分でも何を言っているのか分からない。 けれど告白するので精一杯過ぎてそこまで考えていなかったんだ。

 最初から名前で呼んでおけばこんなことには……後悔先に立たずとはこの事かっっ!


「まだ早いって、いつなら早くないんだよ?!」


 その意見はごもっともだ。

 何事にも、それに合った時期と言うものがある。

 名前を呼べるとしたらいつなんだ、今でしょ。

 それは分かっている。分かっているのだが。



「ひ、ひと月以内には……」

「言ったなおまえ、言質とったぞ」


 そう言って彼は私に顔にかかる髪を掻き分けると、笑って見せる。

 つまりは待ってくれると言うことだ。

 期待に応えたいと思う。思いはするが……


「……善処する」


 改めて自分よりも高い位置にある彼の顔を見上げると、なんだか照れてしまう。

 しかし困った。出来るかな……少々自信がない……笑って誤魔化せないだろうか。 やっぱりもう少し延長してくれと言ってみようか……


 そう思って再度その顔を見上げると。



 ガタリ



 音をたてて近くの椅子に座り込み、頭を抱えてしまった。

 おい、どうした。 頭でも痛いのか?

 それなら頭痛薬をと思い、聞いてみるが首を横に振られた。 頭が痛いわけではないらしい。 本当にどうしたんだ?



「破壊力が違う……」



 ポソリと聞こえた言葉の意味が分からない。 疲れているのだろうか?  ああ、そうだ、そう言えばケーキを持ってきてくれているのだった。疲れているときには甘いものが一番だ。私は何度もそれに助けられている。ニンジンのシフォンケーキなんてどんな味がするんだろう……想像しただけで腹が鳴る。

 どの茶が合うだろうか、迷うな……この間、果物屋のおじさんが胃薬のお礼にとカリンをくれたから、それで少し香り付けしたお茶にしようかな。体の疲れもとれる……はずだ。


「少し待っていろ……茶を淹れてくる」

「……ああ、ありがとう」


 いつもの礼の言葉が少し違うように聞こえるが、気のせいだろうか。

 まぁ、私の方が少し浮き足立ってしまっているから、きっとそのせいなのだと思う。

 しばらくはきっと、これまでとは大して変わらないだろうから、少しずつ慣れていくんだ。何せ私はこれまで人と関わることを避けすぎた。


 名前を呼ぶにはまだ少し時間もかかるが、出来るだけ早く。努力はする。

 何せ私は人なのだ。 いつ死んでしまうか分からない。




 ちまたでは陰気な魔女などと呼ばれているらしいが、私は断じて魔女ではない。

 少しばかり陰気なところがあるのは、この際認めよう。

 けれど人の心を動かす魔法も使えなければ、永劫を生きることも出来ないただの人なんだ。

 他の人よりも少し記憶力が良すぎて、前世の事まで覚えているが、それでも人だ。


 だから。




 いつか私の事を覚えている私が生まれた時に、この人生が一番幸せだったと思えるように。



 出来る限り、許される限り。



 生きようじゃないか。



 今を、精一杯。

ここまで読んで下さった方に御礼を申し上げます。

ひとまず区切りとさせていただきます。


視点がコロコロとかわり、時間軸もぶつ切りで、時には登場人物の名前すら出てこない話もありました。 読みづらいとは正にこの事。もっとスッキリきっちり文章を纏めあげる力があれば良かったのですが、力至らず申し訳ございませんでしたとしか言いようがございません。

それでもお付き合いくださりました心の広い方にはどんな言葉を尽くしても感謝の気持ちを伝えきれません。

投稿ボタンを押させていただく前に確認はしているつもりなのですが、誤字脱字、おかしな所もあると思いますので、今後また落ち着いてから読み直して修正して参ります。


また、感想・評価・ご登録くださりましたお方様。

貴重なお時間を賜り、まことにありがとうございました。


再度となりますが、最後までお付き合いくださり、心より御礼を申し上げます。

本当にありがとうございました。

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