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魔女話  作者: ゆきむら
魔女話
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7 魔女話 8

 死にたくないと思うようになった。

 いや、いつだってそうなんだが、特に最近は生きたいと思うようになった。


 思えるように、なったんだ。


 四年半前、師匠がいなくなって、この人生で一番多く関わった人が、目の前から消えてしまった。

 ああ、そうだ。いつも死ぬときは孤独で、慣れ親しんだ人の傍で死んだことなどなかったじゃないか。とうとうその時が来たのかもしれないと覚悟を決めた。 それはどんな形をしてやって来るのか分からないが、きっと私のすぐ傍まで来ているはずだと思っていた。受け入れる覚悟は出来ていたはずなのに。


 けれど最近、諦めるのはまだ早いと思うようになったんだ。

 目指すのは、笑顔が可愛いねと言われるおばあさん。


 ……いや、これは高望みしすぎか。けれど『目標は高ければ高いほど良い』といつか師匠も言っていたしな、このままで良いだろう。

 そんなことを思えるようになったのは、もしかしなくてもあの男のお陰だ。







 朝、目を覚ます。

 夜明け前に服を着替えて、顔を洗って、髪に櫛を通し、朝食を作る。 朝御飯を食べて、片付けて、洗濯物をしてから、育てている薬草の世話をすると、朝の市場へ。 必要なものを買い、ついでにいくつかの店に注文されていた薬を届ける。

 店に戻って、掃除をして。


 いつもと同じ朝なのに、最近は少しだけ気持ちがはやる。

 自分なりに色々と考えてみたんだ。

 結局私がどうしたいのか。生きたいとか死ぬかもしれないとか、そういうのは排除して。

 単純に、今の私が何をしたいのか、何をしたくないのか。


 すると、どうだろう。すんなりと一つの答えが見えてきたわけだ。


 後悔したくない


 いや、生きていれば大なり小なりあるのだろうが、それでも出来るだけ少ない方がいい。

 そう思ったら一番最初にやりたいことが決まった。


 きちんと気持ちを言葉にする。


 一年程前に彼は私に好意を示してくれた。 その後も何だかんだと好意を示す言葉をくれてはいたが、何かとはぐらかし続けていたのは私だ。


 そんな私が何を言うと思われるかもしれない。

 呆れられても仕方がない。

 気持ちが変わっていたって、それはむしろ当たり前のことなのだ。

 私はそれを正面から受け入れなくてはいけない。


 けれど何もせずに後悔はしたくない。

 どうせ後悔するのなら、出来る限りを尽くしたいと思う。

 何もせずに自分勝手な納得をして諦めるのに慣れてしまっているけれど、それではダメなんだ。




 その日、彼はやって来た。

 いつも通り手土産をもって店の扉を開けて現れた。


 いつもと違うことと言えば、私が事前に彼が今日ここに来るのを知っていた事くらいだ。




「待て、そこで止まってくれ」

「どうしたんだよ、扉のの看板が『閉店』の表示になってるぞ? 今日は午前中は休みか?」


 ……それでも店の鍵が開いてると見るや遠慮なく入ってくる、この男の図々しさには恐れ入る。いや、それも予想の範囲内だが。 むしろそうであってくれて、ありがたい。


「今日は前に言ってた野菜のケーキだぞ? ニンジンのシフォンケーキが一番人気らしくてさ……他にも面白そうなのがあったからいくつか買ってきたんだ」


 それはそれは……いや、一緒に食べようと言ってくる、あの誘惑に負けてはいけない。 今この誘惑に負けてしまうと、二度目はない気がする。


 男は入り口の近くに立ったまま笑っている。

 いつも通り。そう、いつも通り。




「……一つ、聞きたい」


「何だよ急に……ははーん、誰かから聞いたな? だからお前この間『次はいつ来るんだ』なんて聞いてきたんだろ」



 いや、聞いたんじゃない、聞きたいことがあるのだ……

 しかし『誰かから聞いたな?』……とは、いったい何を?






「そう、ご存じの通り、俺の誕生日なら昨日だ!」




 …………え。



 そうだったのか!? そういうことは先に言え!! 何の準備もしていないぞ!




 ………………ではなくて。

 そうではなくて、だ。



「その、なんだ……それは知らなかった……おめでとう」

「知らなかったのかよ。ありがとう」


 そんなに肩を落とさなくても。


 ……違うんだ。そうじゃなくて、聞きたいことがあるんだ。


「……何だよ黙りこんで……近くに行っても良いか?」

「ま、待て……」


 その、なんだ。くそ、出鼻をくじかれた……


「聞きたいことがあるんだ」

「おう、何だよ?」

「その、その距離からでも……私の考えていることは……分かるのか?」

「……」


 いや、この言い方は不味い。

 たぶん要らない勘違いを招いてしまう……けれど他に言い方が見つからない……


 どうしたら……


「……ああ、今何となくおまえが困ってんのかなーくらいなら分かる。ただ、外を歩く人がいると混じって分からなくなるな。少し離れるだけで変わるもんだ」

「……そうか」


 結局、少しは伝わってしまうらしい 。


「……俺のこと、気持ち悪くなった?」

「ち、違うっっ」


 断じて違う。


「そっか、じゃぁ近付いて良いか?」

「ちょっと待て……」


 そのまま、ちょっと待て。



「……そのまま……少し、聞いてほしい話がある」

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