閑話休題 1
師匠は存外しつけに厳しい人だった。
『好き嫌いしちゃダメだよ、大きくなれないからね』
そう言いながら私が作った野菜炒めのピーマンを私の皿によこしてくる人間だった。
曰く、『僕はいいの。もう大人だから』だそうだ。
『知らない人についていっちゃいけないよ、狼さんに食べられちゃうからね』
そういう師匠はよく知らない女の人について行ってしまう人間だった。
曰く、『僕はいいの。狼さんの方だから』だそうだ。
『簡単に人に名前を教えちゃいけないよ、悪用されたら大変だ』
けれど師匠は私でも騙されないぞと思うような契約書に自分の名前を記載していた。
曰く、『僕はいいの。今度こそ大丈夫』だそうだ。
私に前世の記憶があることを知らない師匠は、拾い子である私にダメ人間たる自分の姿を見せて、しつけようとしてくれた。
………………はずだ。
師匠に教わったことはたくさんある。
『ファータ、お店番よろしくね』
ここ数年、あなたは店番をしていないし私も休みたいと主張すると、師匠は笑った。
『そこをなんとか。店番なんて大事なこと、君にしかお願いできないんだ』
数年間、昼は雑用と店番を、空いている時間や夜には薬作りをして一日の休みもなく続けた結果、質の良い滋養強壮の薬が作れるようになった。他の薬はともかく、これだけは師匠に劣らない自信がある。
『ファータ、この薬を明日までに二十人分作っておいて』
時間的に無理だと主張すると、師匠は笑った。
『そこをなんとか。僕これから彼女とデートなんだよ』
これを何十回、何百回と繰り返して、今では薬を作る速さなら誰にも負けない自信がついた。
『ファータ、今日誰かが僕を訪ねてきても僕はいないって伝えてね……絶対誰にも、僕が家にいることは言っちゃいけないよ。』
意味が分からず首をかしげ、嘘をつくのは相手に失礼だと意見を述べると、師匠は困った。
『そこをなんとか。お願いだよファータ』
仕方なく了承すると、その日のうちに強面のおじさんたちが師匠を訪ねてやってきた。以降度々やって来る彼らの相手をしているうちに、身に付いたのは図太い神経。恐ろしげな相手に弱腰ではいけないことを学んだ。
教わったんだ、断じて押し付けられたんじゃない。
薬作りの技術も、その速さも、神経の図太さも、生きるためには必要なことなのだから。




