1 水
信じる信じないは自由だ。
鼻で笑ってくれても構わない。
途中で立ち去ってくれてもいい。
それを私は止めやしない。
むしろ当然と受け入れるだろう。
弱く、無知で、浅はかで、罪深く、強欲で臆病。
それが私の知る、人間という生き物。
そんな生き物として世に生を受けて二十年程。
理由も分からず私は死んだ。
殺された、と言いたいところだが、私は自ら死んだのだ。
俗にいう魔女狩りだ。
私は小さな村の外れに暮らす、何の変哲もない女だった。
贅沢をした覚えも、悪さをした覚えもなかったが、いきなり家に教会の男たちがやって来て『魔女はお前か』と私を村の広場へ引きずっていった。
何度違うと叫んでも、その声が教会の男たちに届くことはなく、広場に転がされた。
「魔女でないというならそれを証明せよ」
そう言われて全身の毛を剃られ、体に焼きごてを当てられた。
何と喚いても助けてくれる者はおらず、傷だらけにされても、痛くても苦しくても私の体は生き続け、とうとう腕の関節を外されてしまった。
少し弱気になってしまったのだろう。
いや、もう考える力など残っていなかったのだ。痛くて苦しくて辛くて。
正直、楽になりたかった。
「お前は魔女か」
拷問のさなか小さく呟かれた言葉。
「認めれば楽になれる」
楽に、なりたかった。
「はい。私は魔女の集会に参加し、魔女となりました」
囁いた者はニヤリとわらい、私が魔女であることを認めたと高らかに宣言し、速やかに処刑の儀式準備をはじめた。
目の前に大きな蓋つきの水瓶をつき出されたとき、そう、有り体に言うなら私は絶望した。
その水瓶に、目の前でたくさんの水が注がれ、最後に教会の男が懐から取り出した小瓶の水を一滴垂らし、何かを唱える。
「この聖なる水に魔女の体のすべてを浸し蓋をして、浄化を行う」
体のすべて。
足、腹、胸、腕、首、顔。
すべてを七日間、衆人環視のもと浸し続ける儀式。
「魔女よ、さあ自身の体を水瓶に沈めよ。神に許しを乞い、その身を浄化するのだ」
人の命はあまりに脆い。
水の中では生きられない。
そして私は死んだのだ。