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私と兄弟の乙女ゲーの世界

騎士になった俺の話

作者: 小林晴幸
掲載日:2013/02/16

こちらは短編「バスに巻き込まれた俺の話」の続編となります。

この話だけを読むと分からない部分も多いかと思われます。

意味不明に思われる方には、同シリーズ他作品も読まれることをお勧めします。


※一度投稿した後で、騎士のいない場での会話を書き足しました。

 バスの転落事故に巻き込まれて、死んだ俺。

 そんな俺は今、何故か生まれ変わった先の世界で騎士なんてものをやっている。

 自分でも柄じゃないと思うんだが、何故かあれよあれよという間に話は進む。

 偶に自分は何をやって居るんだろうと思いながら。

 脳裏にちらついて仕方がない、前世最期の記憶に悩まされながら。

 ちょいちょい功績なんてものも立てて。

 気付いたら大抜擢。俺は次期王の座を競う双子王子殿下の側付きに任命されていた。

 これは、その初日のこと。

 この世界で俺なりに培った新しい常識と、価値観。

 それを初っ端から揺るがしてくれた、傍迷惑な兄弟との出会い。



 

 なんでだろう?

 なんでこんなに気になって、目が離せないんだろう。

 なんでこんな………

 ……………なんだ、これ。

 何故か分からないけれど、見覚えがある気がした。初対面の筈なのに。

 目の前にいるのは、胡散臭い笑みを浮かべる青年と、少女。

 初めて会う相手だし、今まで見かける様な機会もなかった。

 所詮下級貴族出身の俺と違って、目の前の二人は正真正銘の大貴族。なのでそれも当然。

 それなのに何故か、前にどこかで会った気がする。

 やたら、気になる。

 ……訂正。

 気になるのは、当然だ。むしろ、気にしなかったら駄目だろう。

 手にそんな、隠しようのない推定「凶器」を抱えられてたらな。


「………失礼。セルウェイン家の御当主と御令嬢ですね」

「ははははは…っ 気のせいでは無かろうか」

「ええ。ええ。きっと気のせいですわ」

「もう一度、お聞きします。セルウェイン家の御当主と御令嬢ですね?」

「はははははは!」

「ふふふふふ…っ」


 目の前の二人は、詰問する俺から必死に目線を逸らしている。

 無駄な努力を。

 幾ら目を逸らそうと無駄だし、追求を緩める気はしない。

 というか、追求しなくちゃ駄目だろ。

「セルウェイン家の御当主と、御令嬢で間違いないですね?」

「「………はい」」

 最後の念押しとばかりに問い詰めれば、とうとう目の前の二人は認めて頷いた。

 セルウェイン家の当主と、その妹。

 面差しの良く似た美形兄妹は、社交界でも名の知れた存在だ。

 だが、目の前の二人はどうも…その、噂とは印象が違う様だ。


 怜悧な美貌に、冷たい視線。

 仕事はできるが誰に対しても厳しい、氷の様にクールな男。

 ……と、聞いていたセルウェインの御当主は今、目の前で誤魔化し笑いを浮かべている。

 思いっきり気安い表情には、「冷たい」「厳しい」「氷」の形容詞が似合わない。

 情けなく眉を困らせ、俺の様子を窺いつつ、逃亡の隙を窺われている気がする。

 逃がさないけどな。


 俺はセルウェイン御当主の手首をガッチリと掴み、その隣の小柄な少女を見下ろした。

 

 寸分の隙なく整った、まるで硝子細工の様に繊細な美少女。機知にも富み、聡明だとか。

 憂いを含んだ瞳に、優雅な物腰は儚げで守ってやりたいと訴える野郎が急増中。

 ……と、聞いていたセルウェインの御令嬢は今、明後日の方向を向いて口笛を吹いている。

 どうでも良いが、誤魔化し方が古くさくないか? コレの何処が「儚くて」「繊細」?

 前情報に偽り有りだろ。思いっきり強かだぞ、この女。

 現に今だって、何かやらかしそうな雰囲気で逆に俺のことを観察している気配がする。

 簡単にやられるつもりはないけどな。


 俺はセルウェインの令嬢に躙り寄りながら、油断しない様に気をつけた。


 ………なんで、こんな事になったんだろう。

 

 職場を移動になって、俺は殿下達の側付きを任じられて。

 今日初めてお会いするので、緊張の極致だったんだが…。


 俺の目の前に、「惨劇現場」が広がっている。


 って、なんでだよ。なんで、王宮にそんなモノが。

 思いもよらぬ光景に、動揺が隠せない。

 俺は確かに、王宮の、殿下達のプライベートスペースに来たはずなのに。

 なのに………なんで、こんなことに?

 足下に転がる、死体……もとい、殿下×2。

 双子の良く似た顔が、仲良く床に転がっている。

 その頭部には、たんこぶらしきモノと流血。思いっきり頭部を切っていらっしゃる。


 そして目の前に佇む、セルウェイン家の令嬢の手には、丈夫で重そうな花瓶が… 

 状況的に見て、どう考えても犯人。いや、容疑者か?


 …というか殿下、生きてる? 死んでないよな?

 死んでたら、目の前の二人を国家反逆罪で捕まえないといけないんだが。

 いや、怪我させてる時点で不敬だよな。捕まえてみるべきか?

 ………こんな大貴族、捕まえたらそれはそれで問題になるんだろうなぁ。

 あー………現実逃避したい。目を窓の外に背けて、見なかったふりしたい。

 惨劇の元凶らしき二人を逃がさぬ様、目を離さず尋問する以外にすることが思いつかない。

 俺の職務としても、それをやっとかなきゃ職務怠慢で咎められるし。

 俺は溜息をついて、容疑者確保を試みた。


 肝心の殿下達の容態確認と、医者を呼ぶという当然のことを失念して。



 じりり、じりりと躙り寄る俺。

 さり気なく退路を確保しようとする御令嬢。

 あっさりと掴まって抵抗する素振りも見せない大貴族の当主。

 そして床に倒れた双子の王子殿下。


 何とも混沌とした状況を動かしたのは、小柄な少年の登場だった。

「………貴方方、というか姉様? 何をなさってるんですか」

 いつの間に入室していたのか、側から呆れた目で此方を見てくる少年。

 彼もまたセルウェインの当主や令嬢と面立ちが似ており、共通の特徴を持っていて。

 一目で血縁と知れる彼は、恐らくセルウェイン家三兄弟の末弟だろう。


 セルウェイン家の末弟、即ち、目の前の男女の弟。

 噂では一人が好きな偏屈で無愛想な…失礼、孤高を愛する天才魔法少年とのことだが。

 …確かに、偏屈そうだ。

 というか、性格が悪そうに見えた。直感だが。


 少年は部屋の惨状をじろじろと眺め、呆れた様な溜息をつき、咎める目で姉を見つめる。

 ちょっと見て状況を把握できるのは、これが日常茶飯事だからということは、ないよな?

 言い知れぬ不安に、俺の戸惑いが膨れあがる。

 そんな俺の胸中など知らない少年は、溜息をつきながら姉を注意する。

「姉様。仮にも相手は自国の王子殿下ですよ。花瓶で殴るのは、流石に過激すぎます」

 やっぱり、どう見ても花瓶で殴ったようにしか見えないよな。

「大体、こんないつ誰が来るとも分からないところで、こんな派手にやる人がありますか」

「ごめんなさい。まさか、こんなに直ぐ誰かが来るなんて思いませんでしたの」

 おい、論点が違わないか?

「現に、こんなチョロそうな騎士に目撃された挙げ句、誤魔化せなくなってるじゃないですか。姉様は昔から、慎重さが足りません。何かするなら、ちゃんと計画を立ててください」

「そうね。貴方の言う通りだわ。私が浅はかでした。次は、こんなヘマは致しませんわ」

「そうですね。呉々も、こんな騎士如きに咎められる様な失敗はしないで下さい」

 そう言って意味ありげに、魔法使いが俺を見るのだが…

 おい。チョロそうって、随分な言いぐさじゃないか?

 それが名門貴族の御令息のお言葉なのか?

 噂では、この少年は人見知りのヒッキーだって話だったんだが…

 ………随分、様子が違わないか?

 むしろ何の遠慮も、緊張もなく俺を見下しているようにしか見えないんだが。

「姉様の振る舞いは、初見の方には刺激が強すぎます。宮廷なんて言う、温い場所では特に。兄様も、側についていたのならちゃんと軽はずみな行いに出ない様、抑止してください」

「そうだな、私も反省しよう。可憐な妹の細腕を汚させるべきではなかった」

「そうではありません。事を起こす時は、証拠の隠滅がしやすい状況か見極めて欲しいと言ってるいるんです。そうでない場合は、ちゃんと犯行を止めて下さい」

「無理よ。お兄様が止める暇なんて、今日はありませんでしたもの。稀に見る瞬殺でしたわ」

「何で自慢げに言ってるんですか、面倒な。姉様は、後先考えて殴る癖を身につけて下さい」

 兄姉に説教を述べる魔法使いは、どう考えても気にする点を間違えている。

 確かに外聞の悪い行いを窘める必要はあるだろう。

 だが、王族への敬いや後ろめたさが微塵も感じられないのはどうなんだ。

 というか、日常か? 日常茶飯事なのか?

 王族ぶん殴っても、既に気にしない程、常習化してるのか?

 何だか他にも犠牲者がいそうな気配に、俺は戦慄した。

 それはもしかしたら、何れ自分も被害に遭う予感がしていたからかも知れない。


 小柄な少年が、少年とは思えぬ鋭い視線で俺を睨み上げる。

「貴方も、此処で見たことは他言無用です。良いですね?」

 有無を言うなとばかりの断定口調で、平然と命令してくる子供。

 俺は王家に雇われてる身で、アンタの部下じゃないんだけどな?

 まさか思ったことを言う訳にも行かないので、俺は職務に沿った言い方を心がける。

 宮仕えは辛いぜ。

「申し訳ありませんが、私の第一の使命は殿下方の身の安全を図ることです。次に、王家への叛意を示した者を捕縛すること。貴方の御命令は、その職務に反します。従えません」

 何年経っても慣れないのは、騎士の身分なのか、その口調なのか、対応の仕方なのか。

 本当は自分でも内心で笑わずにやっていられないくらい、柄じゃない。

 それでもそれを我慢するのは、今生での柵故。

 俺の内心の葛藤など、誰にも分かるまい。

 目の前の、このガキにも。


 セルウェインの末弟様は、俺に見下す視線を一つくれると、はしたなくも舌打ちなさった。

「これだから、頭の固い騎士は嫌いなんです。忌々しい。表面上だけでも大人しく従ってみせるだけの柔軟性はないんですか」

 この少年は、やはり色々と論点がずれていると思った。

「このまま放置しても、姉様に在らぬ罪を被せるだけのようですね。鬱陶しい」

 そう言う少年の手の平の上に、いつの間にか燃えさかる劫火。

 おい。何をする気だ。

「ふん。騎士の一人や二人、替えくらいいるでしょう。突然消えても、駆け落ちしたとでも言っておけばどうとでもなります。兄様、姉様、口封じに消してしまいましょう」

 おいおいおいおいおいおいおい、おい!!

 何をさらっと、顔色一つ変えずに物騒な!?

 俺はリアルに身の危険を感じ、思わず後退っていた。

 少年の本気を感じとり、冷や汗が、何もせずともダラダラと流れ出す。

 子供とは思えぬほど冷たい目を見て、俺は思った。

 コイツなら、きっと本気でやると。

 条件反射的に、俺の手は鞘に収めた剣へと伸びかけていた。


「お止めなさい」


 戦闘態勢を取るべきかと思案する俺の前、少年を止めたのは意外にもその姉だった。

「気にくわない相手は速攻消すなんて、それこそ短慮というもの。私に説教をする前に、貴方こそ自分の振る舞いを見つめ直す必要があるんじゃなくて?」

「姉様…」

「ああ、そうだな。何でもかんでも消せばいいというのは間違いだ。生かしておいた方が、後々役に立つ場合もある。それにこの程度で消しては、殿下達につく騎士を一々消すことになるだろう」

「兄様…。そうですね、僕は考えが足りなかったようです」

 兄様達に偉そうなこと言えませんね、と少年が呟くんだが…

 気のせいか? 俺の気のせいなのか?

 今思いっきり、不穏なことを言っていた様な気がするのは、俺の気のせいなのか…?

「ですが兄様、どう致しましょう。この騎士は、どう見ても融通が利きそうにない気がします。口封じに消すことを却下するとなると…」

「ふふ…口封じにしても、何も消すことばかりがそれとは限らないだろう? 我が家は貴族なのだから、私達も貴族らしい手段を用いれば良い」

 おい、待て! 待て待て、待て!!

 何だろう。凄まじい悪寒が。

 優雅に笑う、目の前の男。

 その口から出てきた言葉は、弟よりも不穏な気配を纏っている。

 一体、何をするつもりだ? 俺をどうするつもりなんだ!?

「弟妹を指導するのも、兄の勤め。私が有効な脅迫の仕方を実践してあげよう」

「脅迫って…郷、何をするおつもりですか? 私は下手な脅しには屈しませんよ」

「下手かどうかは、私の言葉を聞いてから判断すると良い」

 そう言って、セルウェインの御当主が俺の耳に唇を寄せる。

 …幾ら美形でも、親しくもない男に急接近されるのは、ちょっと………って、えぇ!?

 ぼそぼそと、御当主が潜めた声で俺に耳打ちする、その内容。

 何故だ。何故、そのことを赤の他人のアンタが知っている!?

 なんでほんの十数分前に初めて会ったアンタが、それを知っているんだ!!?

 親戚でも知らないだろう、その情報を!!

 ザーッと顔から血の気が引くのが、分かる。きっと俺の今の顔色は紙の様に白い。

「…どう? 君の言う通り、これは『下手な』脅迫かな?」

「色々と、追求したいのですが…何故、初対面の貴方が私の家の内情を知っているのですか」

「私はね、将来的に関わり合いになるだろう相手の弱点と弱味は事前に調査しておくポリシーなんだよ。それで、どうだろう。君が私のお願いを聞いてくれないのなら、君と君の家が必死に隠しておきたいこの情報が、社交界中に尾びれ背びれ胸びれを付けて蔓延することになるけれど」

「そんなことをされたら…私の妹は何処にも嫁げなくなります」

「それだけじゃないだろう。王宮に出仕している君自身だって、その未来を閉ざされるはずだ」

「…俺自身のことは良いんです。それより妹が嫁げなくなったら、俺が殺されます」

「ふふふ…君、思ったよりも素直そうだね。それじゃ、どうしようか?」

「どうしようも何も…それは、貴方が決める事でしょう」

「そうだね。物わかりの良い男は嫌いじゃない」

 そう言ってにっこりと笑う顔は、整っているだけに物凄くイラッとした。


「君には、此処で見たことを全部忘れて貰う。忘れられなくても、黙っていて貰おう」

 セルウェイン御当主の要望は、その一言から始まった。

「ああ、安心して良いよ。殿下達は死んでないし、怪我も大したこと無い。彼等ならこの程度、直ぐに復活するよ。慣れてるからね。だから君も、僕等を王子殺害の罪で咎めなくて済む」

「慣れている、という言葉に不安を感じるのですが…」

「大丈夫。僕等は殿下達のある意味幼馴染みだよ。殿下達も気にしない」

「それは問題が在ると思います」

「ははは。まあ、諦めてくれ。あと、私達の実態も黙っていて貰えると助かる」

「助かる…ですか。善意に頼っている様で、それは命令ですか?」

「そうだと言えば従ってくれるというのなら、肯定するのに否やはない」

「………わかりました」

 致命的とも言える弱味を握られ…

 王家に使える騎士としてはあるまじき事ながら。

 俺は、この目の前の小綺麗な男に従う以外に、道を見つけられなかった。


 …仕事は大事だが、周囲が思っているほど、俺は忠誠心が高い方じゃない。

 むしろ、お貴族様の実態を見るだに、笑いを堪えているのが本当の所で。

 自分の保身と、退路の見えないマズイ被害を被らない為ならば。

 俺は喜んで、目の前の大貴族サマに魂を売ろうと諦めた。

 

 ただし、一度きりに限る。


 俺は言いくるめられ、脅迫に屈した屈辱を忘れない。

 僅かに俺よりも背の低い青年に、忌々しさを込めて睨み据える。

 噛み締めた奥歯が、ぎりりと擦れて音を立てた。

「今回は、従います。ですが、今回限りです。次は、ありませんからね」

 同じネタで、二度以上脅されるつもりはない。

 脅迫される度、それは相手にとっても都合の悪いネタを得るという事で。

 今回の一度限りは、口を噤む。

 次にこの弱味を口に出してきたら…その時は、共倒れにしてやろう。

 意趣返しなど、直ぐには思いつかない。

 だけどこれだけは。

 次があった際に、相手を貶める決意だけは決めて。

 俺は反発心を隠しもせず、忌々しい男を睨み続けた。

 それに対して、男はにこりと微笑むだけで。

 その顔は、更に俺の逆鱗を擽る笑みだった。



 やがて三兄弟が部屋を去り、残されたのは昏倒している殿下×2と俺。

 酷い頭痛に苛まれながら、俺は殿下達の傷を見る。

 こんなに思い悩むのは、騎士になって初めてじゃないか?

 何とも厄介な人達の、見てはいけない姿を目撃してしまったらしい。

 噂とは全く違う、その姿。

 それを誰か(殿下以外)に漏らせば、その時点で社会的な死が待っている。

 それも、一族郎党の。

 なんで俺、初対面なのにあんなにガッチリ弱味握られてるんだろ。

 前途多難な新しい職場。

 大貴族であり、殿下達との縁も深いあの兄弟は、頻繁に王宮に出入りしているらしい。

 そも、セルウェインの御当主は次期宰相の座が決まっているともっぱらの評判だ。

 御令嬢も、未来の王妃候補に名を連ねているという。それも、最有力候補で。

 …あんな規格外の御令嬢を妻にした男の未来に深い同情を感じる。

 末弟は王宮お抱えの魔法使いになることが既に決まっていると言うし…

 どうにも、俺はあの三兄弟と会わずにはいられない気がする。

 それはとても、気鬱な予感だった。

 

 それと同時に、脳裏にちらつく何かがあったけれど。


 こんな時にも、俺の頭の大部分を占めるのは、前世で終わりに見た光景。

 

 かばい合う男女の、その最期。


 どうにも印象強く焼き付いたそれが、何故か先程見た男女に…

 セルウェインの兄妹に、重なった気がした。

 ほんの一瞬、僅かな瞬間だったけれど。

 錯覚に違いない思いつきは、俺の中に深く根付いた。

 あの光景とあの兄妹が、重なる筈など万に一つもないものを。



 

 殿下達の止血を済ませ、医者を呼ぶかと思案していた頃。

 二人の殿下は同時に目を覚まし、ふらふらと立ち上がった。

 目線で誰何されたので、自分が何者か、何故いるのかを語る。

 納得された二人の殿下は、俺にセルウェイン兄妹の行方をお尋ねになる。

 隠しようもないので正直に答えたら、軽く「そうか」と返された。

 …その仕草に、何やら慣れたものを感じる。

 え。本当に慣れてんですか?

 驚愕の事実だ。薄々、そうだろうなとは思っていたけれど。

 立ち上がった二人に「放っておいて良いんですか」と尋ねたら、嫌な答えが返ってくる。

「いつものことだ。放っておけ」

「一々気にしていたら、身が持たないよ?」

 ……………。

 ………。

 …えー………本当に、日常茶飯事なのかよ。

 嫌だ。嫌すぎる。

 花瓶で頭ぶん殴られるのに慣れてる王子様とか、殴るのがいつもの令嬢とか。

 そしてそれを全く気にしないくらいに、日常化している現実とか。

 おい。それで良いのか、王宮。それで良いのか、王家。

 暴力的なお貴族様って他にもいるらしいけど、流石に花瓶で王子を殴る令嬢ってどうだよ。

 誰も不敬罪とか、その辺の罪状を持ち上げないんだろうか…。

 これから、俺はこの王宮でやっていけるのか。

 自分の今後に、大いなる不安で戦いた。



 見たくもない王子様達の日常の実態。

 その片鱗を初日初っ端から目撃して、俺の心は折れそうだ。

 何とも厄介そうな奴らの名前は、セルウェイン三兄弟。

 ………絶対に関わりたくない相手だ。

 王子付きとなった今、そうも言っていられないのは分かっている。


 それでも出来得る限りの全力で避け通したいと思うのは、俺の正直な心情だった。


 それが全く報われない、無駄な努力であること。

 王子達の騎士として務める以上、否応なくセルウェインの兄妹と関わっていく。

 目を背けたいそんな現実。

 それをまざまざと実感させられるのは、遠くない先のことだった。












 ~騎士のいない、とある場所にて~


妹「あの騎士、『真面目な堅物、爽やかキャラ』って言ってなかった?」

弟「確か、その筈だったけど」

兄「うーん? 真面目そうではあったけど、脅迫に応じる辺りは堅物って言えない、かな。それに最後の方、爽やかには見えなかったよね」

妹「どちらかと言えば、『地獄の番犬』って感じだったわよ」

弟「静かに獰猛な感じは、確かに獣っぽい」

妹「あれー? なんか、ゲームとキャラ、違くない?」

弟「これも、僕達が転生してきたことが原因でしょうか」

兄「僕等が転生して、色々とズレが生じたのは確かだけど…うーん?」

弟「何か、違和感を感じますね」


王子2「何の話?」


妹「あ、弟殿下。兄殿下も。もう復活なさったの?」

王子1「貴様! 何でもかんでもすぐ暴力に訴える癖は改善しろ!!」

王子2「そうだよ。まだ頭が痛むよ」

王子1「王子相手だと言うのに、遠慮無用に殴るとは。頭が悪くなったらどうしてくれる!」

妹「別にどうもしない」

王子1「即答か! 暗愚な権力者など、最悪だろうが」

弟「その時は、王位継承争いに早々に決着がついて楽で良いんじゃないですか」

王子2「あはは。よく考えみてよ。二人とも殴って、次期の王様候補が二人とも馬鹿になっちゃったら大変じゃない。平等に殴られてるんだから、兄上が馬鹿になった時は僕も馬鹿になってるよ」

弟「それもそうですね。次の王様が愚王なんて最悪です」

兄「その時は私が傀儡にして差し上げますので、安心して下さい」

王子1「安心できるか!!」


妹「もう、仕方ありませんわね。そういうことなら、次からは目立たないボディを狙って差し上げますわ。そうすれば私もお説教されることありませんし、殿下も馬鹿にはならない」

王子2「そんな「解決ですわね!」って顔されても、安心できないんだけど?」

王子1「そもそも、殴るのを止めろ」

妹「殿下方が、私に殴らせなければよろしいのです」

王子1「………鍛錬でも、するか」

王子2「怒らせない様にするって選択肢はないんだ」

王子1「…この女の沸点は、俺には分からん」

王子2「僕も分からないかな…」


王子1「だが、本当に、暴力は少々控えろ」

妹「どうしてですの?」

王子1「貴様は年頃の淑女だろうが!!」

王子2「とても淑女の振る舞いには見えないけどね」

妹「人前では、それなりに淑やかに装えてますわよ?

王子2「うーん………君の、演技力の高さは認めるけれど…」

王子1「あの新しい騎士、アイツも未だ慣れていない。誤魔化すにも限界がある」

弟「別に誤魔化さなくても良いんじゃないですか?」

兄「これも、妹の個性です。可愛い物じゃないですか」

王子1「個性で全てを済ませるな!! あと、全然可愛くない!」


 苦悩する若き王子の声が、王宮の奥深い廊下に響き渡る。

 しかしそんな声も、王家の私生活をよく知る使用人達にとっては毎度のこと。

 猫被りの上手な令嬢に振り回される王子様に、彼等は「またか」と同情を捧げるのだった。


 

 



最後まで読んで下さり、有難う御座いました!

長々とお付き合い、お疲れ様です。



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[一言] あの三兄弟以外全員不憫すぎる(爆笑)
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