バイト
秋田はその後四冊の本もすぐに見つけ出し、貸出カウンターまで連れて行ってくれた。
カウンターには誰も並んでいなかったけれど貸出カードをもっていない私は新規申し込み用と書かれたブースに足を運んだ。ブースには一人50歳ぐらいのおばさんがいてパソコンを覗き込んでいた。
私と秋田に気付くといらっしゃいませと落ち着いた様子で答えた。
「洋一。こんなかわいい娘つれてあんたも隅に置けないわね。」
「違うって、萩原が本の場所がわかんないっていうから。」
「さんをつけなさいっていってるでしょ。でもそうだったの、ありがとうね。」
「別にいいけど」
こうやって話しているとどこにでもいる高校生っていう感じがする。
「ごめんね、この子無愛想だったでしょう?」
「いえ、そんな。」
いくら私が正直者でもいっていいことと悪いことはわかっているつもりだ。
「やめてよおばちゃん」
「大丈夫、洋一の無愛想はただの人見知りだから。」
佐渡はくすくすと笑いながら秋田のほうを見ている。
秋田は非難の目を向けると児童書コーナーに歩いて行ってしまった。
彼女は佐渡光子といった。この図書館ではかなりの古株で、彼女よりも以前から働いているのは警備員が一人いるだけらしい。
「そういえば彼ピアノを弾くんですよね?バイトとか言ってましたけど。」
「そうよ、まぁ食堂の無料券ぐらいものだからかわいいものよ。もし時間があったら聞いてみてあげてね」
私は新規申込用紙を書き五冊の本を借りた。もっと時間がかかるかと思っていたのでまだ少し時間がある。
そういえばお礼を言っていないな。
琴美はその足で児童書コーナーへと歩いていった。
児童書コーナーにはすでにたくさんの子供がピアノの前に集まってきていた。
「よーちゃんはやくはやく」
歯のかけた女の子がくしゃくしゃにした笑顔で秋田を迎えた。
よく見るとさっきズボンのすそをひっぱっていた子もいた。
「わかった、わかったから。」
「トトロひいて、トトロ」
「えープリキュアがいい」
「アンパンマン、アンパンマン」
子供たちが口々にリクエストをする。
「まてまて、先におばちゃんの曲を弾いたらな」
「えーつまんなーい」
「終わったらなんでも弾いてやるから」
「なんでもだよぉー」
いつものことなのですぐに文句を辞める。要するに終わったあとの約束がほしいのだ。
琴美はそんな秋田を遠目に見ている。あんまり子供に好かれる容姿には見えないけど。そんな失礼なことを思った。
「今日はこれよ。」
いつ来たのか、後ろには佐渡がおり、白いメモ用紙に書かれた曲目を秋田に渡しにいった。
「お願いね。」
「はいはい」
受け取ったメモに目を通すと数秒でそれを確認し、くしゃくしゃとポケットにしまった。