出会い
第一印象はさえない、影が薄そうな印象だった。そして身長が高い。180㎝はあるんじゃないかと思う長身。
カーキのハーフパンツに紺色のポロシャツ。どこにでもいそうな格好がさらに印象を薄くする。
「こ、この人ならここのことは何でも知っているから。遅くなってごめんね。」
息を切らした彼女は引っ張っていた手を放すと私に男性を紹介した。
「は、はぁ。」
その前にこの人どう考えても図書館職員ではないのでは?
「こっちです。」
「あ、はい。」
疑問が姿を変える前についていく私。
メモを持ったまま二階にある経済と書かれた棚に入っていく。
しばらく棚を探していたが、二つ目の棚から一冊本をぬきだしどうぞと渡された。
・共産主義と資本主義
「ありがとうございます。」
「いえ。」
言葉少なにかるく頭を下げると彼はまた歩き出した。
「あの、ここの図書館の方ですか?」
「・・・いえ、ただの高校生です。」
「お父さんが司書とか?」
「・・・いえ。子供のころからよく利用していただけです。」
常連というやつだろうか?まぁ早く本が見つかるのであればそのほうがよいのだけれど。
次は三階です。と言う言葉とともにまた歩き出した。
三階に上がる前に児童書コーナーと書いたブロックを横切る。
この図書館は基本的にはどのコーナーともつながっており、開放感を出したつくりになっているが、この児童書のコーナーだけは自動ドアと四方を壁に囲まれている。子供が騒いだときの騒音対策だろうか?と考えていると小学生ぐらいの女の子がこちらによってきた。
「よーちゃん、ぴあのひいてー」
目をキラキラさせた女の子はよーちゃんとよばれた彼の足元にいくと、ズボンのすそを引っ張りはじめる。
「わかった。わかったまたあとでな」
児童書のコーナーを見渡すと部屋のすみっこにアップライトピアノがあるのが見える。
「あの、ピアノ弾かれるんですか?」
「・・・バイトみたいなものです。」
「バイト?」
「子供のコーナーにピアノの時間というのがあってそれに僕が弾くんです。」
「曲目は?」
「なんでも。」
「なんでも?ですか。なんでも弾けるってことはかなりやっていらっしゃる方なんですね。」
「僕のレパートリーを知っている人からリクエストがくるのでそれを弾くだけです。」
さばさばと答えるとさっさと行ってしまった。
なんというか無愛想な感じだと思ったが、自分が知らない人に本を探す手伝いをさせられたら私でもそうなるかななんて思いながらついて行った。
あんなにイライラしていたのになんというか毒気が抜かれてしまったみたいだ。