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自分と竜と仮想世界  作者: 狐白
第2章 銀色少女の紡ぐ唄
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第8話 少奏鳴曲(ソナチネ)


―・・・・・お、がい・・・く、はや・・・・わた、を・・よ・・で・・・


誰かの何処か悲しそうな声。

でもよく聞こえない。なんて言っているのだろう。


―ねがい・・・は、く・・・はや、く・・・・わ・・しを・・・・


誰かに手を伸ばされてる。掴んでくれと。

でも掴めない。その誰かの手は透き通っていて、掴むことがかなわない。




――おねがい、です・・・はやく、はや、く・・・わたしをッ!!






呼んで






「―ッ。」


目が覚める。此処は俺たちが泊まっている宿の部屋。小さな窓の外はまだ薄暗い。

誰かに呼ばれていたような気がして起きてみたが、夏はぐーすかと向かいのベットで寝ている。

気のせい、だろうか。

まだこっちに来たばかりで精神的に疲れているのかもしれない。


「・・・・寝よ。」


誰かに呼ばれた、なんてそんなファンタジーの定番イベントみたいなこと。


俺にあるわけ、ない。


いやね、そりゃあったら嬉しいけどさ。踊っちゃうくらい嬉しいんだけど!下手したらこれ、俺も変態(ナツ)の仲間入りしてしまうかもだ。多分異世界でファンタジーなことに出会いすぎたから影響されて見てしまった夢だろう。俺って影響されやすいほうなのか?

夏に話したらきっと「ふむ、それは病気だ夜よ。思春期の少年少女に在りがちな“中二病”というやつだ。」絶対馬鹿にしてくる。まぁ実際俺も友達にこんなこと相談されたら、先ずそいつの頭を疑うけどな。

さて、まだ寝たりないし、もう少し寝よう。こんなこと考えている時間が勿体無い。










「で、朝食食べて部屋に戻ってきたまではいいが、今日はどうするんだ?」

「ふむ。今日は勉強会でも開こうかと思っているぞ。夜もそろそろこの世界のあれやこれを知っていたほうが良い。」


ってなわけで今日のやることは勉強会に決定。

待て夏、お前何処から黒板とチョーク出した!?


「では先ず、簡単な地理の説明から。」


カッ、カッと黒板に歪な形をひとつ、ふたつ・・・・五つ描いていく。中央に大きな円がひとつ、その上下に小さな円、そして大円の右側に位置する中くらいの逆三角形。そして中央の大円を三等分にする。これで準備は終わったようだ。


「これが簡単な世界地図だ。で、俺たちが今居るところは・・・」


白いチョークで指された形は逆三角形。そこに“エストゥア”と書き足される。


「この大陸、“エストゥア”。そしてこの大陸の南に位置するのがラグータリア、つまり此処だな。因みに首都はサントゥル。野菜が旨いと有名だ。」

「ふぅん。」

「そしてこの大陸を治めているのがアグリキュル国。この国は所謂農業国でな、毎年開かれる農国祭は料理の祭典が行われる。それはそれは旨いものが食えるらしいぞ。」


何それすごく行きたいぞ。料理の祭典ってことは食べ物が沢山ある。好きなだけ食べられるってことだよな!?うっはうはじゃん。


次の場所の説明に移るようだ。チョークが大円の上で止まる。


「この中で1番大きな大陸だな。“セントロン”大陸。この大陸は主に三つの国によって治められている。ひとつはこの大陸の上半分を占めている、北に位置する国のノルテ帝国。見て分かるとおり、この国が大陸の半分の領地を所持していて、権力はこの国が1番強いと言われている。ふたつめが下左半分とちょいを領地にしているエスティリア神聖国。この国は宗教の影響が極めて濃い。ふざけて『神様なんて信じない』なんて言ったら最期、牢屋にぶち込まれて一生そこで暮らすことになる。」

「終身刑だろそれ。」


怖すぎだろ神聖国。


「うむ。出来れば近づきたくはないな。そして最期に下右半分を治めている小国スィーマール。ここは貿易が盛んで、モノを揃えるならここでほぼ全てが揃ってしまうといわれている。ただ危険な物まで出回っているらしいから取引時には気をつけることが大前提だ。ここまではいいか?」


ええっと、今いるところがエストゥア大陸のアグリキュル国ってところで、真ん中のでっかい円がセントロン大陸、だっけ。これが三つに分かれてて、ノルテ帝国(一大勢力)、エスティリア神聖国(危険)、スィーマール国(注意)、だよな。


「おーけぃ。」

「ふむ。じゃあ次はここだ。」


チョークがまた移動して大円の下にある丸に乗っかる。そこに書かれた文字はズゥーデン。何故か猫の顔も描かれる。・・・猫、だよな?ひげあるし。


「ここは主に亜人が住んでいる。所謂エルフやドワーフといった人種だな。沢山の集落が集まって成り立っているらしく、国という単位は存在しない。」

「へぇ~、因みにそれ、猫だよな?」

「うさぎだ。」

「はぁ!?」


どう見ても猫だ。


「で、此処が最後だな。」


チョークの先は大円の真上に位置する歪な円。中が真っ白に塗られている。


「ノルデン大陸と呼ばれている。北端にある大陸だから一年中ずっと雪で覆われているらしい。その所為かこの大陸は未踏。とても人が住めるような気候ではないそうだ。」

「ん?雪降ってるくらいなら人住めんじゃないか?」


普通に雪国だって存在してもいいはずなんじゃないか?元いた世界だってそんな国いくらでもある。


「ふむ。酸の雨が降るそうだ。」

「酸ってどれくらい?」

「浴びたら最後、皮膚がどろどろと溶けていくような強酸の雨だ。」

「・・・無理だな。」


絶対行きたくない。

でもこういうところって魔王、居そう。


「これで一応簡単な地理は終わりだ。次は貨幣について、だな。」


部屋の中にある小さなテーブルの上に麻袋から出した貨幣が並べられていく。左から見た目的に、金貨、銀貨、銅貨・・・あとこれは、木?木貨、か?これ、ちょっと彫刻が得意な人は作れるんじゃないか?


「左から金貨、銀貨、銅貨、木貨になっている。金貨は銀貨百枚の価値、銀貨は銅貨百枚の価値、銅貨は木貨百枚の価値がある。日本円で換算してみると大体だが、金貨は百万、銀貨は一万、銅貨は百、木貨は一となるな。因みにここの宿代、覚えているか?」

「あぁ、たしか三泊朝晩飯つき二人分で銀貨一枚。」


そう考えると安い、のだろう。

夏は満足そうに頷く。というか俺だってそれくらいは覚えているぞ。


「一食で銅貨三枚だ。つまりは三百円。物価が異常に安い。」

「石鹸高かったけどな。」

「石鹸はこちらでは高価なものなのだろう。女将さんも言っていたではないか。こんなもの貴族様くらいしか使わないと。」


そういえばそんなこともあったな。因みに石鹸ひとつで銀貨一枚。宿泊料と変わらない値段だ。夏も流石にあの状態じゃ拙いと石鹸を買うのを許してくれたのだろうが、あんまし役に立たなかった。銀貨一枚無駄にした気分だ。残った石鹸はきちんと乾いた後紙に包んで大事に保管してある。またあとで風呂に入ったときに使うからな。


「ん?そういやその金ってこの世界にきたときにあったっていう鞄の中に入ってたのか?」


夏が肩に下げているショルダーバックは異世界にきたときに夏が持っていたものらしい。中には役に立つものが入っているとしか聞いていなかったから少し不思議に思っていたのだ。


「うむ。金貨が一枚、銀貨が五枚、銅貨が五十枚、木貨が五十枚だな。後鞄の中に入っていたのはボロボロの古臭い地図と救急セット、ペン、白いメモ用紙のみだな。それからお前の制服のポケットの中に入っていたボールペンとかもこの鞄に入れてある。因みに勝手に使っているぞ。こちらの主要なペンは羽ペンで持ち運びが不便なうえに面倒なのだ。」

「あぁ、使うのは別にかまわないけど。」


羽ペンって実際に映画とかでしか見たことないから、少しだけ使ってみたい。たしかペン先をインクにつけて書いていたよな。コッチで言う習字みたいなものなのだろうか?

夏が袋に貨幣をしまっていくのをなんとなく見ながら、羽ペンを使ったときを想像した。


「次行くぞ。お待ちかねの魔術についてだ。」


おお、待ってました!

また黒板に戻る。さっき書いていた世界地図を消して、今度は関係図のようなものを書いていく。あ、俺これ見たことある。よくRPGとかに出てくる属性関係図だ。


「・・・こんなものでいいか。先ず属性は大きく分けて四つある。それを元素属性という。火、水、風、土が元素属性に当てはまる。そしてその派生属性として炎、氷、雷、木が挙げられる。他に古代属性があって、闇と光。まぁ定番だな。合計十個の属性が存在している。」

「結構多いな。」

「ふむ、そうだな。お、もうひとつあった。つい忘れるところだった。無属性というのがあってな。」


忘れるってどういうことだよ。なんか強そうな属性なのに。


「多分この属性の中で1番最弱だな。誰でも使える属性、それが“無”。重いものを持ち上げたり、何かを測ったり、日常生活の中で使われるような魔術が多い、というか日常生活でしか使えないのだ。それ故最弱とされる。」

「なるほど。」


じゃあ全部で十一個、か?


「で、夏。本題は?」

「くっくっく、やはり夜にはお見通しか。ならばくだらない前置きは止めにして本題に入るぞ。お前には此処に居る間に魔術の基礎を覚えてもらう。」

「無理だ。」

「却下だ。」

「何故だ!?」

「お前にならできる、俺はそう信じているのだ。」

「理由になってねぇわ!!」


笑顔でさらっと難題押し付けやがった。

こいつ、此処に居る間って言いやがった。つまりは今日入れて猶予は二日間。その短い期間で一からなんも知らない魔術の基礎を覚えろと?無理に決まってるだろうが!可能なことと不可能なことくらい区別つけろよいい加減!この阿呆変態め!

大体こいつだって魔術使えない・・・・・・・・・・使ってたよ。小枝に火つけてたじゃん。


「俺は火と炎属性だったら自由に操れるから問題ない。問題があるのはお前だ!これからこの世界で生きていくにあたって魔術なしは相当つらい。今は俺がいるからいいが、昨日みたいにお前がまた迷子になったときは一人だぞ。そういうときにタイミング悪く魔物が出てきたら対応できずに、死ぬぞ?夜。」

「っ。」


たしかに夏の言うとおりだ。いつまでもこいつに頼ってはいられない。そういうときが来るかもしれない。そのとき、俺はどうする?何も出来ずに死ぬか?それとも生きたいと足掻く?

必死で生きようとする。きっと。

そんなときに何も手段がなければ意味がない。生きるための手段がないと。それがこの世界で言う“魔術”。剣なんて今更握ったとしても鈍器として使える程度だろうし、覚えるなら魔術が1番効率がいい。

だが、一から覚えるとなると相当難しい。一体何処から取り掛かれば良いかすらわからないのだから。だけど。


「とりあえず出来るところまでやってみる、か。」

「うむ。ならいいことを教えてやろう。魔術を使うときは基本的に何か“要”になるものを持っている必要がある。RPGにたとえるなら、杖とか本だな。よく魔術師が持っているだろう。」


たしかに。杖とかは定番だな。魔術師は大体三角帽子に杖。これ鉄則。


「稀にその要がなくても魔術が使える者がいるようだが、それは魔力が異常に多い奴だけが出来る荒業だ。基本的に要はすべての魔術師が持っている。少しは参考になったか?」

「まぁ、な。よし、んじゃあ今からその要とやらを探しに行くかな。」

「俺も暇だし着いて行くぞ。お前が迷子にならんように見張っている必要もなるからな。」

「もういい加減そのネタやめてくれよ!つかお前くんな!」


と言っても着いてくるだろうな。まぁどれが“要”だか俺には市場で見かけてもわからないだろうし、役には立つか。しょうがない連れて行こう。


こうして市場に“要”探索に乗り出した俺たちだった。






                         第8話 終わり


2012/2/7改訂

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