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自分と竜と仮想世界  作者: 狐白
第2章 銀色少女の紡ぐ唄
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第7話 小夜曲(セレナーデ)《Ⅱ》

「んぐっ、でさ、俺間違って私有地に入っちまったみたいでさ。」


やっぱここの夕飯は旨いなぁ。

今食べているのは鶏肉のソテーだが、これをパンに挟んで食べるとまた美味。目の前にいる奴はステーキっぽいものを食しているが、なかなかあれも旨そうだな。ナイフで肉を切ると中からじゅわって肉汁が飛び出てくる。・・・少しもらおう。

問答無用で奴が切り分けた肉をぶすっとフォークに刺して一瞬で口の中へ。やっぱうめぇ。


「それで、お前はどうやってここまで帰ってこれたのだ?」


話で気を逸らして奴も俺の鶏肉を狙おうとしたがそうはいかない。飛んできたフォークをナイフでガードする。そう簡単に飯を奪われてたまるか。


「あ、いやそれがさ。夏は覚えてるか?あの昼間襲ってきた盗賊の中にひとりだけ少年がいただろ?」

「あぁ、あの殺気を飛ばしてきた活きの良い餓鬼か。」

「餓鬼って俺らもまだその部類に入ってるから。で、そいつにその私有地で偶々会って、ここまで案内してもらったんだ。・・・お前いい加減にしろよ」

「夜が先にしてきたんだろう?ふむ。運が良かったな。」


あっ!くそ、取られた。しかも二個取りやがったこいつ。


「鶏肉も、なかなかだな。ごくっ。因みにその少年はそこの私有地の者だったのか?」

「いや、おそらく違うんじゃないか?名前までは知らないがあいつは“兄貴”って呼んでいたな、その私有地の持ち主のことを。その持ち主、相当怖いらしい。」


白身魚のムニエルもなかなか。おっと、奪おうなんて言語道断。先程のようにはいかせん!

ナイフとフォークを駆使して相手の猛攻を防ぎきる。


「・・・怖い?」

「あぁ。なんかあの私有地に入ったのが見つかったら殺されるって。」

「そりゃ怖いな。」

「だろ?入っただけで殺されるってどんだけ神経質な奴なんだよ。あ、それからそこでちっちゃな女の子にも会ってさ。その女の子が持ち主の妹、なんだって。たしか名前は、ティオ、だったか?」


奴のフォークが俺の防衛を掻い潜って魚に魔の手が伸びる。しかしそうはさせん。奴のフォークは吸い寄せられるかのように飾りのパセリへ。題して、身代わりのパセリ。ふっ、奴のフォークをそれへと誘導させることなぞ容易い。俺の敵ではないわ!


「妹、だと!?それはつまり男の娘「阿呆。れっきとした女の娘、だ。」


この変態め。


「それは非常に残念な結果だ。・・・ふむ。ならば本題に戻すが、夜よ。お前高校二年生にもなって“迷子”はないだろう?」


にやっといやらしい笑みを浮かべる奴。

頑張って意図的に話を逸らしていたというのにそれをなし崩しにしやがったこいつ!

基本的に奴がこういう笑みを浮かべるときは、大抵俺にとって良くないことが起こる前触れだ。帰ってきて早々この笑みを向けられたときは「あぁ腹減った」といって誤魔化し、料理が運ばれてくるまでの時間を昼間市場で見つけた異世界あるあるを披露して潰し、飯を食っている間は微妙に話を逸らして核心にいかないようにしていた努力が一瞬で崩れ去った。


高2で迷子。


俺がもし他人から聞いたら、恐らく目の前にいる奴と同じ反応をしただろう。「わははははお前高2になって迷子とかマジ笑えるっ。」って。他人事だったらの話。

いや、そりゃあ言い訳なんていくらでも出てくるさ。先ず大前提に此処、異世界だから。そう言ってしまえば終わりなんだろう?迷子になった理由なんて。

だが、目の前に居る奴も俺と同じ境遇。イコールこの言い訳が通じない。最悪だ。


「・・・あ、お、俺はお前みたいなハイスペックな脳みそ持ってないんだよ。」


っておい!頑張って出てきた言い訳それかよ!?俺、もっとマシな言い訳なかったの!?


「ほほう。で?」


は、何?で?ってこの先期待してんの!?俺もうなんも言い訳思いつかねぇぞ?これはあれか?もうこいつの顔面にグーパンっていう選択肢しかないのか?そうすれば丸く収まる?いやでも、テーブルにはキラキラ輝いている旨そうな料理がまだまだ沢山ある。ここで騒ぎを起こしたらもうこの料理たちとは会えないのかもしれない。・・・それは拙い。でも、こいつに負けた気を持つのは屈辱的だ。しかし、料理とプライドを天秤にかけたら間違いなく料理に傾く。


「って何どさくさ紛れに俺の食ってんだよ!?返せ!食べる前の状態に戻してその口から吐き出せ!」

「そんなファンタジーなこと出来るわけがないだろう?何を言っているのだ。」

「お前の存在自体がファンタジーなんだよ!そこら辺分かって言ってる?」

「くっくっく、それはつまり余の存在が輝いていると。そう言っているのだな我が半身よ。ようやくお前にも余の素晴らしさが分かってきたようだな。」

「まだその設定生きてた!?」


夏を見ててふと思ったんだが、この世界に魔王はいるのだろうか。

竜がいるんだから魔王、勇者辺りは鉄板でいそうだけど。少しだけ見てみたい気もするが、係わりたくはない。魔王なんてものにエンカウントしたら俺の場合その時点で人生が終わる。勇者だったら見ても差し支えなさそうだが、でも通常時の勇者を見てもあまり面白くなさそうだな。勇者だって一応人間だろうし、そこまで奇抜な格好していなければ見分けもつかないだろうし。

まぁ目の前にいる奇抜な格好している変態は置いとくとして。

それにもしその勇者が召喚されたとしたら帰る方法を知っているかもしれない。そうしたら、“あんなこと”をしなくても、帰ることが出来る。



『異世界を破壊してきて?』



あいつの言うとおりにすれば、そうすれば俺たちは帰ることが出来る、のかもしれない。もしかしたら勇者を見つけ出すより簡単なことかもしれない。でもそれは・・・


「おい、夜。デザートがきたぞ。」

「なんだと!このゼリーは俺のものだ。あとパウンドケーキも俺のだ。」

「ならこのババロアは俺がいただくとしよう。」

「それも貰う。」

「俺のデザートは“なし”か?」

「はっはー、そうだ、“なし”だな。」

「ならば夜よ、その三つのうちのどれかと“なし”を交換しないか?」

「断る。」

「ならば力づくでその三つを奪う!」

「やれるものならやってみろ!!」




でもそれは、“この世界の人たち全ての命と引き換え”、ってことで。





――そこまでして『俺』が帰る意味は?















                     ♪











「ハーク。」


おれの名前が呼ばれる。地を這うような声音で、“兄貴”に。


「・・・はい。」


意を決して俯いていた顔を上げる。

目に映ったのはティオと同じ白銀の髪を後ろでひとつ縛りにしている長身の青年。繊細な顔つきで身体の線は細く、何処か女性に似た雰囲気を持っている。でも“兄貴”は“男”だ。だって本人がそう言っているのだから。だから“兄貴”はおれの尊敬している格好良い“男”。


「・・・ティオがまた倒れた。夜に公園に居たらしいな。どうして外に出させたりなんかしたんだ?」


静かな怒りを感じる。

清廉な碧い瞳が眩しくてつい目を逸らしてしまった。


「すみません。おれが目を離してしまったばかりに。この責任は必ず取ります。」


頭を下げて謝る。

今の“兄貴”に何を言ったって聞いてくれやしない。たとえおれの行動に何か意味があったとしても、それが正しいことだったとしても、“兄貴”にとっては全て悪。ティオが係わること全てに関して“兄貴”にとって自分の判断以外は間違い。

この点に関してだけはおれは“兄貴”を尊敬できない。でも他は尊敬してる。だから従う。


「責任を取る方法、分かっているな?」

「はい。」


下がれ、と言われたので部屋から退出する。重い響きの扉が閉まる。


「・・・・ふぅ。」


ティオが倒れた、と言っていた。大丈夫だろうか。

おそらく彼女は今“兄貴”の部屋からしか入ることの出来ない横部屋で寝ているのだろう。あれだけ動き回ったらそりゃぶっ倒れる。ティオには魔力が足りてないんだから。


自分の部屋に向かって廊下を歩いていると前方からセンネルが来る。たしか今年で32歳になるって言ってたっけか。


「ハーク。大丈夫だったか?」

「まぁ取りあえずは。・・・責任取らなくちゃいけなくなったけどな。」

「あちゃあ、やっちまったか。でもまぁ、お前の場合悪気があってやってるわけじゃないからな。皆それくらい分かってるから、勿論今回も俺らが手伝ってやる。安心しろ。」

「う、うん。・・・・・。」


一瞬の沈黙。


「嬢ちゃん、また倒れたんだってな。“兄貴”、顔真っ青にしてたぜ。」

「・・・魔力が、足りないんだ。」

「分かってる。だから今から責任、取りに行くんだろ?」

「・・・うん。」


顔を俯けていたら唐突にバシッと頭を叩かれる。

まただ!背がおれより高いことをいいことに皆俺の頭叩きまくるんだから!「あぁちょうどいい位置にお前の頭が~」って。


「なぁに辛気臭い顔してんだ。ほら、今日はもう遅いから夕飯食って寝ろ。そういえばデューロが風呂沸いたって言ってたぞ。お前、風呂好きだろ?」


まったく、センネルはいつもこうやっておれを励ましてくれる。勿論他の皆も。妙なとこでおれに気遣って。自然と笑みが零れる。


だから“此処”が好きだ。


「おうっ!じゃ俺が1番風呂な!!」

「残念。もうデューロが入った。」

「なんだと!?」






                          第7話 終わり


2012/2/7改訂

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