表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自分と竜と仮想世界  作者: 狐白
第2章 銀色少女の紡ぐ唄
5/31

第5話 即興曲(アンプロンプチュ)

朝。多分。腕時計が役に立たないからなんともいえないが日が出てきたから朝。

夏の話だと此処の世界には当たり前に魔物というなんともファンタジックな生物が存在しているらしく、日が傾くとそいつらの活動が活発になるらしい。

だが今は朝。魔物の活動は抑制される。・・・はずだ。


―グルルルルルルル


うん、はずなんだ。別に大人しくなるわけじゃないけど活動範囲は狭くなるし、夜に狩を済ませてあるから飢えているわけでもないって。だから日が暮れているときよりかは全然マシだって。というか今エンカウントした方が得かもしれないぞって。


「お前そう言ってたよなぁ!!夏!!」

「ふむ。ただ何事にも例外は存在するものだろう。この世にあり得ない事など存在し得ないのだ。」

「なんかとっても深いこと言ってるけど、今はそんなんどうでもいいから!この状況を楽しんでないでどうにかしろ!」


魔物 が あらわれた


攻撃する

助けを呼ぶ

→逃げる


魔物 に 回り込まれた

にげられない


「恐らくお前の体中に付着している血の匂いに誘われてやってきたのだろう。魔物は血の匂いを嗅ぐと興奮する習性のものもいるからな。」

「懇切丁寧に説明ありがとう、でも要らない。今欲しいのは助けだけ。」


うねうねと動いているスライムっぽいものが二匹と狼っぽいのが三匹、お互いに牽制しあいながら唸る。偶々出くわしたこの二種類だが、どちらも(オレ)を横取りされないように必死で睨みあっている。

この隙に逃げ出そうかと思ったら素早く周りを囲まれた。変なところで連携とられても困る。


「RPGの定番からいえばこれは初心者にはきつすぎると思いやしませんか?」

「俺も初心者だぞ。」

「お前は竜、俺は人!!もうそこから絶対値が違うから!お分かり!?」

「だから早めに実践経験を積んだほうが良いと思ってこういう場を設けたのだろう?俺って優しい。」

「無用の気遣いだよ馬鹿野郎!!」


そうこうしているうちに段々と距離を縮められていることに気がつく。あれ?これもしかしてやばくないですか?いや、もしかしなくても相当極致に追い込められてる?


「よし、そこで陣を展開して最大級魔術を「出来るか!!」


おかしいな、極致に追い込められれば秘められた力が発現するはずだが、と何処かの少年漫画の主人公みたいなことを期待している馬鹿は放っておくしかない。

といっても自分で出来ることももう何もないんだけど。あ、大人しく魔物に食われて養分になることぐらいは出来るか。


「スライムといえば雑魚中の雑魚。それぐらい倒せなければ真の勇者とは言えないぞ。」

「お前マジ死ね!」


―ガゥッ


鳴き声に気がついてはっと視線を魔物に向ける。それと同時に目の前の一匹が襲い掛かってくる。


「後ろのスライムも行ったぞー。」

「止めろよ阿呆!!」


前後から襲い掛かってくる魔物。

どうにかして間一髪で下に屈むとスライムと狼が激突し合う。スライムは軟体な身体を駆使して狼の牙から逃れると敵を包み込み、そのまま体内で消化し始めた。透明なので中身がよぉく見える。最初は足掻いていた狼は数秒でぱったりと動かなくなってしまい、毛が猛スピードで溶け始める。あのスライムの体の成分はきっと硫酸だ。あり得ない溶け方してる。弱肉強食のドラマを垣間見た気がした。

スライム強すぎだろ!?ってか洒落になんねぇって。これ触ったらアウトってことだよな?


「おい夜、次が来るぞ。」


思考もままならないまま第二陣が襲い掛かってくる。今度は狼二匹とスライム一匹だ。あっけない仲間の最期を見た所為か狼は二匹がかりで来たようだ。

一か八か拳で殴ってみるか?それこそ無謀だろうな。じゃあ蹴り?足ごと食われそう。魔術?なにそれおいしいの?状態。逃げる?だから囲まれてて逃げられないって。万事休す。


駄目だどうしよう。


ってあれ?ねぇちょっと待って。待って待って、ストップ。

致命的な何かが足りてなくないですか?俺、ないよ?何もないよ?


「武器がない!!」

「ふむ。それは気がつかなかったな。(棒読み)」

「お前知ってて態とやらせただろ!」

「ばれたか☆」

「ふざけんなっ!!お前俺を殺す気か!!」


次の瞬間、四匹の魔物が一瞬で灰になる。夏の魔術?だろうか。

敵がいなくなったと分かった途端今まで出てこなかった汗がどっと出てくる。もうだらっだら。腰が抜けて草原に座り込む。しばらく立てん。というか立ちたくない。こいつのせいでえらい目にあった。


「っはぁ、はぁ・・・死ぬかと思った。」


息切れ。動悸。

真面目に怖かった。出来ればもう一生魔物にエンカウントしたくない。


「残念。俺が魔物の一種である古代竜(エンシェントドラゴン)だからな。その願いは一生叶わない。」

「最悪だ・・・。魔物アレルギーになりそう。」

「とりあえず次の町に着くまでは魔物に遭わないようにしておこう。一々戦っていたらお前の生命が風前の灯になりかねないからな。」

「そうしてくれ。冗談抜きで。」


古代竜は魔物の中で王と呼ぶに等しい位置に君臨しているようで、大抵の魔物だったらただ夏がそこにいるだけでも近寄ってこないのだとか。いい魔物除けだ。その点では本当に頭が上がらない。他の部分では殺したくらい恨み辛みがこんこんと溜まりまくってるけどな。


「この先に町はあるのか?」

「ふむ、ラグータリアという町があるな。首都の手前の町だから人で結構賑わっているらしいぞ。」

「へぇ。じゃあそこを目指すってことで。」

「まぁそういうことだな。もう少し休んだら行くぞ。」

「あぁ。」


幸いまだ出発しないようだ。これでもう即出発なんて言いやがったら一発顔面にグーパンしてるところだった。







「夏、響は男だ。」

「知っている。だからこその楽しみ方というものがあるのだよ。それが分からないとは、お前もまだまだ未熟だな。今世間では男の娘というカテゴリーが注目を集めていてだな」

「はいはいもういい。それもう聞き飽きた。」

「ではお前に男の娘のなにが分かるというのだ!」

「あのさ、もうそろそろ現実逃避、やめね?あちらさんもなんだか怖がってるみたいだし」

「どちらかといえばお前の血みどろの姿に、ではないか?」

「あんたも十分変態じみた格好してることをそろそろ自覚しろ。」


いきなり童話風の語りになるけど気にしないでくれ。

あるところに「もうそろそろ町に着くなぁ」って気が緩んだところをつけ狙う悪い盗賊が居たとさ。その盗賊は五人組で、一人は旅人を油断させるために話しかける役、あとの四人はその旅人が油断したところを殺る役に分担されていた。その盗賊たちは最近名をあげてきた新米だらけのグループで、巷ではちょっと名の知れた盗賊団だそうで。といっても新米ばかりだから時たま失敗することもあって、そういうときは逆にその旅人のことを手伝って許してもらうんだとか。


「そんな都合が良い盗賊にもし俺がエンカウントしたなら即殺すがな。」

「・・・はは、冗談きついでっせ、旦那。あっしらは旦那の圧倒的な強さに惚れ込みました。どうか使ってやってくだせぇ。この通り、命だけは。」

「こいつらこっちの命奪おうとしたくせに自分たちだけ救われようなんて」


ふざけてる。

そう続けようと思ったら目の前に正座している一人の盗賊が顔を真っ青にして悲鳴を上げた。


「ひぃっ!殺人鬼!!ど、どうかお許しを!!」

「こ、こいつ、本当はいい奴なんです!この間なんか隣のうちの婆さんが病気になって動けなくなったときに背負って態々診療所にまで連れて行ったり・・・。」


涙目になりながら必死で仲間を庇う盗賊B。

これどっちが悪役?俺?俺ですか?


「まぁまぁ。許してやったらどうだ?夜よ。」

「・・・お前ついさっきした自分の発言見直せよな。」


見かけだけで殺人鬼呼ばわりされてたまるか。俺の隣にいるこいつだって相当変態な格好しているはずなのに、全く盗賊たちは反応しない。何これ。何かが間違ってるぞこの世界。


「じゃあ手始めにこの先にある町案内とおすすめの宿を紹介してくれ。」

「分かりやした旦那!おい、いくぞてめえら!!」

「「「「おう!!」」」」


こいつら易々と引き受けたけど、盗賊が堂々と町中に入っていっても良いのか?まぁ本人たちが何も言わないんだから大丈夫なんだろうが。というか町案内なんかさせて夏はどうする気なんだか。



盗賊の中で一人だけ少年が居た。

こげ茶色の髪が邪魔にならないように緑色の紐で一本に縛っていて、つり目の意思が強そうな瞳は緑色に爛々と輝いている。先ほどは他のやつらに合わせて元気な返事をしていたが、分かってやっているのかひとりだけ殺気を漏らしていた。

あまりそういうことをやらないで欲しい。

俺の隣で瞳孔を縦に割って獰猛な笑みを浮かべてる、本当の意味で危ない奴がいるから。






                            第5話 終わり


2012/2/4改訂

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ