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自分と竜と仮想世界  作者: 狐白
第1章 始まりの刻
3/31

第3話 追複曲(カノン)《Ⅱ》


―ぱちぱちっ


飛び火の爆ぜる音が響く。


「おい変態、今思ったんだが朝から振り返る必要性、全くないよな?」

「ふっ、甘い。甘いぞ貴様ッ!!俺はただお前の妹もとい弟の日常生活を聞いてみたかっただけなのだからな。」

「お前マジで一篇三途の川渡れよ。」


本気で言っているのに鼻で笑って流しやがったこいつ。というかさっきの思いっきり時間の無駄使いじゃねぇか!?


「時間の無駄ではないぞ。」

「お前はエスパーかっ!!」


たしかに俺とこいつは結構長い間つるんでいるが、ここまで通じ合っていると流石に気持ち悪い。いや、でも長いっていっても中学のときからだから五年か?ん、五年って長いのか?でもそこまで長いわけじゃねぇよな?


「そんな無駄なことを思考している暇があるならば状況を整理したほうがいいのではないか?」

「だからやめろよ人の心読むの!!気色悪いわっ」











                       ♪











「テスト回収するぞー。名前書き忘れていないかきちんと見直せよー。」


英語のテスト用紙の氏名記入欄に目を向ける。そこは空欄だった。

うっわ、あぶねぇ・・・ヒガ、ノ、ヨルっと。名前を記入しないといくら頑張って回答しても0点になってしまう。


「おい氷鉋(ヒガノ)、早くしろよ。」

「あ、あぁ、ほい出来た。」





「どうだった?」

「それ聞く?俺が英語超苦手なの知ってて?」

「俺は得意だぞ?」

「知るかっ!!」


冬休み明け始業式当日。俺らの学校ではテストがある。休み明けにテストは鬼畜すぎだろうと大半の生徒は嘆いているが、この学校の仕来りみたいなものだから仕方がないと割り切るしかない。どう足掻いたってテストを受けることには代わりがないのだから。


現在昼休み。この後もまだ日本史と生物が残っている。態々一日に詰め込んでやらなくてもいいのに。


「夜、屋上に食べに行くぞ。」

「は?お前こんな寒いときになんで屋上なんかで食わなきゃいけないんだよ。しかもそこ鍵が掛かってて入れないようになってるだろうが。」


漫画とかアニメではよく屋上で昼飯を食べているシーンがあるが、あれは現実では実行することがほとんど出来ない。何処の学校でも似たようなもので、危ないから屋上には入るな、の一点張り。たしかに落ちたら危ないしそういった事件も増えていると聞く。だが、屋上に入るのは高校生の特権というかなんというか、そんなロマンを感じていたのだ。だからこいつの誘いに少なくとも魅力を感じているのもたしかだが、そんな寒いところまでいって青春したくない。

しかしこいつは余裕の笑みを浮かべている。何か策があるのだろうか。

何回も染め直して痛んでしまった金髪を揺らしながらバンッと机を叩いた。


「ふっ、甘いぞ。甘甘なのだ。この間偶々ガラの悪い連中が鍵を壊して屋上に入っていくのを発見してな。」

「見てんじゃねぇよ!!止めろよ!!お前お仲間だろ!?」

「それは昔のことだ。」

「そこまで昔じゃねぇだろうが!!」


二年前ぐらいまでそのガラの悪い連中とつるんでたのはお前だろう。

金髪に鋭い目つきとだらしなく着崩した制服を見てもまだその名残がある。二年前に比べたら少しは丸くなったところもあると言えなくはないが。


「もし付き合うなら昼飯を奢ってやってもいいぞ?」

「行きます是非行かせてください。」

「身代わり早いな。」

「金には代えられん。」

「だろうな。」


普段は金がかかるからと我慢していた高級な惣菜パンを買うつもりだ。因みに通常は百円以内のパンを五,六個買っている。夏の財布なら思う存分好きなものが買えるというものだ。これで日頃の恨みも晴らせる。


「・・・良からぬことを考えているな?」

「まさか。(だからエスパーかっ)」






屋上、入り口。


泉原(イズハラ)、お前この間はよくもやってくれたな?」


目の前には二桁超える数のガラの良くない連中、または不良、それか以前の夏のお仲間と言い換えるべきか。

思いっきり巻き込まれた。これ俺に全く関係ねぇじゃん。なんで俺まで囲まれてるわけ?


「おい夏、お呼ばれしてるぞ。お前一人で行けよ。」

「何を言っているか我が親友よ。」

「さり気なく親友強調するんじゃねぇよ!!」


今思い返せばもうあの夏の話の時点でフラグが立っていたのだろう。こんなうまい話があるわけなかった。ただ寒いのだけ我慢すれば優雅な食事を摂ることが出来るなんて。

というか完璧に(コイツ)の所為だけどな。


「悠長に会話してんじゃねぇよ!お前が抜けてから俺たちは他のグループに舐められっぱなしなんだよ!」

「だから俺を倒せば良いとでも?」

「そういうことだ。悪く思うなよ元総長!」


思考が安直すぎる。阿呆かこいつらは。二年も前の話なのに今更掘り起こしてなんになるって言うんだ。というかこの手のリンチに何回か遭ったってそういや言ってたな、夏。


「悪いと思うのならばこれっきりにしてくれないか?俺もお前らみたいな雑魚共にかまっている暇はないのだ。」

「なんだとてめぇ!!」

「煽ってんじゃねぇよこの阿呆!ってぅおっ、危ねぇっ!俺関係ねぇし!!」


拳が顔右すれすれを通る。

ケンカなんて数えるほどしかやったことないのに、こんな大人数と出来るはずない。手っ取り早くここから出るのがいいんだろうが、入り口は不良の一人に押さえられている。しかもやたら図体でかい奴に。先ず勝てないだろう。

今俺に出来ることといったら逃げることぐらいだ。殴られる前に空いた空間へと走り抜ける。

そうしている間に夏は数人の不良を既にノックアウトさせていた。目茶苦茶楽しそうに。というか楽しんでる暇があるなら俺を助けろ!


「こいつ、どうする?」

「一応ぼこぼこにしとこうぜ。そのほうが後腐れないしな。」


目の前の不良①②が不穏な話してる。というか待て後腐れの使い方が微妙に違う!

背後にはフェンス、眼前には五人の不良。終わった。


―ガシャンッ


右肩を押されてフェンスにぶつかる。錆がパラパラと落ちる。

そして抵抗も何も出来ないまま鳩尾を強く蹴られた。一瞬息が詰まる。5対1とか卑怯すぎだろ!


「ぐっ!」


背後のフェンスに引っ掛かったブレザーが破れる音が聞こえた気がした。

これ高いのに、ふざけんじゃねぇ!一着十万ぐらいすんだぞ!?

身の危険より制服の心配をしている俺は何処かおかしいのかもしれないけど、本当にこんなことしか頭になかった。後で両親にどうやって言い訳しようか、とかまた弟が夏に手を出さないように誤魔化しを考えなきゃいけない、とか。


浮遊感を感じるまで。


「・・・おい、これ、やばくねぇか?」

「お、おおおれは知らねぇっ!!」


不良たちの焦り声。叫び声。階段を駆け下りる音。空気を切る音。地面に何かが打ち付けられるような打撃音。耳に障るノイズ。

そして次の一瞬、言葉にならない激痛が体中を襲う。何かが地に流れ出る音。赤。温かい液体。

ってあれ?これって血じゃねぇ?誰の?・・・俺の、か?はは、笑えねぇ。

ぼやける視界に映る空。曇ってる。屋上から落ちたんだ。ほらみろ。屋上に行くなんて碌なことにならねぇんだ。これでまた屋上に入れる高校が大幅に減るだろうか。


ほんと、笑えない。


俺の意識があったのはここまで。











                      ♪











「で、次に目が覚めたときには此処にいて、全身血だらけで気持ち悪いわ、親友は何故か竜になってるしで全くワケ分からん。おい夏、説明しろ。」


親友をびしっと指で指す。

一体どういう過程でこんな状況になっているのか。今知りたいのはその一点だ。何故お前が竜になっているのか。


「ふむ。それは俺も知らん。」

「まぁ知らないよな普通。って知らないだと!?」

「気がついたら竜になっていたのだ。俺も驚いたぞ。屋上から転落して死んだはずのお前は生きていて暢気に寝ているし、自分の身体は人外の生物になっていたのだからな。まぁ超現象では説明しきれない何かが起こっていることはたしかだが。」


たしかに驚いた。びびって逃げようとしたらその巨体に捕まえられるし、目の前で火の粉が舞うでかい口を開けられたかと思えば大声で吼えられる。本当に踏んだり蹴ったりだ。一瞬殺されるかとさえ思った。そしてその人外が親友だと知ったときも驚きで声がでなかったけど。というか正直コッチのほうがびびったかもしれない。


「ってことは何も分からないってことか?」

「いや、そういうわけではない。知らないうちにこの世界についての知識が頭に入っているのでな。とりあえずは一通り生活は出来ると思うぞ。」

「は?俺そんなんないし。」


知識は武器になり得る。それくらい大事なものだと俺は思ってる。

こいつはともかく俺それ持ってないってどういうこと!?


「まぁいいではないか。」

「良くねぇよ!お前人事だと思って・・・」

「ふむ。人事だが?」

「お前最低だよ!!」






                             第3話 終わり


2012/2/3改訂

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