改訂中
第22話はちょっと長いので前編と後編に分けました。
楽しんでもらえますと幸いです^^;
第22話更新です!
「アグリキュル国、国王の娘、フェリンシア・テルカ・レーゼリアス様を誘拐した大罪で、お前を捕縛する!!」
「・・・は?」
―ガシャンッ
「っていやいやいや、ガシャンて・・・俺かよ!?誘拐なんてしてねぇし・・・大体姫様なんてそんなお偉い人、こんなところにいるわけない・・・だろ・・・?」
手首を鎖で縛られた夜の視線の先には、涙目になってこちらを見つめているフェリス。彼女のその表情を見て、何か嫌な予感が駆け巡る。
周りの兵士等によってフードを外された彼女の蜂蜜色の髪は、蒼穹の空には眩しい太陽の光に照らされて、美しい金色に光り輝いていた。その神々しい光に一瞬魅入られて、漆黒の瞳を側めてしまう。
「・・・まさか、あんた・・・」
彼女の意を決した瞳を見て、その時夜は確信した。
「私は・・・
♪
「何処行ってたんですか!?もう集合時間過ぎてるじゃないですか!!」
「ふむ。しかしまだ試合は始まっていないではないか。」
「そういう問題では・・・もういいです・・・(この人に何言っても無駄だ・・・)」
試合前からもう既に疲れきった表情を浮かべて、ハークはこっそりと滂沱の涙を流す。そこへ係りの女性が来て、試合が終わったことを告げる。
「・・・いよいよですね。」
「うむ。今回は楽しめそうだぞ、少年」
グッとナックルを握るように持って、その鉄の感触を確かめるように手を開いたり閉じたりしている夏葉。それからハークの方へ振り向いて、行くぞと目配せをする。
「油断大敵ですからね。今後の生活費がかかっているんですから」
その目配せに返事してハークは黄緑色の瞳を夏葉に合わせると、生意気な笑みを浮かべてから試合場に向かって歩き出した。
『まだまだ盛り上がって行こうぜ!!!第4試合!!早速ペアを紹介するぜぇぇぇええ!!東側は第1試合で圧倒的な力を見せ付けて一瞬で見事に大男二人を撃沈させた拳を持つ野郎!ナツ&ハークの『白い夏』だぁぁぁぁあああ!!!そして西側!!常にフードと仮面で顔を隠している謎の二人!!噂では白は女!黒は野郎らしいぜ!!今回はどんな戦いっぷりを見せてくれるのか!?『ラヴリーうさにゃん』のモルゲン&ナハトペアぁぁああ!!!』
―ワァァァァァアアアアアアアアアアアアア!!!
『観客席も盛り上がってきたようだ!!それじゃあこの調子でどんどん行こうぜ!!第4試合、開始ィィイイイイッ!!!』
「風よ、掻っ切れ!風の牙!!」
司会が試合開始を告げる。先手必勝、とでも言わんばかりにハークは片手を前に突き出して、風で出来た不可視の狼を3匹放つ。その狼と一緒に夏葉もナックルに炎を纏わせて、敵陣に突っ込んでいった。
―ゴゥッ
炎が空気を燃やす音がフェリスの耳の真横を掠める。間一髪で頭をその反対方向に傾けたフェリスは、下から大剣をブンッとすごい勢いで振り上げるが、身軽な夏葉は余裕でその剣を身を捩ってかわした。
狼はフェリスの横を通り抜け、夜へ牙を剥く。しかしそれは彼の手中に現れた黒銀の剣杖によって一瞬で無に返される。
「何処からあんな剣が・・・もう一回!行け!風の牙!!」
狼が再び夜に向かうが、またもや剣一振りで跡形もなくなってしまう。ハークは舌打ちをしつつ、腰から短剣を抜いて構え、夜に向かって走り出す。魔術が相手に効かないのではないか、と考えたハークは遠距離戦から接近戦へと変えたようだ。
「モル、右斜め下。次、左」
「ふふっ、分かっているわ」
その時、抑揚のない無機質な声がフェリスに告げる。その瞬間、フェリスの右斜め下から炎が吹き上がる。それをステップを踏んで避け、左側から猛スピードで迫ってきた拳を大剣で横に薙ぎ弾く。
「ふむ・・・避けたか」
拳を避けられた夏葉はそう呟いて一旦距離を取り、拳を構えなおす。
(・・・攻撃が読まれたか?ふむ・・・ポーカーフェイスは得意な方だったんだが・・・)
「・・・右斜め後ろ、上少し右寄り」
「なっ!!?」
短剣を持ち構えたことによって近距離戦に変えたように見えたハークだったが、無詠唱で魔術を構成して風属性魔術をフェリスに打ち込んだ。しかしその打ち込もうとした角度を見事黒フードに当てられ、目を大きく見開いて相手を見つめる。しかしフードと仮面に隠れていて、表情を読み取ることは出来ない。
「少年、ぼけっとしている暇などないぞ」
「・・・っ分かってます!!」
「全然分かってない・・・・分かってないわ。ね?ナハト」
風の刃がフェリスを襲うが、最初から襲ってくる場所が分かっている為慌てる必要はない。最小限の動きで避ける。
ハークは夏葉に背筋が凍るような視線を向けられ、一瞬表情を固まらせる。それから短剣を構えなおすと、夜に向かって走り出す。
(・・・というかなんっでいつもあんな怖い目を向けてくんだよ!?あんな目、ヨルには絶対向けないくせに!!)
内心涙目になりながら、相手に向かっていったハークだったが、相手が剣を持っていないほうの手をスッと上げるのを見て一瞬動きを止める。そして相手が何かを呟いた。
「・・・風の、刃」
風で出来た不可視の狼が相手の周りに、黒いフードをはためかせながら何処からともなく6匹現れる。それは先ほどまでハークが使っていた風属性魔術だった。
「・・・おれと、同じ魔術・・・!!?何で!?」
一斉にハークに襲い掛かる。至近距離からの攻撃だったので、ハークは避けられる術がなく腕を交差させて防御の姿勢をとる。
―ドォオンッ
「油断大敵。そう言ったのは、お前だろう?少年」
しかし狼は6匹全て、爆発音とともに一瞬で消える。ハークと黒フードの間には拳を空に突き出している夏葉が立っていた。
―パサッ
間近で起きた爆発の影響で爆風がフードを煽り、風に揺られた漆黒の髪が姿を現す。
「その髪色・・・もしかし「よそ見している暇があるのかしら?」
―ガキャッ、ガキッ
大剣とナックルがぶつかり合う。その真下で頭を抱えてなんとか危機を回避したハークは、心臓バックバク状態で夏葉の後ろへ非難する。そして、夏葉たちの後ろでフードを被りなおしている相手を見据えて、頭に浮かんできたある人物と比較して観察する。黒髪を持っている人はかなり珍しく、ハークはその色を持っている人物は1人しか思い当たらない。
(・・・だけど性格違いすぎだし、まず戦闘から逃げないヨルなんて有り得ない)
「少年!考え事はするな!」
「あっ、はい!」
「貴方こそ他人を気遣っていていいのかしら?ふふっ」
―ガキィンッ、ガッ、ガキッ
妖艶な笑みを浮かべたフェリスはどんどん力で圧して、夏葉を端まで追い詰めていく。しかし端まであと数歩というところまで来た時、夏葉は真上に大きく跳び、フェリスの背後に一瞬で移動する。それを知ってかすぐ後ろに振り向き、大剣を盾にして夏葉の拳を受け止める。攻撃を受け止められた夏葉はそのままそこに力を加え続けた。
―ミシッ
「!!」
剣にひびが入るのを感じたフェリスは、拳の軌道をずらして衝撃を分散させる。そこから体ごと横にずらし、体勢を整える為に一旦遠くに引き距離を置いた。
ように見えた。
「氷結洪水」
―ゴォオオオオオオオオオオオオッ
渦巻いた雪と地面から吹き出る水が一斉に夏葉に覆いかぶさる。観客席にまで吹いた冷たい風は、近くに立っていたハークの服を一瞬にして凍らせてしまうほどの冷気を纏っていた。
先ほどフェリスは引いたように見えたが、実はこの魔術が発動する場所まで相手を誘導するのが彼女の役目だったのだ。そしてそれは見事成功し、夏葉は魔術の渦に飲み込まれる。
「!!最上級の水・氷属性魔術・・・」
この魔術が発動している間は、この場所はまるで極寒と化していた。観客席でさえ息が凍える程寒いのに、その寒さの原因である中心部にいる夏葉。誰もが試合終了を確信したときだった。
―ゴゥッ
渦の中から熱風が吹き荒れたかと思うと、次の瞬間。炎の渦が雪の渦と重なるように現れ、ドンッという爆発とともに魔術が相殺される。数秒後土煙が晴れ、その場にあった雪の渦と炎の渦は跡形もなく消え去ってしまっていたのだった。
―ワァァァァァアアアアアアアアアアアアア!!!
その相殺した本人は、余裕綽々の不敵な笑みを浮かべてそこに立っていた。その姿には傷ひとつついていない。
「・・・ふぅ・・・ちょっと危なかったのだ。さて、続きをやろうではないか」
やる気も失せることなく、常人が触れてしまったら怖気ついてしまうような殺気も健在のようだ。そして再び走り出す。
「少年、援護を頼む」
「はい!!風よ唸れ!竜巻!!」
因みに、竜巻は風属性魔術の上級。決してこれほど簡単に短縮詠唱で構成出来る魔術ではないことをここに記しておく。
その名の通り、風が渦を巻いてフェリスに襲い掛かる。竜巻は内側に引き込む力が働いている為、迂闊に動いて避けると巻き込まれる可能性があると考えたフェリスは、地に根を張るように足に力を入れ、全力で思いっきり大剣を振るった。
―ヴンッ
すると剣圧に圧された竜巻はいとも簡単に霧散する。しかし、その時夏葉は既にフェリスの横を通り抜け、夜の元へたどり着いていた。
先ほどのお返し、と言わんばかりにナックルにこれでもかというほど大きな炎を纏わせて、相手の顔面に向かって拳を突き出す。夜は頭を後ろに少しだけ傾けて避け、先ほどの攻撃と同時に右脇腹に向かって放たれていたもう片方の拳も、布が巻かれた剣杖で防ぐ。
「気づいていたか。ふむ、なかなかやるな」
「・・・・・」
感心したように呟く夏葉。それから剣杖で防がれた拳を一度引き、無詠唱で相手の足元の地面から炎を噴出させる。しかしそれも剣杖一振りで霧散させてしまう。そして剣が振られたその隙を夏葉が見逃すはずがなく、先ほど顔面に突き出した拳の軌道を変えて、下から上に向かって顎に振る。
―ガッ
姿勢を低くして避けようとしたもののもう既に頭を後ろに傾けていた為、その拳はカツッと仮面に掠ってしまう。そう、ほんの少し掠っただけ。しかし、恐るべき竜の腕力。そのたったひと掠りで仮面が真っ二つに綺麗に割れた。もしもう少し避けるのが遅かったら、頭も綺麗に真っ二つに割れていたことだろう。
二つに割れた仮面が地に落ちる。その瞬間、夏葉の目が大きく見開かれた。
「!!?お前は・・・「遅い」
夏葉の動きが止まったそのとき、夜は無機質な漆黒の瞳で相手を見据えてそう呟き、相手の腹に掌底を放つ。夏葉はその時上手く後ろに跳んだ為体への衝撃は少なく済んだが、その眼前に居る相手が思いもよらぬ人物だったため、夏葉の瞳は見開かれたままであった。
「・・・夜。お前が何故此処に・・・」
返事はない。
その代わり、無機質な視線と剣杖を向けられる。その無表情も剣も、明らかに親友に向けるべきものではない。
数秒間、沈黙が両者を包む。
「・・・・・。ふっ」
するとしばらくの間無言だった夏葉が急に笑い出す。それから目を閉じ、また開ける。不敵な、獰猛な笑みを浮かべて炎を纏った拳を構えた。
「どうやら寝惚けているようだな親友よ。俺がお前を起こしてやろう」
縦に切れ上がる瞳孔。それから膨れ上がるような殺気とともに夏葉は拳を振りぬいた。
第22話 ~前編~終わり