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自分と竜と仮想世界  作者: 狐白
第2章 銀色少女の紡ぐ唄
23/31

改訂中

前話の最後に出てきた「・・・誰この人」って言った人の視点から始まります。

「ねぇ、兄ちゃん・・・。ドアの前に人が倒れてるっ!!」


先ほど、ドアをすごい勢いで叩く音が外から聞こえてきた。

その音の原因が気になってしまった金髪に碧眼を持つとてもかわいらしい顔つきをしている少年は、兄にドアを開けるのを止められたのにも関わらずにドアノブを捻って内側に扉を引いた。すると、ゴンッととても痛そうな音とともに黒髪の青年が倒れてきたのだ。それに驚いた少年は目を大きく見開いて、部屋にあるソファーで何の本かは分からないが分厚い辞書みたいなものを読んでいる兄に半ば悲鳴じみた声を上げる。


「・・・先ほどの音はそいつが原因か・・・捨て置け。」


しかしその少年の兄は深緑の瞳に黒髪の青年を視界に一瞬入れたかと思うとまた辞書みたいな本に視線を戻し、冷酷な台詞を淡々と吐いた。


「えっ・・・でも・・・この人びょーきかもしれないよ?だってこんなところに倒れてるんだよ?もしかしたら重いびょーきかもしれない・・・」

「・・・顔色は」

「良いよ?」

「・・・息は」

「・・・・・規則正しい寝息」

「表情は」

「すっごく幸せそう。」

「捨て置け。」

「兄ちゃんっ!!」


結局最後にたどり着く結論はどれも同じらしい。

少年はぷーっと頬を膨らませると腕まくりをして、ドアの所で倒れている青年の脇に腕を入れるとそのままずりずりと部屋へ引きずっていく。そんな弟の姿を本から視線を離して見ると、兄は金色の髪を揺らしてふぅっとため息をつき、辞書みたいな本を埃を撒き散らすように勢いよく閉じた。













                        ♪













・・・あれ・・・おかしいな。この世界に、響は居ないはずなのに・・・。でも、金髪に碧眼はアイツの・・・


「あっ、兄ちゃん!この人、目が覚めたみたい!良かった~・・・なんか死人みたいにぐっすり寝てるから本当に死んでるのかと思った・・・」

「・・・・・。って・・・」


数秒、寝ぼけ眼で居たものの、何か違和感を感じて勢いよく上半身を起こして周りを見回す。

目の前には何処の天使だ金髪碧眼の美少年がいて、ちょうど夜の上からずり落ちてしまったタオルをかけ直してくれているところだった。夜はいまいち状況把握が出来ずに首を捻っていたのだが、ふとこの部屋に見覚えを感じる。


「闘技場に隣接してる、宿の部屋?・・・だよな」

「うん、そうだよ。君、ぼく達の部屋の前に倒れてたんだ。気分はどう?」


ぼそっと言った独り言に律儀に答えてくれたのは、タオルをかけ直してくれた見目麗しい少年だった。


(・・・全然響には似てないな・・・。ただ髪と目の色が同じってだけで)


「?どうかした?もしかして具合でも悪いの?」

「いや、大丈夫だ。心配してくれてありがとな。えっと・・・」

「あ、ぼくの名前はシィーリィ。で、ソファーに座っているのが兄ちゃんのヴェクス。よろしくね!」


輝かしいほどの笑顔を見せながら手を差し出してくるシィーリィという少年。夜は一瞬その笑顔に何処か見覚えを感じながらも、差し出してきた手を握る。それを嬉しそうに握り返してぶんぶん振り回す少年を夜は驚いたように見つめて、やっぱり何処も(きょう)には似てないな、と苦笑した。そして相手が名乗ってくれたのだから、自分も名乗らなくてはいけないなと思い名乗ろうとしたときだった。


「俺は「誰も貴様の名前なぞ聞いていない。目が覚めたのならさっさと此処から去れ。」


先ほどの少年の紹介ではたしか、ヴェクスと呼ばれていた深緑の切れ長の瞳を持つ青年が夜の言葉を掻き消すように言葉を放つ。夜は少年から視線を、ソファーに座って分厚い本を片手で持って読んでいる青年に移した。その時目に付いたのが、服の袖から少しだけ見えている腕に巻かれた包帯だった。


「兄ちゃんっ!そんな言い方は良くないよ!ごめんね。兄ちゃんっていつもこうなんだ。あまり気にしないでね!」


再びシィーリィに視線を戻し、夜は気にしてない、と笑う。その笑みを見て安心したのか、シィーリィは困ったように寄せていた眉を元に戻して笑顔を浮かべた。それからテーブルの上に置いてあったクロワッサン二つとマスカット(っぽい果物)、水が入ったコップをお盆に乗せて、夜が占領しているベットにまで運んでくる。


「はいっ。もう大食堂の朝食の時間が終わっちゃったから、これ。ちょっと少ないかもしれないけど食べて!」

「ありがとう。とても助かる。」


夜はお言葉に甘えてシィーリィからお盆を受け取る。喉が渇いていたのでコップを手に取り、それを口に運ぶ。


「うん!君はゆっくり食べてて。ぼく達は今から大会に出る為に闘技場に行かないといけないんだ。今はその集合時間の10分前だからもうそろそろ向かわないとね、兄ちゃん」


ヴェクスからの返事はないが特に気にしてないらしく、少年は支度を始める。いそいそと準備をしている少年を何気なく眺めながら水を飲む。


「ふ~ん・・・ゴクッ、ゴクッ・・・って今なんて言った?」

「えっと・・・集合時間の10分前だからそろそろ行かないと間に合わないよって。どうかした?」


不思議そうに首を傾げるシィーリィ。夜は彼の言葉の意味を頭の中で理解していくに比例して顔が真っ青に染まっていった。そして何かをぼそっと呟く。


「・・・え?ねぇ、君、本当は具合が悪いんじゃないの?大丈夫?」


顔を真っ青にしているのを具合が悪いのではないか、と心配したシィーリィが夜の顔を覗き込む。


「・・・大丈夫だ。」

「あっ、もしかして遠慮してご飯が食べられない、とか?別にこれはお金払って買ってきたわけじゃないから大丈夫だよ!それに、遠慮なんてしなくていいよ!」

「あ、あぁ。」


(って俺こんなことしてる場合じゃねぇッ!早くフェリスんとこ行かないと・・・)


シィーリィが気を使ってくれているのに良心が圧されてついつい返事をしてしまった夜だったが、実際ここでのんびり朝食を食べている場合ではない。フェリスに迷惑はかけたくない。


「あー、気を使ってくれているところ本当に悪いんだが、俺もちょっと急ぎで行かないといけないところがあってな。ベット貸してくれてありがとな、シィーリィ。」


ベットの下に丁寧に揃えて置いてあるブーツを履いて、夜はテーブルまで歩いて行ってお盆を置く。


「あ、そうなんだ。用事があるんならしょうがないよね。じゃあ部屋の外まで一緒に行こうよ。どうせ今からぼく達も出るからさ。」


見るからに不機嫌オーラを撒き散らしているヴェクスを横目で見ながら、夜は首を縦に振って部屋から出て行くシィーリィの後に続く。ヴェクスは壁に立てかけてあった二本の長剣を腰のベルトに挿してから部屋から出てくる。その部屋の扉には523と書いてあった。


―ガチャッ


ヴェクスが鍵を扉に挿しているとき、こちらに走って向かってきている人影が見えた。その人影はどう見ても体の大きさに合ってない大剣を背中に背負って、うさみみがついているフードを被っている小柄な人影だった。


「に、兄ちゃんっ」


その姿を見たシィーリィは目を大きく見開いて、ヴェクスの後ろに隠れてぶるぶると震えだす。ヴェクスもシィーリィの声を聞いてその姿を目に捉えると、先程の倍以上に視線を鋭くしてその人影を睨みつけた。まるで何かを恐れているような二人の行動を疑問に思った夜は首を捻る。


「・・・一体どうしたんだ?」

「危険な奴なんだ!あ、あいつは昨日、兄ちゃんの腕を斬った。しかも剣一振りでぼく達以外を戦闘不能にした・・・。」


(だから腕に包帯を巻いていたのか・・・。)


そんなすごい奴がどんな人なのか見てみたい、と夜は二人が警戒して見つめている先に目を向ける。しかしその姿にものすごい見覚えがあって、夜は


「へ?」


と素っ頓狂な声で小さく呟いた。


(あれって・・・どう見たって、フェリス、だよな・・・?)


「兄ちゃん、あいつこっちに向かってくるよ!君も危ないから兄ちゃんの後ろに居たほうがいいよ!!」


フードと仮面で顔が隠してあって表情はよく見えないが、あれは間違いなくフェリスだ。彼女の手には夜の黒いフードマントと仮面が握られている。

夜は悪いことをしたなと苦笑する。おそらく時間になっても部屋に来なかったので、フェリスは心配して探してくれていたのだろう。それにしても・・・


(フェリスが、危険な奴、ねぇ・・・。多分記憶が曖昧なところで何かあったんだろうけど、フェリスがそんなことするはずないしな・・・)


夜が首を傾げていると、こちらまで歩いてきたフェリスが急に無言で抱きついてくる。


「ちょっ////何やってんだ?」


いきなり抱きつかれて驚き顔を真っ赤にした夜は、慌ててフェリスを離そうとしたが強い力で掴まれているため離すことが出来なかった。夜は戸惑いを隠せずに眉を寄せる。顔を夜の胸に押し付けているフェリスの顔が見えなかったので彼女が何を考えているのか分からなかったのだ。


「君!!大丈夫!?刺されたりしてない!?」

「・・・刺す?私がナハトにそんなことするはずないじゃない。ナハト以外ならいざ知れずナハトに私が剣を向けるなんて、有り得ないわ。」


シィーリィに答えたのは夜ではなく、夜に抱きついているフェリスだった。普段と全く違う話し方に、行動に違和感を覚え、ここにいるのが本当にフェリスなのかと夜は考えずにはいられなかった。


「あー・・・えっとモル、恥ずかしいんだが。」

「ふふっ。これはナハトが部屋に来なかった罰よ。」


妖艶に笑ったフェリスは顔を上げる。仮面の奥から彼女の澄み切った瞳が覗き、夜の目をじっと見つめる。そして片腕を首に回して、もう片方の手の人差し指を夜の唇の上に優しく乗せた。そんな彼女の行動にドキッとしながらも表面上は冷静を装い、夜は軽く笑う。


「それは悪かったな。つい道端で寝てしまったらしくてな。気がついたらもう朝だったんだ。おかげで昨日の夕飯も今日の朝飯も食いっぱぐれて腹ペコだ」

「今日はそんなことより楽しいことが待っているわ。だって人を斬れるんですもの。」


フェリスは楽しそうに笑うと、夜の首に回した方の手がフードマントを持っていて、それを後ろからふわっと被せられる。そして、もう片方の手が持っている黒い仮面を唇から滑らせるように被せた。

その瞬間、夜の顔から笑みが消え、何もかも拒絶するような冷たい雰囲気を纏う。この場にシィーリィとヴェクスなど最初から居なかったように視界から外し、抱きついているフェリスの腕からするりと抜けて、闘技場に向かって歩き出した。そんな夜を恍惚とした表情で見て、フェリスは自分の腕を夜の左腕に絡ませると彼に寄りかかるように首を預ける。


「君・・・昨日こいつの脇にいた人、だったの?ねぇ!」


シィーリィが叫ぶように夜の背中に問いかける。しかし先程までならこの問いに答えてくれていたかもしれない夜の声が少年の耳に届くことはなかった。

二人が見えなくなるまでそこに立ち尽くしていたシィーリィだったが、唐突に口を開く。


「・・・兄ちゃん。確か今日の試合って、昨日の試合で同じエリアで残ったペアどうしの試合だよね・・・?」


ヴェクスが首を縦に振ったのが、後ろからでも分かった。


「やっぱり・・・あの黒髪の人とも戦わないと、駄目・・・だよね・・・。」

「・・・・・行くぞ。」

「・・・うん。」













                       ♪













『さぁさぁ!!!お待たせしました!レディース&ジェントルメェン!!!大会二日目、やっと俺の出番だぜぇええ!!司会を担当するジーンだぁぁああ!!よぉろしくぅうう!!!』


武闘大会二日目は昨日とは全く別世界だった。闘技場の観客席には溢れんばかりの観客でいっぱいで、真面目なのは最初だけ、超ハイハイテンションの司会者がこの場を盛り上がらせて、闘技場内はまだ試合が始まっていないにも関わらず熱気で溢れかえっていた。


『それではぁあああ最初の試合、早速いってみようぜ!!エリア1で生き残った2ペアを紹介するぜぇぇえええ!!先ずは東側!11番、サンリア・ツィオペアだぁぁああああ!!そして西側、87番!!クラック・バルゴペアぁぁああああ!!心の準備は出来てるかぁああああい!?出来てなくても試合は始まっちまうぜ!それじゃあいくぜ!第一試合、開始ぃいいい!!!』


こうして二日目、最初の試合の火蓋が切られた。













                        ♪













「人間の祭りってのはこうも騒がしいものなのか?」

「そうですね。大体毎年こんなかんじですよ。それよりアシュテカ様は一体何用でこんな辺鄙な国に来たのですか?」


眼下では人と人が最強を決めるためにお互いの武器を交えているのが見えた。それを馬鹿にしたような冷たい瞳で見下し、アシュテカは嘲笑うように唇を吊り上げる。


「・・・王様への手土産、だな。」

「・・・?は、はぁ。」

「別に特別な意味はない。そのままの意味だ。」

「余計訳が分からなくなるんですけど・・・。」

「気にするな。お前には関係のないことだ。・・・とにかくお前は引き続きこの国に潜伏していてくれ、との上からの命令だ」

「上からって・・・アシュテカ様の上って王しかいらっしゃらないじゃないですか。」

「まぁ、そうだな。細かい事は気にするな。禿げるぞ。・・・そろそろ俺は行く。」

「縁起でもないこと言わないで下さい・・・最近気にしているんですから・・・。気をつけて下さい、アシュテカ様」

「あぁ。じゃあ次は育毛に効くという薬草でも土産に持ってきてやろう。ではな」


背中から漆黒の翼を出し、アシュテカは部下をからかってから“王様の手土産”の為に何処かに飛び去っていった。その場に残された部下はそっと自分の頭の上に手を乗せて、


「・・・はぁ・・・。」


と悲しげにため息をついて、地面から100mはあろうかという塔の上から飛び降りる。それから何事もなかったように再び人間に紛れ、一匹の魔物が溶け込んでいった。






                          第17話 終わり


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