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自分と竜と仮想世界  作者: 狐白
第2章 銀色少女の紡ぐ唄
19/31

改訂中

ユニークアクセス数が1000を超えました!

ここまで読んで下さった方々に感謝です^^

まだまだ未熟ですがこれからもよろしくお願いします!!

 昨夜、夜が宿屋に急いで戻ってみたところ、二人が帰ってきたのは夜が宿屋に戻ってきた数分後。その為夜が夏葉に説教をくらうことはなかった。ハークと夏葉のおかげで宿泊場所を確保できた三人は、闘技場に向かいその建物に隣接している宿に着き、疲れていた三人はすぐに寝付いてしまったのであった。






朝。


「さて、皆が起きたところで現状把握をしてみたいと思うのだが。」


朝開口一番、夏葉が口にしたのはこの台詞だった。

まだ寝ぼけている夜と、比較的朝には強いハークはこの言葉に首を傾げる。何故朝っぱらからそんなことをしようとしているのか検討がつかなかったからだ。しかし夏葉の表情は真面目で、どう見てもふざけているようには見えない。それどころかとても深刻な顔をしていた。


「今まではなんとかやってこれたが、そろそろ金が底をつきそうなのだ。」


貨幣が入っている巾着を鞄から出して、その袋をバッとひっくり返す。するとそこから出てきたのは、金貨が一枚と銀貨が二枚、銅貨が五枚、木貨が十枚であった。日本円で換算すると102万510円である。それの何処が、“金が底をつきそう”なのか夜には全く分からなかった。まだ後100万以上手持ちにあるのだ。

しかしハークは理解できたようで、暗い表情を浮かべていた。


「ふむ。金貨は普通の店ではあまり使われていないのだ。金貨をもし使ったとしてもお釣りがなくて困らせてしまう。だから、実質上使える金は銀貨二枚と銅貨五枚、それから木貨十枚なのだ。」


夜が理解できないのを分かっていた夏葉は、金貨を人差し指で押さえて軽く弾き、使えるのはこれ、というふうに金貨以外の貨幣を人差し指で丸を描いて囲む。


「何処かで崩せればいいんだけど・・・。多分武器屋とかだったら大丈夫かもしれない。」

「そうだな。武闘大会に出るついでに武器も買っておいた方がいいだろう。それから、大会上位に残ると賞金が手に入るらしいから、今回は宿泊場所の為だけではなく、今後のことを考えて賞金狙いでいこうではないか。」


昨夜、闘技場に申し込みに行った二人は受付の人に簡単に説明をしてもらったのだ。それを簡単に説明すれば、


①相手が気絶、場外または降参すれば勝利

②武器の種類は問わず(但し薬品の使用は認められていない)

③各部上位入賞者5位までは賞金がもらえる。その他豪華特典付き

④大会出場者には闘技場に隣接している宿屋を提供される(食事は朝夜のみ)

⑤相手を殺してしまった時点で失格


等など。他にもいくつか説明があったような気がしたが、全てを覚えていたわけではないようなので夏葉は基本的なルールだけを夜に説明した。この説明からいくと、武器はかなり大事になってくる。素手対武器持ちでは武器持ちの方が有利になる可能性がかなり高い。


ということで、三人は朝食を食べ終えた後、武器屋に向かうことになった。







「・・・ふむ。今思い返せば夜は丸腰だったのだな。」

「あぁ、だから戦闘のときになるとヨルは逃げ出してたんだ。」


妙に納得した表情で夏葉とハークは武器屋に着いた途端呟いた。

二人にはまだレーヴァテインのことを話していない夜は、それを聞いて煮え切らないような返事をする。


もし、夏葉にレーヴァテインのことを話すとなると、必然的に今自分が此処に居る目的も話さなくてはいけなくなる。多分、夏葉はこの目的のことを知らない。そう感覚的に夜は感じていた。夏葉がこの目的のことを知っていたなら、ハークが着いてくることを了承しなかったはずだし、その目的に向かってなんらアクションを起こすはずだ。夏葉は基本、そういうことをきちんと考えて行動しているのは、親友である夜だからこそよく分かっている。だから、


だからこそ話すことは出来ない。


《どうしました?ご主人様。お二方はもう武器屋の中に入っていきましたよ?》


(・・・あぁ、分かってる。ありがとな。)


《い、いえいえ////そんなこと朝飯前です!》


少々上ずった声で、もしレンの姿が見えていたら胸を思いっきり張っているんだろうな、と夜は微笑しながら武器屋の中へ入っていった。

何を基準にしてこの武器屋を選んだのか、夜にはわからなかったが今度こそRPGによく出てくる古臭い感じの店だったので、顔には出さないが内心少し興奮しながら周りを見回す。すると物珍しそうに周りを見回している夜が気になったのか、カウンターにいた顎に髭を生やしたおじさんがこちらにサンダルをカタカタ鳴らして歩いてくる。


「いらっしゃい。もしかして武器屋に来るのは初めてか?」


頭に深緑のバンダナっぽい布を巻いて、元は綺麗な白だったのだろう薄汚れたTシャツに、ラフな緑のズボンを穿いている。優しそうな、でも芯が強い感じの人で夜はこのおじさんに少しばかり好感を持てた。


「あぁ。おじさんがこの武器全部作ったのか?」

「まさか。中にはたしかに昔鍛冶屋をやっていたときに俺が作ったものもあるが、ほとんどは大量受注して他のところから買ったものさ。」


こじんまりとした店の中に並んでいるのは、多種類の武器。剣、弓、鈍器、杖、ハンマー、ナックル、盾等など。この世界では機械というものがない所為か、数も大量というわけではなく、各種類約五つずつ置いてあった。またその五つの中でも同じ形の物はひとつとしてなく、人の手で作られた温かみを感じることが出来る。


「此処に来たからには武器を買いに来たんだろう?もし良かったら見繕ってやるが。」


おそらく好意から言ってくれたのだろう。夜としては結構嬉しかったりしたのだが、それをレーヴァテインが許してくれるとは到底思えなかった。きっとまた夜が武器を手にとった瞬間にマナレベルに分解されるに違いない。


「あ、だ、大丈夫だ。俺じゃなくてあの二人が用で来たから。」


そして夜のその推測は正しい。もし夜が武器を手にとって見ていたら、間違いなくその武器はこの世から消えていたことだろう。


《ご主人様は他の武器(やつ)なんていらないですよね?必要ありませんよね?だって私がいるんですから!ね?ご主人様?》


(も、勿論だ。レンがいるから大丈夫だ)


《・・・ご主人様////》


恍惚とした声音で言うレーヴァテインを一瞬、怖いと感じてしまった夜だった。


「そうか。ならしょうがないな。好きなだけ見ていってくれ。手にとって見てくれても平気だから。そんでもし気に入ったら買っていってくれな?」

「あ、あはははは・・・ありがとうございます」


乾いた笑みを浮かべて軽く頭を下げると、明後日の方向を向いて顔を真っ青にする。店主はそう言って下手くそなウィンクをして笑うと、武器を見て悩んでいる夏葉とハークの方へアドバイスをしに行った。そして背中から妙な威圧を常に感じるようになってしまった夜は、


(・・・ここにいたら気が休めない!!)


と心の中で叫び、武器を選んでいる二人に外で待っている、と声をかけて武器屋の外に出たのだった。外は昨日と違って快晴で、心地よい風が空を見上げた夜の髪を揺らしていく。


「あぁー・・・やっぱ和むなー・・・。」


目を気持ちよさそうに側めて快晴の空を見つめていた夜だったが、レーヴァテインの声で我に返る。


《今日は本当にいい天気ですね~。日向ごっこしたら気持ちよさそうです》


(そうだなー。日向ごっこなら出来れば草原でしたいな・・・。)


ぼーっと空を眺めていたが、武器屋から出てきた二人が視界に入ったのでそちらに視線を向けた。夏葉の手には見るからに重そうな鉄のナックルと直径が30cmくらいの短剣が二本、ハークの腰には短剣が一本ベルトに挿してある。


「それで殴られたら痛そうだな。」

「ふむ。試してみるか?「その言葉そのまま返す。」


ちょっとした冗談なのにつれないな☆、と口を少し尖らせて夏葉はつまらなそうにナックルを鞄に仕舞い込んだ。そして短剣を二つ夜に差し出した。


「?なんだよこれ」

「お前のだ。長剣は重くて使えないだろうから、誰でも使えそうな短剣にしておいたのだ。持っておいて損はないと思うぞ。」


夜の頬がひくっと引き攣る。

もしここでこの短剣を受け取ってしまったら・・・


ケース①短剣を受け取った場合


―パンッ


《ご主人様?いらないですよね?私だけが貴方の武器なんですから・・・うふふふふふふ》


「おい夜、今一体何をやったのだ?」

「ヨル!それってあのときとおんなじだよな!?一体どうなってるんだ?」

「「説明しろ!!早くッ!!」」


(・・・これはまずい。非常にまずい!だが・・・)


ケース②短剣を受けとらない場合


「武器はどうしても必要になってくる。何でそんなに嫌がるのだ?」

「そうだよ!それに今まで武器がなかったから逃げ出してたんでしょ?そんだったら武器が手元にあったほうが安心じゃん。もしかして何か他に理由があるのか?」

「ふむ。夜、親友に隠し事はなしだぞ。何を隠しているのだ?」

「「説明しろ!!早くッ!!」」


(どっちにしろ結末は同じじゃねぇか!!くそっ・・・一体どうすれば・・・)


1人で百面相をしている夜を夏葉とハークは訝しげに見る。しかし思考に没頭している夜はそれに気がつくことなく、俯き顔を真っ青にして1人でなにやらぶつぶつと呟いていた。そして、夜はふと思いついた。


(レン?)


《何ですか?》


そしてレーヴァテインを呼ぶと、何言ってんだというような恥ずかしい台詞を、あまりに考えすぎて頭がおかしくなってしまったのか、夜はすらすらと並べ始めたのだった。


(俺にとってレンは1番だし、レンがいないと俺は何も出来ない。レンがいれば俺は他の武器なんて要らないし、要も必要ないんだ。)


《ご、ご主人様・・・////》


(だからたとえ俺が他の武器に触ったりしても別にそれはただの武器であって、俺の本当の武器はレンだけなんだ。レンが、レンだけが俺の大事で大切な、本当の意味での要なんだ。レン以外は興味ないし、レンだけが俺の傍にいてくれればいい。)


もう自分で何を言っているのか分からない状況に追い込まれてしまった夜の口は止まらない。目は据わっていて、とてもじゃないが今の状況を本人が自覚してしまったら恥ずかしさで死んでしまうだろう。しかし、それとは反対に、この台詞を言われているレーヴァテインは感動の涙を流して恍惚の表情を浮かべている。


(だからレン、俺だけを見てくれ。俺ももうあんたしか目に入らない。レン・・・だから俺が武器を手に取ったとしても気にするな。レンはレンのままが1番いいんだから。な?)


《はいっ♡ご主人様////》


「・・・・・夜?どうしたのだ?」


夏葉が怪訝な表情を浮かべて夜に声をかける。すると夜は一瞬で我に返り、今までのことを綺麗さっぱり脳の彼方へ追いやると、何事もなかったかのように微笑を浮かべて短剣を受け取った。どうやら夜は記憶の隠蔽を選んだようだ。短剣を受け取った途端、瞳が光を宿し、


「はっ・・・俺は一体いままで何を・・・」


と手元にある二本の短剣を見つめ、疑問を浮かべて呟いていた。


「さて、武器を買って金も細かくなったのだから、昼食でも食べに行くとするか。」


夏葉はジャラジャラと音がする、以前より重くなった巾着を持ち上げる。どうやら金貨が崩れて銀貨になったようだ。因みに、先ほどの武器全て合わせて30万だそうだ。それが安いのか高いのか分からないが、取り合えずこれでしばらくは大丈夫そうで安心した、と夜は息を吐く。


「そうですね!何処か安くてうまいところがあると良いですけど・・・。」

「うむ。とりあえずここら辺を模索してみるのだ。」


そして夜は昨日約束をしていたことを、昼食という言葉によって思い出した。昨夜、あの白いうさぎの着ぐるみを着ていた少女と出会って、成り行きで助けてしまい、成り行きで武闘大会に出ることになってしまった。いや、あれは成り行きではなく、どちらかといえば少女の馬鹿力に脅された感が否めない。

昨日腕を思いっきり捕まれたことを思い出し、無意識のうちに片腕を押さえてしまう。それほど痛かったのだろう。


「ちょいと前のお二方。俺少し用事があるから昼食は別々ってことでいいか?」


あの痛みに背は変えられない。多少怪しまれても仕方がない、と踏ん切り夏葉たちにそう言う。すると意外にも何も聞かれることもなく銀貨を二枚渡される。


「うむ。実は俺たちも賞金獲得のために少し特訓しようということになってな。先に闘技場に帰っていてもらおうと思っていたから都合がいいのだ。一応言っておくが、日が暮れる前に帰ってくるのだぞ。」

「だからあんたは俺の親かっ!そんなの分かってるって」


どうやら運が良かったようだ。これなら怪しまれずに済む、と胸をなでおろして夜は二人と別れ、待ち合わせ場所に向かった。

因みにだが、夏葉が竜だということはハークにばらしていない。後で夏葉に夜が聞いたところ、竜は魔物の一種にカウントされており、もし竜だとばれたらギルドから討伐隊が派遣されて戦闘になってしまう、だとか。もしばれて人間100人に囲まれたところで負ける気はしない☆、と悪戯な笑みを浮かべて竜本人が言っていたので死ぬことはないと思うが、出来るなら騒ぎは起こしたくない。一応夏葉が炎を操ることが出来るのは魔術だとハークにいってあるのだが、それが魔術ではないとばれるのも時間の問題だと夜は思っている。


《ふんふふんふふふん♪》


(なんかすっごいご機嫌だな、レン。どうしたんだ?)


《なんでもありませんよ、ご主人様♡》


何故か妙にテンションが高い彼女を不思議に思ったが、これ以上何も聞いてはいけないと本能的に察した夜はそれ以上何も言わなかった。

そんなこんなで、昨日の待ち合わせ場所に着く。そこで数分ぼーっと突っ立っていると、


―ぽふぽふぽふぽふ・・・


という不可思議な音が聞こえてきて、それと同時になんとも不思議なことか自分の名前を呼んでいる声が聞こえてきたではないか。


「ヨルさーん!」


そして姿を現したのは、真っ白な猫の着ぐるみを来たフェリスだった。首には鈴がついた赤い首輪が巻いてあり、右耳にはピンクの花がついている。その姿は猫好きの夜にはたまらない。抱きついてもふもふしたい気持ちを抑えて、彼女の頭の上にぽんと手を置いてふわふわするだけに留めておいた。


「あっ、ちょっと・・・恥ずかしいです////」

「猫は反則でしょ。もうちょっとだけ、な?」

「・・・分かりました////ちょっとだけ、ですよ?」


―ふわふわふわふわ・・・


「はいっ、もう終わりですっ////」

「えぇー。もうちょっとだけ「だめですっ!」


着ぐるみを被っていて今どんな表情をしているかは分からないが、きっと顔を真っ赤にしていることだろう。彼女は両手を上げて夜の手から逃れると、距離を取ってから猫の頭をスポッと取ってしまった。その途端に夜の興味は薄れ、先ほどまで柔らかい表情だったのを元に戻し、きっぱりと撫でるのを止める。


「あ・・・。」

「どうした?」


すると彼女は少し残念そうな顔をして、夜に聞かれると首を横に振って、


「な、なんでもないです!じゃあ昼食を食べにいきましょう!!」


と顔が真っ赤なのを隠すように、また猫の頭を被って先に歩いていってしまう。夜は挙動不審な行動をするフェリスを見て首を傾げたあと、遅れたらはぐれてしまいそうだったので小走りで追っていった。


(・・・それにしてもなんでいつも着ぐるみ着てんだ?単純に考えて顔を隠す為・・・だよな?でもあれじゃあ逆に自分から此処ですって言ってるようなもんだと思うんだが・・・謎だ・・・)


後姿の白猫を見つめながらあれこれ考えているうちに、彼女のおススメだという一軒のこじんまりとした店に着く。それも街道からものすごい逸れたところにあり、普通に探索していたら見つからないような場所だ。これも追っ手にばれないように、だろうか。


「此処です。このお店のランチがものすごくおいしいんです!!さ、早く入りましょう!」


―チリンチリン


「いらっしゃい、フェリスちゃん。あら、連れかい?珍しいね。まぁゆっくりしていって」

「こんにちはおばさん。いつものランチを2つお願いします!」


恰幅のいいおばさんが二人を出迎えてくれた。フェリスがメニューを頼むと元気よくあいよっ、という返事が帰ってきて、店の裏に料理を作りに入っていく。それを眺めながら、夜はフェリスが選んだ窓際のテーブルに向かい合って座った。

とても落ち着ける雰囲気のこの店をお気に入りだというフェリスの気持ちも分からなくはないな、と夜は無意識に肩の力を抜いて窓の外を見ていた。


「そういえばさ、フェリス。どうしてまた武闘大会になんて出ようと思ったわけ?」


ふと疑問に思ったことを口に出してみただけであって深い意味は何もなかったのだが、目の前の彼女は困ったように眉を寄せて苦笑する。それを見た夜は一瞬驚いたように目を見開き、やっぱいい、と首を横に振って苦笑し違う話に替えるのだった。


「飯食べ終わったら何するんだ?」

「闘技場に行って登録してこなくてはいけないんです。で、そのときにあまり顔を知られるとまずいので、ヨルさんには悪いんですが闘技場にいるときはこの仮面をつけてもらってもいいですか?」


と申し訳なさそうな顔で鞄から出したのは、二対の仮面だった。どちらも目だけを隠す仮面であったが、ひとつは全体的に白で右の目の下の部分に赤い模様が入っているもの。もうひとつは黒で左目の下に青い模様が入っているもの。どちらも何処か異様な雰囲気を漂わせている。そして夜に渡されたのは黒い方の仮面である。その仮面を手に取ってみると氷のように冷たく、無機質な感じが伝わってきた。


「この二つの仮面は対なんです。私がつけるほうは激情の仮面、ヨルさんが手に持っているのは冷酷の仮面という“魔具”です。こっちの激情の仮面をつけるとつけた人は感情が大きく昂り、所謂興奮状態になります。冷酷の仮面をつけた人は感情を抑制され何も感じなくなるといわれています。」

「・・・いわれて、います?」

「はい。まだ試したことがないので実際はどうなるか分かりません。」

「え・・・?」


仮面をテーブルの上に戻す夜。しかしそれをまたフェリスに握らされる。


「大丈夫ですっ!これは国宝級の“魔具”ですから言い伝えどおりになるはずです!!」


何処からその自信がきているのか、自信満々に言うその姿からは嘘を言っているようにはみえない。それに、だ。


(もしかしたらこの仮面のおかげで敵に相対しても体が震えないで済むかもしれないしな・・・。)


感情が抑制される、というのがどうゆう意味の抑制なのか実際につけてみないと分からないが、それでこのトラウマ的なものを改善できるのならいいのだが。


「それにフードマントを被れば完璧です!」

「ただの怪しい集団じゃねぇか!!」


思わずその姿を想像して突っ込んでしまった夜だったが、一瞬悲しそうな表情をした彼女を放っておくことは出来なかった。


「大丈夫。ちゃんとその時になったらつけるから心配すんな。」

「あ、ありがとうございます!それにヨルさん自身は気づいていないようですが、その黒髪黒目は結構目立つんです。」

「そうなのか?」

「はい。多分一度その色を見たら誰も忘れないと思います。とても珍しいですから。」


夜は納得しずらいような顔で自分の前髪を掴む。

地球では当たり前のように存在している髪色目色がこの世界では珍しいことに多少驚く。こちらからしてみれば、夏葉の赤い髪とかティオの銀色の髪とかの方が驚いた。それがこちらの世界では当たり前なことに、何か形容しがたい感情を覚え、難しそうに眉を顰めていたときだった。


「はい、お待ちどうさま。ランチセットだよ。」

「あ、来ましたよ!ヨルさん。」


先ほどの恰幅のよいおばさんが来て、テーブルにほかほかと湯気が出ている料理を並べていく。温かい笑顔を浮かべてごゆっくり、という言葉をかけると、おばさんは別のお客のところに注文を受けに行った。


「うまそうだなー」

「じゃあ早速食べましょう!」


目を瞑ってお祈りをしてからスプーンを手にとってコンソメスープを飲むフェリスを見て、夜もいただきます、と小さな声で言ってから食べ始める。因みにランチセットの内容は、コンソメスープ、焼きたての胡桃パン、野菜サラダ、魚のムニエルとデザートの(桃っぽい)果物だ。


「すっごいうまいな。」

「ですよね!私、ここのお料理が一番だと思います。因みにですが、日によってメニューが微妙に違ってくるんですよ?昨日はじゃがいものポタージュとジャンクダックの素焼きでしたし。」


口にムニエルを入れる。


「へぇー・・・って・・・ごほっ!!げほげほっ」


そしてむせてしまい慌ててコンソメスープを飲む夜。それに驚いたフェリスも持っていたスプーンを落としてしまう。


「ど、どうしたんですか!?大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから気にしないでくれ・・・ごほっ。」

「そうですか?ならいいんですけど・・・」


心配な表情でこちらを見てくるフェリスに申し訳なく思いながら、今度は気を取り直してムニエルに再度手をつけ始める。そして頭の中にずっとジャンクダックの名前がぐるぐる回っていた。


(ジャンクダック・・・あれ食用だったのか・・・ってかこの間俺、唐揚げっぽいやつ食べなかったっけか?・・・いやいやいや、考えるな考えるな)


《因みにご主人様?今食していらっしゃる魚ですが、それも淡水域に生息している体長2m弱のフレッシュフィッシュっていう魔物ですよ?》


―がしゃんッ


「・・・・・。」

「・・・大丈夫ですか・・・?ヨルさん、なんか顔色が悪いようですけど・・・」

「・・・大丈夫。食えればいいんだ食えれば・・・」


怪訝な目を向けてくるフェリスに苦笑いをして誤魔化しながら、考えることをやめて味はとてもおいしかったのできちんと最後まで完食した夜だった。






                              第13話 終わり


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