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自分と竜と仮想世界  作者: 狐白
第2章 銀色少女の紡ぐ唄
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第11話 回旋曲(ロンド)《Ⅰ》


「先ず言っとくけど、俺は戦う術なんて持ってないからな。」

「知ってるよ。だから、はい。短剣あげる。」


首都から少し離れた草原に俺たちはいる。

何処から取り出したのか、レィシスの手には20cmほどの刃渡りのダガーがあった。実物を見るのは初めてだ。結構重たい。

というかこんなものを渡されても俺には使えないんだが。


「大丈夫だよー。そのために僕がいるんだから。」


ニコッと整った笑みを向けられても困る。お前がいるからなんだというのだ。こいつが脅迫する所為で、今から態々俺は死ににいくというのに。


「だから大丈夫だってばー。もしかして僕って信用されてない?」

「するわけないだろうが!会ったばかりで、しかも脅してくる相手に誰が気を許すかっ。」


別に脅してなんか、とか抜かしやがるこいつを睨み付けて黙らせた。

こいつの言っている“秘密”の内容はまだ聞いていないが、恐らく俺がこの世界に来たのと関係してる。だから夏にこのことを知らせるわけにはいかない。早急に終わらせて(無事に帰ってこれれば)適当に迷った、とか理由つければいい。前回やっているから信憑性が増すだろう。

・・・自分で言っててなんだか虚しくなってきた。両目から流れているのは決して涙ではない。俺は認めないからなっ!!


「むぅ。信用してもらわないと困るよー。今から魔物の巣窟に行くんだから。」

「ちょっと待て。さっき遺跡って言ってたよな?」

「うん、言ったよ?遺跡なんて大体魔物の巣窟になってるじゃない。言葉を変えても事実は同じだから別に気にするとこじゃないと思うんだけどなぁ。」


思いっきり気にするとこです。そこ。

遺跡と魔物の巣窟とじゃあどう考えてもイコールで繋がらない。連想ゲームでたとえ遺跡が出てきたとしてもそこから魔物の巣窟は出てこない。一体こっちの住人はどんな思考回路してるのか。いや、こいつが特殊なだけか?他に知ってる奴がいないからなんとも言えない。


「そういえばお前、目的は何なんだよ。」

「レィって呼んでって言ったじゃんー。呼んでくれないと答えなーいもーん。」


いらっ。


あ、こんなところにいい武器が。

今まで武器なんて使ったことなんてないし、手が滑ったってことで目の前にいる気持ち悪い奴にぶっ刺しても罰は当たらないよな?況してや足元の石に躓いて間違えて切っ先が奴に向いたまま斬っちゃってもおかしくないよな?


「流石にそれは僕も死んじゃうってば。ねぇヨル君?優しい君がそんなことするはずないって、僕信じてるからね。」


ただ心を読んでそう確信しているだけなのに、それはずるくないか?

心底安心したような表情を浮かべて近くに寄ってくるこいつを刺せないことぐらい、自分でも分かってる。それを知っていて口に出すのは卑怯だ。

視界に猫のように目を細めるレィシスが映りこむ。


「さ、いこ?」

「・・・今だけだからな。」

「ありがと。ヨル君。」


さっさと終わらせて帰らないと、夏が今度こそキレソウダ。もうグダグダ言ってる暇なんかない。こいつの言うことを今だけでも聞いておこう、そうすれば早く終わるはずだ。この際妙なプライドは捨てる。そんなじゃないと色々とやってらんない。

なんせこいつは人の心が読めるわけだし。プライバシーなんてないも同然。


開き直ろ。


「うんうん。その調子。」


やっぱ無理かもしれない。







遺跡に向かう途中、最初にエンカウントしたのはアヒルの魔物だった。

名前は『ジャンクダック』だったか。レィシス曰く至上最弱の魔物らしいが、果たして俺に倒せるのか。「もしこれ倒せなかったらヨル君が最弱になるね~。」とか頭にくること言ってる奴はガン無視の方向で。


「自分から攻撃してこないから大丈夫だよー。一回攻撃してみたら?」

「自分から攻撃してこないだけで、俺が攻撃したらこいつも反撃してくるだろ?」

「そりゃ勿論。でも大丈夫だよ。」


何を根拠に大丈夫なんて言っているのか。

この世界に来てから二度目のエンカウント。今度こそは今後の自分自身に繋げるためにも倒しておきたいところだ。だが最弱といっても、あくまで基準はこの世界であることを忘れてはいけない。

現代人の体力のなさをなめちゃいかん。


「この先これより格段に強い魔物が出てくるところに行くのに、そんなんじゃ入り口付近で死んじゃうよ?お互いの幸せのためにもここで身体をある程度慣らしておいたほうがいいと思うよー?」


いや首傾げて死んじゃうよーって言われても、全く危機感ないんすけど。


「てかさ、お前は戦えないわけ?」

「“今”のところは、ね。だからヨル君に代わりに戦って欲しいんだよー。お分かり~?」

「分からない。分かりたくもない。なんで俺なんかにしたんだよ、他にも市場に沢山人が居ただろ?」


俺じゃなくても良かったはずだ。筋肉むきむきの強そうな奴だって腐るほど見かけた。アーマー着てる冒険者っぽい奴だって沢山いた。それこそ一歩歩けば見かける頻度で。

自分じゃ言いたくないが、正直俺が強そうに見えるなんて目が腐ってんじゃないか?そんじゃなきゃ他の奴に声をかけたって良かったはずだ。

この疑問に対して、こいつはどう答えるのか。目を合わせるとレィシスは笑顔を浮かべる。そしていとも簡単に答えた。



「だって、ちょうどいたのがヨル君だったから。」



―カランッ


え、何?それ、冗談だよね?笑い飛ばしていいデスカ?

何この超絶簡単な理由!?もっと深い理由があればしょうがないかって気になったかもしれないってのに、これはないだろいくらなんでもさぁ!!


元凶が、俺が思わず落としたダガーを拾って手渡してくれる。不思議そうな表情をして。ふざけてんのかこいつ・・・?

それを受け取った手が震える。あまりの理不尽さにもう何もしゃべる気が起きない。これで俺、死んだら良い笑いものだよ。

ダガーを握る手に力が篭る。そして数メートル先にいるジャンクダックに向かって投与した。ごめんなさい八つ当たりです。それは狙い通り真っ直ぐ飛んでいって魔物の首の部分に突き刺さった。


「流石っ。僕が見込んだだけあるね!」

「嘘つけッ!!お前今さっき俺を選んだのは運命の悪戯だってほざいたばかりだろうがっ!!」


ゆっくりと魔物が血を噴いて倒れる。どうやら急所を一発で貫けたらしい。

これがビギナーズラックってやつか。

刺さったダガーを抜くために魔物に近づく。グロい。白目を剥いてぴくぴくと痙攣している姿は長く眺めていても気持ちの良いものではなかった。まぁ当たり前だけど。


「ぐっ。」


ダガーを抜くのに思った以上に力がいる。精一杯力をこめるとなんとか抜くことに成功する。抜いた衝撃で噴いた血が少し顔にかかってしまった。生臭い。


「その調子でまた血だらけになっていこうよー。」

「ならねぇよ!!」


拭くものがない上に、服で拭くわけには(駄洒落じゃないからなっ)いかないのでそのままにしておく。


「僕タオル持ってるよー。はい。」


必要はないようだ。ありがたくタオルを受け取って頬を拭く。正直気持ち悪かったので助かった。偶には役に立つんだなこいつ。


「回復薬とかも持ってきてるから必要なら言ってねー。」

「さんきゅー。」


さて、これから遺跡に着くまでにどれだけ身体が慣れるのか。最低夏に嵌められて対峙したスライムもどきと狼の魔物ぐらいは倒せるようになりたい。だが夏みたいに身体能力が上がったわけでもない俺が何処まで通用するのか。


「むっ、次は右方向からポイズンスネイクがくるよー。最初は噛み付いてくる気らしいから気をつけてねー。」

「了解。」


相手の心を読めるレィシスがいるからまだ良いのかもしれない。取りあえずは善処しようと思う。


こいつのためではなく、自分のために。











                       ♪











また“おねえちゃん”を泣かせてしまった。

目が覚めると、目を真っ赤にして泣き腫らした“おねえちゃん”がいた。今は疲れてしまったのかわたしのベットに寄りかかるようにして眠っているけれど、今までわたしが倒れてからずっとここに居てくれたのを知ってる。

“おねえちゃん”の手には透明に輝く小さな石がある。

私の表情は曇っていく。その石があるということは、またおじさんたちが頑張った証拠。みんなは教えてくれないけれど、わたしは知ってる。みんながいけないことをしてこの石を手に入れていることを。



知ってるけれど、わたしにはどうすることもできない。



正しくは、どうすることも出来なかった。

だって、わたしがこのことを知っていると分かったら、きっとみんなは悲しむと思うから。だから言えなかった。“おねえちゃん”にも何度も「やめて」って言った。何処にもいかないで、わたしの傍にただ居てくれるだけでいいんだよって。でも“おねえちゃん”は笑顔を浮かべてくれただけだった。返事はしてくれなかった。

もうどうすれば良いか分からなくなったわたしはあまりみんなと喋らなくなった。ううん、喋れなくなってしまった。喋ったら、知られてしまいそうで。怖かった。


でも、ハークだけとはおしゃべりした。ハークは“おねえちゃん”がある日うちに連れてきた男の子で、今は一緒に住んでる家族。

ハークとお話しているときはとても楽しかった。そのときは、彼は“何も知らなかった”から。気が楽だった。この子とならお話してもいいんだって、嬉しくて毎日毎日一緒にお話した。


でもある日、ハークがうちに来てから一年ほど経ったとき、ハークは用事があるからとみんなと出かけていった。行ってしまった。

止める暇さえなかった。気がついたら彼はいなかったから。

用事から帰ってきたハークの雰囲気はいつもと違って感じた。笑ってるけど、無理やり作ったような笑顔で。無邪気に輝いていた瞳は疲れきっていて。わたしは急になぜだか泣きたくなって、ハークの前で大声で泣いてしまった。そのときのハークのおろおろとした表情は偽者じゃなかった。本物だった。嬉しかった。だからもっと泣いた。声が枯れるまでずっと。

この後声がしばらく出なくなってしまったけど、それでも良かった。まだハークとお話していられるって分かったから。

だから今でもハークとはお話しする。前よりは回数が少なくなってしまったけど、ハークとだけは、どうしてもお話したかった。どんなにハークが忙しくても、必ず一日一回はお話しする。


それだけが、わたしをここに留めているものだと思ったから。


でも、もう手遅れ。

何もかも元には戻らない。わたしがここにいる限りは。


そう思って、昨日家を飛び出した。

もうすぐ日が暮れてしまいそうで、何処に行けばいいのか分からなくなってうろうろしていたときだった。おにいちゃんと会ったのは。

その後すぐハークに連れ戻されてしまったけど、おにいちゃんと遊んだときはすっごく楽しかった。今まであんなことして遊んだこと、なかったから。あのぶらぶら揺れるものの遊び方を知ることが出来た。椅子に座って足で蹴って揺らして遊ぶものだって、おにいちゃんに教わった。おにいちゃんの上は温かくて、気持ちよかった。もうちょっとで寝ちゃうところだったかもしれない。またあそこに行けば、おにいちゃんに会えるかな・・・。

でも、外を出歩いて“おねえちゃん”に心配はかけたくない。泣かせたくなかった。そんなつもりじゃなかったのに。わたしがいなくなれば、“おねえちゃん”はつらい思いしなくてもいいと思ったのに。そうじゃなかった。


もう、どうすればいいか分からないっ。


何をすれば正解なのか、何をしたら間違いなのか。その区別がつかない。考えても何も分からない。

するっと目から温かい水が零れ落ちる。落ちた水滴はわたしが抱いているうさぎのぬいぐるみに染みを作った。






                          第11話 終わり


2012/2/16改訂

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