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自分と竜と仮想世界  作者: 狐白
第1章 始まりの刻
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第1話 前奏曲(プレリュード)

はじめまして、狐白です。

初投稿で至らぬ点も多数あると思いますが、どうか最後までおつきあい下さいm(__)m

『異世界に飛ばされる』



最近よく見かけるファンタジーの定番ともいえる要素。


自分が生まれた世界とは異なる世界に主人公が“勇者”として召喚される。

ヒロインのお姫様と旅で得た仲間と共に魔王を倒す。

無事国に帰還した主人公はお姫様と結婚して平和で幸せなときを永遠に過ごした。


ハッピーエンド。


小さい頃、よくこういった物語を好んで何回も同じ絵本を読み返した。特に主人公がお姫様を悪の手先、あるいはドラゴン、魔王から助け出すシーンが好きだった。

格好良く颯爽と登場した主人公は、格好いい笑みを浮かべながら、格好いい剣を振るって、格好いい台詞を言いながら、格好良くヒロインを救う。

最初はへたれで臆病で泣き虫だった主人公は、旅の途中で色々なことに巻き込まれながらもどんどん成長していくんだ。


まるで来たときとは別人みたいに。


だってそうだろ?

現実でいくら格好いい剣を格好良く振るっても、それで人を傷つけたら犯罪になる。

飲めば深い傷も一瞬で完治するエリクサーなんて、そんな都合のいい薬があるわけない。

悪の手先なんて俺の世界観から言ってしまえばそこら辺で屯って居る不良ぐらいのものだし、魔王況してやドラゴンなんて実際に存在しない、あくまで幻想。

そんな平和な世界から危険溢れる世界に召喚された主人公が正気のままでいられるはずがないんだ。

価値観は全く別物だろうし、倫理観なんてどこかにぶっ飛ばさないとやってられない。

昔…戦争があった時代ならまだ身近に感じたかもしれないが、俺が生まれたのは今であって現在、争いのない平和な国、ニホン。


でも、物語の主人公はみんな最後は幸せだった。

好きな人と結婚して、子供をつくって、王様になって、国を支配して、好きなだけ好きなことが出来て、世界に必要とされていて、みんなに愛されていて、すべてが手に入る、そんな世界。


俺は、そんな主人公になりたかった。









                       ♪









微風。夜空。星。月。草。空気。赤い壁。


紅の髪が風に揺らぎ、そっと目を覚ます。

息を吸って、吐いて、吸って、吐いて、吸って、吐いて、吸って、吐いて。

しばらく眠そうに虚空を彷徨っていた瞳は次第に動きが緩慢になる。見ている人までが眠くなってきてしまいそうだった。

片手で頭をだらしなく掻き混ぜながら立ち上がる。

どうやら伸びをするようだ。長時間身体を動かしていなかったのか、背骨を始めとする骨の所々でボキボキッと硬い音が鳴る。それは何も遮るものがない此処ではよく響き渡った。



「よいっしょっと…いっちにーさん、し、ごーろーくななはーち」



唐突に準備運動が始まる。先ずはのびの運動から。

やる気のない声で数えつつ、面倒くさそうな表情を浮かべながらも一応一通り全てやる。勿論きっちり最後の深呼吸の運動までだ。


それが終わると今度は自分の身体を触り始める。何かを確認しているようだ。

彼の着用している服は奇妙な壊れ方をしていた。

何か鋭い物にひっかけた跡のような傷が所々にあり、全体的に黒ずんだような色をしている。

まるで全身に血を浴びて、それが渇いたような赤黒い色だった。

顔面にもそれと同じ色があり、不快に思ったのか彼は手で頬を拭っている。



「…あぁー、やっぱりか」



手にこびり付いたモノを草原に擦り付けると同時に、彼が下敷きにして寝ていた草が乾いた赤黒い血に染められていることに気が付く。



「はぁ、この制服結構値が張ったはずなんだけど…。ネクタイなんか元の色すら見えねぇし」



つまんで揺られるネクタイは元からその色だったかのように真っ赤に染まっている。


そもそも一体何が起きたというのだろうか。


全身を血に染めながらもぴんぴんしている姿は不気味さをいっそう際立たせる。彼自身は不愉快そうにこびり付いた血を懸命に爪で引っ掻いていて特に何かを気にした様子はない。


そしてそれ以上に不気味なのが、先程から彼の真後ろにそびえ立つ真っ赤な壁。


気づいているのか気づいていないのか、それとも気づいていないフリをしているだけなのか、現在寄りかかっているのがそれだ。もし気がついていて背を預けているのだとしたら相当肝が据わっているのだろう。

その巨大壁と称するに相応しいそれは驚くことに生暖かく、鼓動している。つまるところそれは生きている、なんらかの生物らしい。表面はざらざらとしていて皮のような感触だが、よく目を凝らして注意深く観察すると、そのざらざらの一つ一つがキラキラと輝いているのが分かる。

鱗、だろうか。


一瞬、壁が動いた。


だがこびり付いた血を剥がすのに夢中になっていて気がつかない。

どうにかしてこの制服を再生したいらしい。そんな数箇所の血を剥がしたところであまり変わりはないのだろうが、剥がすことに何か一種の快感を覚えたようで、気持ち悪くにやけながらその動作を繰り返す。

場にはペリペリと削る音しか聞こえない。もうこれだけで何十時間も消費可能だ。これだけで俺は生きていけるぞー的な心境で剥がしまくっていたが、今度こそ無視できない衝撃をその身に受けて動きを止める。

壁が本格的に動き始めたのだ。



「…ん? なんだよ、ったく。動くんじゃねぇよこの巨体が」



どうやら彼にはこの壁の正体が分かっているらしい。

そして壁からしてみれば青年はちっぽけすぎて、怒る気にもならないのか特にアクションは起こしてこないかと思いきや、この草原全体に響き渡るような音量の鳴き声が青年に降りかかった。

慌てて両耳を両手で塞ぐが間に合わなかったようで、地面に頭をつけてくらくらする頭を抱え込む。



「っせぇなっ! 少しは手加減ってものを覚えやがれ!」



―ガウッ、ガオオオオオオッ



「はぁ? 知るかそんなの。というかまだでけぇよっ。鼓膜が破れるっての」



どうやら彼と赤い壁は意思の疎通ができるようだ。

ますます赤い壁の謎が広がる。これは一体なんなのか。


いらっとした表情で壁を叩いたり蹴ったりするがビクともせず、逆に彼の手に擦り傷が刻まれていく。この壁に生えている鱗はちょっとした鋭利な刃物と同じくらいの切れ味があるようだ。

流石に学習したのか足で蹴っ飛ばすことにしたらしい。


しかし壁の正体は分からないまま。


会話(?)を終えたのか、青年は壁から十歩ほど離れる。

すると壁自体が白く輝きだす。そして威圧的な巨大な壁が消え去ると、そこに姿を現したのは壁と同じ色の髪を持った背の高い青年だった。

突然現れた青年は燃えるような赤い瞳を持ち、精悍な顔つきで彼とはまた違った雰囲気を持っている。すらっとしているその体に纏っているのは真紅のマント。



「うっわぁ…派手」



派手だ。

真上には夜空があるというのに、そいつは輝いていた。

全身真っ赤で他の色の居場所が見つからないくらい赤に占領されている。引き気味に呟いた全身血だらけの彼も人のことを言える立場ではないように思えるが、それよりは幾分かマシだと思えるくらいにその格好は痛々しかった。



「ふっ、その台詞は妬みから来ているのは十分承知だぞ。いくら俺が格好いいからってそこまで嫉妬しなくてもいいだろう?」

「はは、いつものことだけど今日はいつにも増してむかつくなこの野郎」



乾いた笑みを浮かべながらも目は笑っていない。キレる寸前の目をしている。

そしてそれに気がつかない、彼の怒りを現在進行形で倍増させている阿呆は真紅のマントをばさぁっと翻しながらウィンクをする。



「うむ、今日はいつにも増して俺は輝かしい。この広大なフィールドでこそ成り立つ美しさというものがある。それが今日の俺だ。くっくっく、どうだ、羨ましいだろう。憎いだろう。この美貌が、身体が、俺の全てが!!」

「…あぁ、お前の全てが憎すぎて憎すぎて仕方がないんだが?」

「そうだろうそうだろう!! 分かるか、貴様には余のこの喜びがっ! 生まれ変わった身体が疼いているのだ、早くこの世界を蹂躙したくて仕方がないと!」

「待てお前いつからそんな願望に目覚めたんだ? というか一人称変わってる」

「ふはははははははははっ、血迷ったか我が眷属よ。お前も我が一部であるならばこの血滾る獰猛な力が感じられるだろう!! さぁ行け! その身が朽ちるまで世界をぐちゃぐちゃにしてやろうぞ!!」

「なんだよぐちゃぐちゃって!? 唐突に稚拙になるな! というかなんで俺がお前の眷属なんだよ」

「眷属では不満か? では仕方がない、お前は俺の半身ということにしてやろう。全く我侭な奴だ。これで満足か?」

「…はぁ。もういい分かったなんでもいいからこれ、終わりにしねぇ? お前こんなんやってて恥ずかしくないのかよ? ごっこ遊びって、俺ら高校生だぜ?」

「ふん、お前はこの崇高なる遊びの目的を知らないからそういうことが言えるのだ。まぁいい。こんなことをしている暇があったら今の状況を整理していったほうが断然有意義だな」

「分かってんなら最初からやるんじゃねぇよ!」



只今の会話のみで息を切らしどっと草原に座り込む。



「お前の所為で一気に精神が消耗した」

「礼ならいらんぞ」

「するか!!」



青年は心底楽しそうな笑みを浮かべながら、そこら辺に落ちている石ころを丸く置き始める。その丸の内側に乾いた小枝を組み敷き、火の気のなかったはずの小枝に火がついて一気に燃え広がる。

焚き火を作っていたようだ。



「もう既にメルヘンの住人だよな。順応早すぎ」



何もない所から枝が燃え出した現象に驚きを隠せずに少し身体を引く。

それから彼は嘲笑する。だがそれに対して青年も返すように嘲笑して言った。



「何を言ってる? これが普通だろう」

「―ッ」



即座に反論されたことにむかつくよりも、”普通”という言葉がするりと出てきた相手が信じられなくて言葉を失くす。

少しの間沈黙が場を包むと、深いため息を吐いて彼は地面に寝転がった。疲れきった表情を隠すように片腕で顔を覆う。



「また寝るつもりか? 寝る子は育つと言うが、もうこれ以上育たなくても困らない体系をしているではないか。まぁ俺には勝らずとも自信を持っても良いと思うぞ」

「黙らっしゃい」



向かいからバカにした笑いが聞こえてきたが無視し、ふて腐れたように青年から顔を背けて横になる。



「…で、実際何があったんだ?」

「はっ、お前に話せることは何一つない。大体途中まで一緒に居ただろうが」



今更真剣な顔をつくっても遅い。そんな意味を込めてぶっきらぼうに言い放つ。しかし不機嫌な雰囲気も気にせず、焚き火を弄りながら青年は面白そうに「まぁそうだが」と頷く。



「怒りで尾がぷっつんする前に回想入るぞ、ナツ」

「うむ? 何で怒っているのだ?」

「ははは。お前、それ分かっていってんの?」

「それを聞くのは無粋というものだぞ、ヨル」



肩が震えてしまうのを苛立ちと共に抑えつけるのもそろそろ困難になってきた彼はそれでも引き攣る頬を、歯を食いしばって我慢する。

先にキレた方が負けだと知っているからだ。



「もう、いいわ。お前と会話すること自体が間違ってた」

「自らの過ちを認めるのはなかなか難しい。流石は俺の親友だ」

「お前も自分の過ちにいい加減気がついたらどうだ?」

「ふむ。誰が間違っているって? 俺はいつでもどこでも正しいぞ。それはお前もよく知っているだろう」

「あははは、死んでくれる?」



笑顔を浮かべて左手が拳をつくる。



「まぁそう怒るな。カルシウムが足りていないぞ」

「お前の所為でな!」



そして最初にキレるのはいつも彼の方であった。それゆえキレたときに自分をコントロールする方法もなんとなくだが知っている。

寝転がっていたはずの身体を起こして荒く息を吐く。



「…っはぁ。切り替えよう。昨日、何があったか、だったな」

「ふむ。出来れば朝の出来事から回想して欲しいのだが」

「まぁいいけどさ。…あー、朝はたしかフリフリエプロン、だったな。すっげぇ印象的だった」

「は?」


青年の間抜けな声が草原に響いた。






                             第1話 終わり


2012/2/1改訂

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